80話 修羅の道
後ろは完全にクラッドに任せる。
不安はない。この程度でやられるよえな鍛え方はしていないからな。
「かかってこいよ雑魚ども」
雷桜を振り、雷撃を放ちながら迫る敵を斬り殺す。
ざっと見た感じ1番弱いのはサイクロプスか。
でかい図体だが、コイツが最初に出現したのは10階層。
レベルは桁違いだが、今更苦戦するはずもない。
手前のサイクロプスがこんぼうを振り下ろす。
それを黒天で受け止め、雷桜で肩から腰にかけて斬り入れ、邪魔な巨体を蹴り飛ばす。
スキルを使えば簡単に片付くが、MPだけだった王の資質とは違い、原罪になってからはHP,MPの両方を40パーセントを使用する。
120秒間攻撃力以外は50パーセント、攻撃力は70パーセント上昇と段違いな効果ではあるが、使い勝手がいいとは言えない。
それに正直重ねがけした方が通常の火力は高い。
攻撃スキルである王の一撃は使用ごとにHPの10パーセントが持っていかれる。その分威力は半端ではないが、階層ごとに2回までしか打てないという制約があるため、回復しながらの連発はできない。
こういう殲滅戦などに関して言えば、前の方が向いていたかもしれない。
影化も乱戦で使った所で大して意味がない。
そう考えると俺のスキルは、かなり決闘に特化している。
――その中で現状使えそうなのは、
【スキル 疾風迅雷Lv6を使用します】
【ステータスがアップします】
レベル6になって効果時間も補正率も上がった疾風迅雷に関しては、前よりもかなり使い勝手はよくなった。
効果時間は15秒だが、使用MPも20とかなり少なく優秀だ。
視界の端ではアルベルトが登りきって、井戸周辺の敵を蹴散らしている。
敵の多くは俺とクラッドに集まっているため、アルベルトは多少放置していても良さそうだな。
次々に襲いかかる敵を斬り、それと同時に雷桜の雷で焼き焦がしていく。
影縫や毒牙と違って属性値がかなり高い分、雑魚モンスター程度ならこれだけで致命傷になる。
ハイオーガの斧を弾き、黒天で両断。
視界の半分以上は赤に染まり、骸の山を量産していく。
「クロードさん、生きてるっすか!?」
激しい金属と共にクラッドの声が聞こえた。
「てめぇこそサボってんじゃねぇだろうな!」
俺は振り返りもせずに、刺し殺したハイオークを蹴り飛ばし応える。
吠える元気があるなら心配は要らない。
悪鬼の刺突が眼前に迫る。
上体を逸らしそれを避け、伸びきった腕を切断。跳躍し脳天に雷桜を突き刺す。
脳から雷が放たれ、肉の焦げる臭いを漂わせ痙攣しながら倒れた。
そして上空からには数体のガーゴイル。
翼の生えた人とも獣ともとれない姿は醜悪で、厄介な事に奴らは上空から魔法を放とうと魔法陣を幾つも展開させている。
大して強くはないモンスターだが、数少ない魔法系のモンスターでゴブリンメイジのように地上に居ないのが面倒な相手だ。
数体のガーゴイルは俺とクラッドに狙いを定め、水の槍や炎の弾を放つ。
が、次の瞬間にはガーゴイル達のいる場所に巨大な火柱があがり、魔法もろともガーゴイル達を焼き尽くした。
「待たせたのじゃっ!」
「よくやったッ!」
見ると、井戸の中から顔を出すウルが魔法陣を展開していた。
――あとはリリアだけだが、ウルの魔法でどこまで殺せるか。
ハイオーガの顔面に黒天を突き刺し、後続に雷撃を放つ。
天には巨大な炎龍の姿。ウルの魔法だ。
「クラッドッ!」
「わかってるっすよ!」
俺とクラッドは正面の敵を蹴散らすと、ウルのいる方向へと駆け出した。
ここに居ては俺達に被弾しかねないし、あれの発動に邪魔になる。
「どけッ!」
進行を妨げる悪鬼を斬り殺し、クラッドが周りの敵を薙ぎ払い密集地帯に1つの通路ができた。
「ウルちゃん今っすよ!」
「わかっておるっ!」
俺達が脱出したタイミングを見計らって、炎龍は咆哮と共に蠢く群集を呑み込み焼き尽くす。
大規模な爆発をおこし、周囲の敵に与える被害も甚大なものだ。
「相変わらず凄まじい威力だな」
今のだけで軽く100は殺したのではないだろうか。
辺り1面焼死体が積み上がっている。
「ワシにかかればこの程度らくしょーなのじゃ!」
ウルは胸を張って嬉しそうに笑った。
そしてやっとリリアが井戸から這い出て、唖然としている。
「ほ、本当に凄いですねウルちゃん」
【残り時間45分】
「敵が少ない内に城内に侵入するぞッ!」
この期を逃せばまた馬鹿みたい群がってくる。
時間はまだ多少あるが無駄に出来ない。
俺達は生き残った敵を倒しながら内部へ侵入するべく走り出した。
立ちはだかるハイオークとハイオーガをアルベルトが殴り飛ばし、城の内部へと侵入した。
「ここからが本番だ。敵の数もそうだが、外の奴らよりも強くなってるから気を抜くなよ」
目指すは最上階の4階。そこの一室に核があるはずだ。
中は石造りで質素だが、どこも似たような作りでかなり複雑な構造だ。
注意して進まないと、同じところをグルグル回る事になりかねない。
――HPも思ったより減ってきている。どこかのタイミングで回復しておいた方が良さそうだ。
目の前には早速2階へと続く階段がある。
が、それを守護するように2体の武装したドラゴニュート。
リザードマンの上位種であり、近距離もそうだが魔法も使ってくる比較的面倒なモンスター。
トカゲ人間のようなリザードマンと比べると、かなり竜種に近い。2足歩行の小型のドラゴンと言ったところか。
コイツは雑魚モンスターとはいえ、その中ではかなり強い部類に入る。
右は巨大な両刃の斧を持ち、左はロングソードと盾。
「コイツらにかける時間はない。お前ら2人は左の奴を、俺は斧の方を片付ける」
「いくぜぇ!」
「あっ! ちょ、早いっすよアルベルト!」
言うや否やアルベルトは駆け出し、クラッドもそれに続いた。
「お前らは上手くサポートしてくれ」
「任せてください!」
リリアは弓を構え、ウルは魔法陣を展開しいつでも援護できる体勢をとった。
俺は影化を使い、ドラゴニュートの背後から黒天を斬りつける。
が、その刃は届くことは無く長く伸びた尾により弾かれた。
そして振り向きざま巨大な斧での一閃。
俺はバックステップでそれを回避。
ドラゴニュートは一瞬前のめりになる。その肩にはリリアの放った矢が刺さっている。
俺はその隙をつき雷撃を放ち、そのまま距離を詰める。
斧で雷撃は防がれたが、その巨大さ故に俺の姿は斧に隠れたはずだ。
俺は即座に側面にまわり、ドラゴニュートの脇腹を蹴りつけて吹き飛ばす。
壁に激突した瞬間に、ウルの放った黒槍が腹部を貫く。
まだ起き上がろうとするドラゴニュートの顔面に、黒天を突き刺しとどめを刺す。
「手こずらせやがって」
クラッドとアルベルトの方を見ると、向こうも丁度終わったらしく、四肢が逆に折れ曲がったドラゴニュートが転がっている。
あれは多分アルベルトの仕業だ。俺が言うのも変だが、中々えぐい事をする。
「よし、2階へ進むぞ」
ここまで俺達はかなり順調に71階層を進めている。
地上から攻めていればまだ城の外で戦っていたはずだ。
――カミルに感謝しないとな。




