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70話 千載一遇のチャンス



目の前には腕を斬り落とされ悶え苦しむグラシャラボラス。

背後のウルはここから抜け出さない限り、役に立たないどころかかなりのハンデになる。


大罪で一気に決めようにも、この状態で自虐スキルを重ねれば、その後一撃でもくらえば俺のHPは0になるだろう。


相手の腕はあと4本。左右に2本と、背中から2本。

1本はウルが焼き払い、もう1本は俺が斬り落とした。とはいえ、この状態でも手数では圧倒的に不利な状況だ。


だが速度に関しては俺に分がある。

多少賭けの要素はあるが、ウルを守りながらやるしかないか。


「ウル、そこにいる限りは守ってやるから動くんじゃねぇぞ」


「……クロード、すまぬ」


完全に足を引っ張っている自覚があるのか、いつもやかましいウルが、しおらしくなっている。


「気にすんな」


俺は改めて双剣を構える。疾風迅雷は既に切れている。

王の資質のバフのみがかかった状態。


一際大きく息を吸って、目の前の巨体へと斬り掛かる。

影縫と相手の剣がぶつかり火花に散らす。

左右からは2本の斧が同時に迫る。片方を毒牙で、もう片方を腕ごと蹴り上げ回避する。


拮抗している影縫を滑らせるようにして、腕を斬りつけてそのままの勢いで縦回転。

双剣を振り下ろすが、2本の斧により弾かれる。


――うっとうしい腕だなッ!


【スキル 疾風迅雷Lv1を使用します】


【ステータスがアップしました】


【疾風迅雷がレベルアップしました】


【更にステータスがアップします】


疾風迅雷により瞬間的に火力と速度が上がり、グラシャラボラスは不意をつかれ対応が遅れる。


剣を持っていた腕に影縫を深く斬り入れ、顔面を蹴り上げる。


視界の端で、クラッドとアルベルトがこちらへ向かっているのが見える。


あと数秒で加勢するだろう。

腕を切断まではいかなかったが、十分に深手を負わせた。

あの腕は使い物にならないだろう。


腕は斧を握る力すらないのか、斧を手放しダラリと垂れている。


――斬り落とすつもりだったが、踏ん張りが効かないぶん威力が下がったか。


グラシャラボラスは剣を振り回し、追撃を拒む。

双剣で受ける度に、鈍器で殴られたような衝撃が腕を襲う。


剣と斧の連撃を捌いていると、先程斬りつけた腕を振り回し殴打。


「――ッ!」

「クロードッ!」


予想外の攻撃に回避が遅れ、グラシャラボラスの腕は俺の腹部に直撃した。

相手も力が入らない分多少威力は下がっているが、それでも重い一撃となった。


――また動きやがるかあの腕は。


胃液が血液と共に逆流する。

だが、怯んでいる暇はない。


ウルが後ろにいる以上影化を使う訳にもいかない。

脚の負傷も重なり思った以上に行動が制限されている。


迫る切っ先を紙一重で躱し、反撃に出る。

双剣で迫る斧を叩き落とし、腕を重点的に斬りつけていく。


「――ッ! このタイミングで!」


ふと身体から力が抜けていくのを感じる。

王の資質の効果が切れたのだ。


グラシャラボラスはここぞとばかりに剣を振り上げ――。


しかし、次の瞬間。アルベルトが横から滑り込み、脇腹に強烈なボディブローをかまし、そのまま巨体を蹴り上げる。


「兄貴! 遅くなっちまった!」


そしてクラッドが敵の顔面を突き刺し、俺の横に並ぶ。


「ウルちゃん! 今のうちに離れるっすよ」

「わ、わかったのじゃ!」


ウルは俺の背後から駆け出した。

そしてその瞬間、俺の身体もグラりと傾く。


「――お主も一緒に来るのじゃ!」

「お、おい!」


ウルが俺の手を引いていたのだ。


「クロードさん! 今は俺とアルベルトに任せるっすよ!」

「回復したらすぐ来てくれよな兄貴! 俺達じゃ足止めしかできねぇ」


2人は協力しグラシャラボラスの腕を捌きながら叫んだ。

不安はあるがそれでも今はアイツらを信じるしかない。


「助かった。すぐ戻る、死ぬなよお前ら」


そしてウルに手を引かれ俺はリリアの元へ駆け出した。


「――クロード、すまぬ。ワシのせいでお主が……」


背を向けながらウルは今にも泣き出しそうな震える声でそう言った。


「気にすんなって言っただろ。お前が死ななかっただけマシな方だ。それにこんな傷はすぐに治る」


「うむ、それでも……すまぬ」


俺の手を掴む力が強くなり、ウルの心情が伝わってくる。


「――2人とも! 大丈夫ですか!」


リリアは合流するやいなや、俺に回復魔法をかけた。体中を緑色の光が優しく包み込み、少しずつ傷が癒えていく。

先にウルを、とも思ったがそういえばコイツは被弾していなかったな。


「ああ、なんとかな。それよりポーションはまだあるか? 俺のは使い切っちまった」


リリアは懐から緑と紫のポーションを取り出した。


「これで最後です。無理は……しないでくださいね」


俺はそれをすぐに飲み干すとウィンドウを確認する。

リリアの回復が完了すればHPは50パーセント程。

MPは80パーセントを少し超えるくらいか。


王の資質はLv6、大罪はLv8。

レベル上昇により少しだが、使用HPとMPが下がっているから両方ギリギリ使える範囲内だ。


疾風迅雷はもう使えないが、影化は……まだ数回使えるな。


「ああ、大丈夫だ。リリア、援護を頼むぞ。俺が隙を作る、ウルは最大火力をその時にぶちかませ」


回復は完了した。大罪を使えば残るHPは30パーセントを切る。だがそれだけあれば十分だ。


「はい、任せてください!」


「クロード!」


俺はクラッド達の加勢に向かおうとした瞬間、ウルに呼び止められた。


「その……もう怪我はしないで欲しい……のじゃ」


うつむき、目を合わせずに力無く呟いた。


「心配すんな。お前は魔法をぶちかます事だけ考えろ」


【スキル 王の資質Lv6を使用します】


【ステータスがアップしました】


【スキル 大罪へ至る者Lv8を使用します】


【ステータスがアップしました】


俺は即座に影化を使い、グラシャラボラスの背後へと移動。


影縫の刃を正面にまわし、右腕を斬り落とす。


「――お前ら無事かッ!」


どうやら先程斬り裂いた腕はクラッドが切断したらしい。

残るは左腕と左側の背中から伸びる腕の2本。


「無事、ではないっすけど何とか生きてるっす」


クラッドとアルベルトは身体中に細かい傷があり、致命傷は受けていないようだがそれなりにダメージはくらっている。


「こんな傷屁でもねぇ!」


アルベルトは拳で斧の腹を殴りつけ、斬撃を回避。

クラッドは軌道のそれた腕に向け槍を振り下ろすが、剣に阻まれ金属音を響かせる。


グラシャラボラスは今2本の腕を使用している。

他の腕はもうない。千載一遇のチャンスだ。


「――らあああぁぁぁッ!」


俺は裂帛の気合いと共に双剣を振り下ろし、剣を持つ腕を斬り落とす。

そしてそのまま軌道をなぞるように、双剣を振り上げ残る1本の腕を宙を飛ばす。


グラシャラボラスは全ての腕を失い、無数の顔面がそれでも俺達を喰い殺そうと雄叫びをあげる。


俺は腰の回転とともに腹部に脚をめり込ませる。


攻撃力の大幅に上がった一撃に、その巨体は耐えられずくの字に曲がり後方へと吹っ飛んだ。


「――ウルッ!」


そしてその先には、ウルが極大の魔法陣を展開している。


「100倍返し、なのじゃ!」


グラシャラボラスは吹っ飛んでいるので方向転換もできない。腕があれば多少は何とかなっただろうが、アイツの自慢の腕はもうない。




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