56話 悪巧み
ウルの魔法が直撃したがそこまで大きいダメージはなさそうだな。
煙が晴れたその先でトートファーデンは、巨大な牙をカチカチと合わせ威嚇しているように見える。
数秒睨み合い、大蜘蛛が先に動いた。
複数の脚を上下に動かし高速の突進。
そこへウルが炎弾を放ち、着弾と同時に火柱をあげる。
すかさず前衛の3人は距離を詰める。アルベルトが未だ燃焼中の顔面を臆すること無く殴りつけ、クラッドが横から腹部を斬りつける。
大蜘蛛が暴れ狂い、近付けさせまいと鎌状の前足を振り回す。
――今が攻めどきだな。
【スキル 大罪へ至る者Lv6を使用します】
【ステータスがアップしました】
リリアが回復をかけていなかったら、HPが足りず発動は出来なかったな。
俺はまず危険な前足を双剣で左右から挟むように斬りことで切断する。
スキルの重ねがけをしていなければこうはならない。代償は大きいが自虐系のスキルはやはり強力だ。
大蜘蛛は口から糸を吐くが、毒牙で糸ごと口を両断し更に影縫で顔面を斬りつける。
反撃を回避しながら双剣の刃は大蜘蛛の肉を何度も斬り裂く。
距離を取りウルを見ると、巨大な魔法陣を二重に展開させている。
「――ウル、いけるか?」
「いつでもいいのじゃ!」
クラッドとアルベルトもそれに気付いて即座にその場を退避。
ウルはそれを確認すると、魔法陣からは黒炎の龍が放たれ一直線に大蜘蛛へと迫る。
大蜘蛛も極太の糸を吐き迎撃するが、魔法に触れた瞬間から灰になり遂には本体に到達。
凄まじい炎熱とともに爆発を起こし、衝撃波と轟音を響かせる。
あんなのをまともにくらえば万全じゃない限り終わりだろうな。
大蜘蛛の最後はあっけないもので、炎に包まれジタバタとしばらくあばれ、そして地響きを立て倒れた。
【44階層の2つのクリア条件を満たしました。30秒後に帰還します】
【経験値45000獲得】
【レベルアップしました。スキルポイント5獲得】
【銀貨20000 ゴーレムの石×3 蜘蛛糸×5 精錬石×5】
大蜘蛛が倒れたのと同時にウィンドウが44階層の攻略を告知する。
「ワシのお手柄、なの、じゃぁ……」
そう言ってウルはばたりと倒れ込んだ。
「MP使い切ったのかお前」
まぁ、あの威力だ。枯渇したとしても不思議じゃない。
「う、動けないのじゃ」
「ふふ、ウルちゃん頑張りましたね。とっても凄いです」
リリアはうつ伏せに倒れているウルの頭を撫でるが、決して起き上がらせようとはしなかった。
「くそっ! 子供ババアに手柄をとられるなんて! 兄貴、今度俺とも手合わせしてくれよ」
そしてうつ伏せになっているウルの隣で、対抗心を燃やしているのはアルベルトだった。
確かに今回コイツはあまり目立っていない。そのタイミングでウルが派手に決めればコイツならこうなるか。
「機会があったら相手してやるよ」
そう言うとアルベルトは飛び跳ねて喜んでいた。ウチのメンバーは単純なヤツしかいないのか。
「なんとか倒せたっすね。それよりここって最初からエルメスちゃん達と来れなかったんすか?」
「無理だな。どちらかが先に部屋へ侵入しないと、もう片方の扉は開かないんだ」
大災害を対処せずにフロアボスに専念か。それが出来れば苦労しない。
それにどの道扉が空いたとしても、溢れたモンスターがボス部屋にまで侵入し余計に難易度が上がることになるだろうな。
因みにそれはサブパーティが全滅したとしても同じ事。そしてトートファーデンが産卵後に俺達が全滅したりすると、それもまた然り。
結局は2箇所で戦い続けボスを倒す他選択肢はない。
「それよりクラッド、転移する前にその体液どうにかしてくれ」
「え? あぁ、これっすか? これは――」
結局、クラッドは1滴も落とさないまま支援施設へと帰還した。勿論俺達も同時に。
帰還した先にはエルメス達もいて、誰1人欠けずに耐え抜いたようだ。
あらかじめMPポーションは多めに渡してある。上手く活用してくれたらしい。
「ラングマン殿、無事終えられたようでなによりだ」
俺達が緑色の体液で全身を汚す中、対称的にコイツらは赤い血液で全身を染めていた。
「ああ、お前らが大災害を受け持ってくれたおかげでなんとかな」
エルメスは少しの間うつむき、そして何かを決心したかのように顔をあげ、
「そこで1つ、頼みがあるのだが……次の45階層我々に任せてはくれないだろうか」
冗談、ではなさそうだ。エルメスの目はしっかり俺を見据え、その表情は真剣なもの。
今まで1度たりともそんな事を言ったことはなかった。
「45階層か。理由はなんだ」
「幼稚な理由ではあるが……嫉妬心と言うやつだ。我々は常に貴方達の陰にいる。たまには陽の光を浴びてみたいのだよ」
なるほど、要するに俺達が先行するのが気に食わない訳か。野心家だな。
見るとサブパーティの他のメンバーも自信にに溢れた表情をしており、自分達が負ける事など想像もしていないようだ。
「少し、考えさせてくれ」
「……いいだろう。それでは我々は先に失礼する」
エルメスはそう言い残し宿舎へと向かった。
「どうするんですか?」
「正直、戦力的に考えれば攻略出来なくもないが……あの調子なら危ういな。自分たちの力を過信している」
アイツらは全滅する程の危険に陥った事がない。
常に俺達が攻略した階層の中からレベルと照らし合わせ適切な階層に挑ませ続けてきた。
無茶振りも何もない、言い方を変えれば安全な階層だ。
慢心せず実力を発揮出来るのなら悩む必要はないが、アイツらの表情から察するに慢心しかない。
「エルメスさん達、止めても聞いてくれなさそうでしたね」
「そこは心配すんな。いい考えがあるんだ」
「クロードさん。悪いこと考えてる顔してますよ?」
どうやら顔に出ていたようだ。
◇◇◇
◇◇
◇
次の日、俺達はエルメス達を集め15階層に侵入していた。
15階層は44階層と同じダブルパーティ制で1番難易度の低い階層だ。
「クロードさん、なんで15階層に来たんだ? 俺達は――」
「まあ慌てるなよマーカス。てめぇらもなんでこの階層に来たかわからねぇって面してるな」
エルメス含め俺以外の全員が不満を表情にだしている。
それもそのはずだ。
俺は45階層に挑むと嘘をついてこの階層に連れてきたんだからな。アルタートには先に話を通してそれに乗っかってもらった。
「話は簡単だ。俺達メインパーティと1体1の勝ち抜き戦をしてもらう」
「勝ち抜き戦……? それに一体なんの意味があるにゃ」
ミーナは面倒くさそうな表情で呟いた。
「そうだな。お前らが誰か1人でも倒せたら今後はお前らのパーティがメインでいい。どうだ? 簡単だろ? 勝ち抜き戦とは言ったが最初の1人を倒せばお前らの勝ちだ」
「あ、兄貴! さすがにいくら何でもそれは」
慌てたようにアルベルトが止めに入る。メインパーティのメンバーからしたら無茶振りでしかないだろうな。
「大丈夫だ。お前の番まで回ってこねぇよ」
「聞き捨てならないなラングマン殿。我々を馬鹿にしているようにしか聞こえないぞ」
さすがにエルメスも頭に来たのか、声に殺気がこもっている。
そしてそれはサブパーティの他の奴らも皆同じだった。
「馬鹿にしてるみたいじゃねぇ。馬鹿にしてんだよ。自分の力を過信してるテメェらをな」
「――――ッ! 貴様ッ」
「エルメス、僕からやらせてくれ。口で言っても仕方ないから、痛い目を見てもらおうよ。で? そっちは誰からなんだい」
激昂したエルメスをオズが制止し、先鋒を名乗り出る。コイツの余裕に満ち溢れた表情を見ていると笑いそうだ。
俺の横に来たクラッドはケタケタと笑いながら、
「クロードさん、誰からやるっすか? ちょっと楽しそうっすね」
「決まってんだろ。――俺からだよ」




