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53話 秘密


教会の中は思った以上に荒れてはいなかった。

埃っぽさはあるが、ボロボロに朽ちた見た目からしたら幾分マシな方だろう。


中には左右に長椅子が均等に並び、その奥にはなんの神なのかは知らないが立派な石像がある。

窓のステンドグラスからは鮮やかに色付いた光が差し込み、寂れた内部に彩りをつける。


無人の教会はどこか不思議な魅力があった。


「リリア、こっちへ来てくれ」


石像の前に立ちリリアを呼ぶ。

夫婦の契りと言っても特別何か言ったり、面倒な事をする必要はない。

ただこの石像の前に男女が立つ。それだけでウィンドウが表示され、通常はお互いに承諾するのみ。

歯が浮くような言葉も何も必要ない。


女性に対して失礼なのはさすがの俺も自覚はある。

ただそれを天秤にかけても、生存率には到底及ばないのは間違いない。


「は、はい! なんだか……ちょっと恥ずかしい、ですね」


「俺とお前しかいないのに恥ずかしい事なんかあるかよ」


「だから恥ずかしいんじゃないですか! 乙女心をもっと理解してくださいっ!」


無理難題を押付けぷんすかと機嫌を損ねるリリア。

こんな殺伐とした世界でこんな事を言い出すのはコイツくらいだろう。

寧ろこんな世界だからこそ、なのか。


「そりゃ悪かったな。いいからウィンドウで承諾してくれ」


目の前には既にウィンドウが表示され、


【リーベ教会では夫婦の契りを交わすことが出来ます。R5クロード・ラングマン、R5リリアは共に苦難を乗り助け合い、永遠の愛をここに誓いますか? YES/NO】


リリアは顔を真っ赤にして震える指でそっとYESを押し、


「わ、私結婚しちゃいました……! えへへ、なんか照れくさいですねクロードさん」


「気が早いやつだな」


そして俺はNOを押した。


【一方的な愛では契りを交わすことは出来ません】


「――ちょ、ちょっと何してるんですか! さすがに私も傷付きますよ!?」


俺は慌てるリリアにため息をつき、


「いいからあと2回同じ事をしてくれ」


「本っ当に! クロードさんは失礼な人です!」


ブツクサ悪態をつきながらも、リリアは同じようにYESを押してくれた。


「クロードさんに3回もフラれるなんて……うふふふふ。そんなに魅力ないですかねぇ?」


「うるさいヤツだなお前は」


俺がリリアを弄んでいるように見えるかもしれないが、これも隠し要素の1つだ。


【リリアの一途な愛は神に届きました】


【慈愛の神リーベより、R6狂愛の髪飾りが贈られます】


【R6狂愛の髪飾りを獲得しました】


ポンッと軽快な音と共にリリアの目の前に髪飾りが現れた。


「……狂愛? なんか複雑です……私がクロードさんを愛してやまない変人みたいじゃないですか」


それはアイビーをモチーフにした髪飾りだった。

あまりセンスがいいとは言えない質素なデザインだが、花言葉を考えると納得だ。


「お前それは俺に失礼だ。はぁ……まあいい。次は契りを交わすぞ」


先程と同じウィンドウが表示され、今度は俺もYESを押した。


次の瞬間、一陣の風が吹き寂れた教会を彩るのように、教会の中に純白の天使の羽根のようなものが降り注いだ。


「綺麗……」


リリアは羽根に見惚れ思わず感嘆の声を漏らした。

触れられない羽根には俺達を透き通りヒラヒラと舞っている。

ステンドグラスの光も相まって慈愛の神リーベとやらが祝福しているようだった。


最も、俺達の間に祝福されるような愛はないが。


【おめでとうございます。R5クロード・ラングマン、R5リリアが永遠の愛を誓い夫婦となりました】


【慈愛の神リーベより、R5相愛の指輪×2が贈られました】


【例えこの世界が滅びたとしても2人の愛は永遠に続くでしょう】


【R5相愛の指輪 HP+100 パーティに誓い合った相手がいる場合1度だけHP50%の状態で復活します。※復活する場所は死亡ポイントではありません】


とりあえずこれで目的は果たした。

この指輪は階層につき1度ではなく、1度でも効果を発揮したら2度と復活することはない。

そして俺とリリアが再びこの指輪を手に入れることも出来ない。


ただそれでも優秀な装備なのは間違いない。

俺は恐らくどこかでこの指輪の能力に頼る日が来るだろう。

そうならなければ1番いいが、70階層を超えた先には何が待ち受けているかは俺にもわからない。


「ここでの用は済んだ。さっさと宝箱を見つけて戻るぞ」


「ふふ、私の旦那様はドライな人ですねぇ。ちょっとこっちに座ってください」


リリアは何が良いのかわからないが、先程からずっと嬉しそうに笑っている。

そして手前の長椅子に座り、隣をバンバン叩いている。


俺は仕方なくそこに座るとリリアは俺の肩に顔を乗せると、何も言わず少しの間無言の時間が流れた。



「――ねえ、クロードさん」


ふとリリアが静かに口を開いた。


「なんだ」


「どこにも、行かないでくださいね」


「なんの事だ」


「最近思うんです。このダンジョンを全て攻略してしまったら貴方がどこか知らない所に行っちゃうんじゃないかって。根拠はありませんよ? ただ、なんとなくそう思っちゃいます」


その言葉で俺は鼓動が早くなるのを感じた。

根拠はない。そう言ってはいるが、その考えは間違っていない。

俺はダンジョンを攻略して元の世界へ戻る。ずっとそう自分に言い聞かせてきた。


現実的な話をすると、戻れる保証はどこにもない。

チュートリアルの説明にあった言葉を鵜呑みにしているだけだ。

ダンジョンを攻略すれば、メルシア王はなんでも願いを叶えるという言葉を。


そろそろコイツらには打ち明けてもいいのかもしれない。何が変わる訳でもないが、今のメンバーは信頼している。勿論、カミルもだ。


恐らく、リリアだけじゃない。全員なにか勘づいてはいるはずだ。


もう隠さなくてもいい。コイツらは信じてくれるはずだ。


俺は多分、あまりコイツらに隠し事はしたくないんだ。


「……リリア、俺は――」

「言わないでください。今はまだ貴方の秘密を聞くだけの勇気がありません。だから、少し……もう少しだけこのまま……隣にいさせてください」


今にも消え入るような声でリリアはそう言った。


俺もリリアもそこからしばらくの間、ただ無言で地に落ちた純白の羽根を眺めていた。


その後はリリアの気が済むまで教会で過ごし、28階層を攻略して支援施設へと転移した。


お互いにいつもと違った感じになってしまい、なんとなく気まずさが漂っていたが、俺はほんの少しだけそれが心地よかった。


解散する時にリリアは最後に「私、結構変人かもしれません」とか何とか言っていたが、どういう意味なのかは分からない。ただ、それを言ったリリアの顔が少し赤かったのは覚えている。


――たまには戦闘から離れるのも悪い気はしないな。

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