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50話 孤独な階層



『じゃあ今日も攻略頑張ってねー!』


支援施設でのその声を最後に、俺は43階層へと侵入した。


10階層をクリアしてからおよそ半年が経過している。攻略は最初のペース程進んでおらず、どちらかと言うと滞っていた。

というのも難易度が跳ね上がった事がその理由の大半を占めている。


最初の方こそレベルアップも頻繁に行われ、難易度も低くサクサク攻略できたが、10階層からはそうもいかなかった。20階層にたどり着くまでで1ヶ月以上かかり、その後どんどんペースは落ちている。


レベルも20を超えた途端必要経験値がかなり増え、その他にも武具の新装や、パーティメンバーの強化。攻略をメインとしたサブパーティの編成も必要で、曜日ダンジョンをひたすら周回していた。


因みに、ここに来るまで何度か危うい場面はあったが、パーティメンバーは誰1人死んではいない。


その地道な努力のおかげか、俺以外のメンバーもレアリティがR5になり、俺はもうじきR6になる程に成長した。そのおかげで最近また攻略のペースが少し上がってきている。

あれ以来かなりの数のキャラクターを合成素材として活用した。といっても大半は低レアリティ。R5以上はほとんどゼロに近い。


そして今いるこの43階層はパーティでの侵入ができない。ソロ攻略がクリア条件に組み込まれている。

その分難易度は大幅に下がっているが、それでも楽な階層ではない。


【43階層に侵入しました。フロアボス ファイアドラゴンの討伐】


「ファイアドラゴンか。飛ばれると厄介だが、それ以上に見付けるのに時間を取られそうだ」


地形は火山。視界が赤1色に支配され、その熱が絶えず肌を刺激する。


今の所ステータスには影響はないがその内、熱によるフィールドダメージが入るだろう。

ポーションは多めに持ってきたが、そのダメージ自体を防ぐ術は多くない。

専用装備を作れば可能だが、いちいちそんな手間にかけてる暇などありはしない。


しばらく歩いていると段々と温度が上がっている事に気がついた。

どこも似たような場所だが、フィールドの最奥部に少しは近づいているのだろうか。


ふと、視線を感じる。

辺りを見回すと、岩陰にファイアリザードがいるのが見える。

通常のリザードマンと違い一回り大柄で、赤い鱗で火耐性がかなり強い。

ただ装備は変わらないのか、リザードマンと同じ湾刀と丸い盾を装備している。


「見てるだけか? かかってこいよトカゲ野郎。来ねえならこっちから行くぞ」


俺は臆病なファイアリザードへと駆け出し、影縫を構える。

墨月に代わる影縫は優秀な武器でレアリティはR7。暗殺者専用装備であり、特殊な命中補正が付与されている。

たまたま武器ガチャで出たが、今までにない大当たりだ。


俺が駆け出すと同時に、ファイアリザードは岩陰から飛び出し、その口から火の玉を放つ。

しかし、それを影縫で切り裂き直進。


湾刀と影縫が何度か火花を散らす。

一瞬の隙をつき、身体の回転を加えた蹴りを腹部にめり込ませ、ファイアリザードはその衝撃で吹っ飛ばされ地面を数回バウンドした。


転がる相手目掛けて影縫を投擲。

影縫は高い音を立てて、相手の身体ではなくその股下の地面、つまり影に突き刺さり――。


それと同時にファイアリザードの胸部から、血液が噴き出した。

何が起きたか分からないといった様子のファイアリザードとの距離を詰め、隙だらけの長い首を左手の毒牙で切断。

影への攻撃が本体に影響する。これが影縫の特殊命中補正。ダメージは50パーセントだが、雑魚にはそれでも十分だ。


鈍い音を立て首が転がる。


ファイアリザードを切断したもう1つの短剣のサマエルの毒牙は、37階層のフロアボスであるサマエルの討伐時にドロップしたR6の毒属性持ちの短剣。

これも暗殺者の職業と相性が良く、毒を付与出来ることからかなり重宝している。


武器だけで言えばこの双剣でも70階層までなら通用しないこともないだろう。


「ワラワラ出てきやがったな」


血の匂いに釣られたのか何なのか知らないが、気付けば数体のファイアリザードとファイアゴーレムに囲まれていた。


「雑魚が群れた所で変わんねぇぞ――」



◇◇◇◇◇◇



◇◇◇




あれからしばらく経つが、未だにファイアドラゴンとは遭遇出来ていない。

囲まれた後も何度か雑魚との戦闘になったが、苦戦することなく戦闘を終えている。

ソロ階層ゆえに敵のレベルが低く、手間はかかるが負傷する心配はあまりない。


「トカゲの野郎どこにいやがる。もうだいぶ登ってるはずだぞ」


時間にしたらスタートから6時間は経過しているだよう。

地形ダメージも入る区域になり、歩いているだけでもほんの少しずつだがHPが減少している。

山頂まではまだ少しあるが、そこまで行かなければ居ないと言う訳でもない。が、なんとなく山頂にいるイメージはあるし、実際の遭遇率も高いはずだ。


溶岩の熱気で肌を焼かれ、全身からは滝のような汗が吹き出る。鬱陶しいことこの上ない状態だ。

熱気と汗にイライラしながらも歩いていくと、大きく拓かれた空間に出た。

そこには成人男性程の黒い岩のようなものが無数に転がっている、


――これは、ファイアドラゴンの糞か?


あまり触りたくはなかったが、触ってみると案外脆く少し力を入れるだけでその箇所が崩れ落ちた。

その中には赤い鱗のようなものも混ざっており、捕食したファイアリザードの物だと考えるのが妥当だろう。


だとするとここは――。


「ドラゴンの寝床って訳だな」


この広い空間は間違いなくファイアドラゴンの巣だ。無駄に歩き回るより、ここで隠れていた方が遭遇率は高いだろうな。

そしてなによりここは地形ダメージが少ない。ゼロではないが、長期戦にでもならなければ気にする程でもない。


「今はどこか行ってるようだし、ようやく一息つけそ――なんだ? 急に暗くなったな」


壁にもたれ掛かり、歩き回った疲れもあるので一休みしようとした瞬間、何かに覆われたように辺りを影が支配した。


――影? って事は……


瞬時に見上げると深紅の鱗を身に纏う、強大なファイアドラゴンが今まさに巣に帰ってきた所だった。


「人が休もうとしたタイミングで……空気の読めないトカゲだな」


悪態をつくも双剣を構える。


ファイアドラゴンは俺に気付いているらしく、数メートルある翼を上下し宙に留まり俺を睨みつけている。


そしてその巨大な口を開き、ドラゴンとしての威厳を体現したかのような咆哮。

大気を震わすその咆哮は生物としての格の違いを見せつけているようだ。


間違いなく強敵だ。だが恐怖はない。


「――遊んでやるからかかってこいよ」

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