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41話 噴水の広場で


【隠しクエスト:奴隷商人からの依頼の条件を達成しました】


【早速奴隷商人に報告しましょう】


ウィンドウが隠しクエストの達成を告げた。

覚悟を決めたとはいえ、リリアの表情は明るいものではなかった。

初めて人を殺め、その罪悪感に苛まれているのだろう。脂汗を流し、苦しそうな表情をしている。


恐らくこれが正常な反応だ。俺には罪悪感が欠片もない。

それはこの世界がゲームと知っているからか、ただ単に異常者の類だからなのか、それはわからない。


死体をそのままに俺達は、報酬を受け取るため奴隷商人の元へ足を運んだ。

むせ返るような酒の臭いが漂う酒場は、出る時にはその臭いは上書きされていた。


奴隷商人の店に着くと、傷のある用心棒は何も言わずに道を開けた。


薄暗い店内には、変わらずに多くの奴隷が檻の中に監禁されている。


「んまッ! 早かったですネェ? あなた方なにものですカァ?」


道化のような格好の奴隷商人は、俺達を見るなり目を見開きその場でクルクルと回り出した。

コイツは奴隷商人より、道化師の方がしょうに合っているのではないだろうか。


「俺達が誰かなんてどうでもいい。お前の頼みは聞いてやったぞ」


こんな奴との茶番に付き合っている暇はない。報酬を貰ったら8階層ではもう関わることはないのだからな。


「……そうですネェ。お急ぎのようですし、これが報酬ですヨォ! 貴重な物ですからた・い・せ・つ・にしてくださいヨォ!」


【隠しクエスト:奴隷商人の依頼をクリアしました】


【報酬:R5解放の首飾りを獲得しました】


――よし。これでまだ先だがウルの強化ができる。


今手に入れた解放の首飾りは、奴隷や元奴隷のキャラクター専用の物で、装備すると奴隷の職業から解放され正規の職業につくことができる。


奴隷の職業のキャラクターは、1部のステータスに若干の制限がされていて、解放する事でその制限を解除しステータス成長率をも上昇させる事が出来る。

ただ難点なのが、首飾りと同レアリティのキャラクターにしか装備する事が出来ないので、ウルの解放はまだ少し先の話になる。


「どうですカ? 中々珍しいデショウ!」


クネクネ動きながら奴隷商人は自慢げに言った。


「悪くないな。俺達はもう行く。こんな所に長居したくはないんでね」


奴隷商人はそれを聞くと不思議な顔で首を傾げている。まともな感性は持ち合わせてはいないらしい。


俺はリリアを連れて外に出ると、街の広場へ向かった。

そこには大きな噴水があり、陽の光が反射して輝いているように見える。


「とりあえず、一段落だな」


噴水のベンチに腰掛け、ため息をつく。


「そう、ですね。あの、クロードさんは平気、なんですか……」


隣に座り、俯きながら必死に言葉を紡ぐリリア。

何が、とは決して言わない。俺もそれが何かを聞くことはしないし、それでも先程の事だというのは猿でもわかる。


「俺達はゴブリンを駆除しただけだ。ゴブリンの1匹2匹気にする必要がどこにある。今まで何百と殺してきただろう」


「私は、クロードさんのように強くないんです。頭ではわかったいても、私の心はそう思ってくれないんです」


自分の服の強く握り、今にも押し潰されそうになっている。

参ったな、こういう時どう慰めればいいのかまるで分からない。

今はまで人付き合いを避けてきた結果が今になって響いている。


「お前は深く考えすぎなんだ。事は単純だ。俺達は犯罪者を倒し街の人たちを救った。それでいいじゃねぇか」


「わかってるんです。間違ってない事も、やらなきゃいけないことも……それでも……」


リリアは精神的にはかなり強い方だと思っていたが、この類にはあまり耐性がないらしいな。


「じゃあお前はどうするんだ? この先こんな事は幾らでもある。その度今みたくなるのか。ここはダンジョンだ、お前の住んでいた世界とは違う。相手は人の形をしているだけで、厳密には人間じゃない」


それはさっきのやつらに限った事ではないが。


「それに、お前がそんなんだと仲間が死ぬぞ」


「――――ッ」


リリアはその言葉に反応し、顔を上げる。

翡翠の瞳は潤み、今にも雫がこぼれ落ちそうだった。


俺はあまりこういうのが得意じゃない。

極端な事を言えば人を殺すほうがまだ気が楽かもしれない。

慰めるのも、泣きそうな女を見るのも、俺にどうしろと言うんだ。


恋愛なんか生まれてこの方した記憶が無い。

いや、1度あった気がするが昔過ぎてよく覚えていない。


やっぱり、俺は人付き合いが苦手だ。


「それが嫌なら守るために戦え。守るために殺せ。俺たちの今いる世界はそういう世界だ」


リリアは感情の整理がつかないのか、コロコロと表情を変える。

そして俺の手を握り、


「じゃあ……私がクロードさんを守ります。だ、だからその……クロードさんは私を、守ってくれますか……」


一瞬、鼓動が早くなるのを感じた。

ただそれは俺が男で、コイツが容姿の整った女だからだ。そんな女に涙目と上目遣いでこんなことを言われれば、初対面だってそうなる。


「当たり前の事を聞くな。もう行くぞ、いつまでも休んでる訳にはいかない」


俺は人付き合いも恋愛経験も乏しいが、鈍い方じゃない。それに勘違いする方でもない。


これはあまり良くない流れだ。コイツが嫌いという訳ではないが、俺は人間でコイツはデータ。そもそもが成り立たない。

それに、今はそんな事に時間を割いている余裕はない。


「あの、ありがとうございますクロードさん。私、ちゃんと戦います。もう、逃げません」


立ち上がり、真剣な表情で俺を見つめる。結局俺は何もしていないが、どうやら切り替えはできたようだ。


「俺は何もしてない」



そろそろクラッド達も貴族から情報を得た頃か。

俺達は広場をあとにして、クラッド達のいるであろう屋敷へと向かう。


しばらくの間東へ進むと、屋敷に着く前にクラッド達を発見した。

恐らく情報を得て、俺達を探していたのだろう。


アルベルトと目が合うと、目を輝かせこちらへと走ってくる。


「兄貴ーっ!」


「あの馬鹿……目立ちすぎだ」


手を振りながらかけて来るアルベルトと、兄貴と呼ばれた俺に人々の視線が集まる。

最も、そんな事をアルベルトは気にしてすらいないようだった。


「兄貴! 情報貰えたぜッ!」


「お前は少しはしゃぎすぎだ、だがまあよくやった。これで遠慮せず奴らを叩ける訳だ」


クラッド達も合流し、パーティメンバーが揃う。

向こうでは戦闘はないが、貴族の長ったらしい話を聞かなければ情報を得られないはずだ。


興味のない美談を延々と聞かされた、ウルとクラッドはゲッソリとしているようで、リリアより顔色が悪いのではないだろうか。


「お前ら顔色が悪いが、これからフロアボスとの戦闘だぞ」


「むしろそっちの方が楽っす。あれはもう拷問っすよ」


「ワシは何度か魔法を撃ちそうになってしまったのじゃ……早く撃ちたいのじゃ……」


どうやら相当に酷かったらしい。

アルベルトだけが元気なのはきっと、コイツが飛び抜けて馬鹿なだけだろう。

ウルは戦闘になった時が心配だが、まあ何とかなるだろう。


アジトは既に把握している。


――ゲス共め、断罪の時間だ。

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