38話 暗殺者
個人の日課であるトレーニングと、パーティの日課に加わった経験値特化ダンジョンを終え、8階層攻略に向けての準備を進めていた。
「そろそろ職業を決めるか」
先日手に入れた『職業入門書』を手に取り、数ある職業の説明欄を見ていた。
と言っても、俺が選択する職業は既に決まっている。
攻撃力と速度に特化した暗殺者だ。
前衛として優秀な戦士や、パーティの火力要因の魔法使いでも良かったが、単体で暗殺者が最強なのは『seek the crown』では常識だ。
高い火力と敵を翻弄する速度、然るべきスキルを覚えれば60階層以上でも単体で十分に活躍出来る。
そして職業といえば、昨今のゲームには1次職2次職と面倒なシステムが多いが、そんなものはなく暗殺者どこまで行っても暗殺者だ。
「僧侶、魔法使い、武闘家、槍術士、暗殺者か。中々バランスと取れたパーティになりそうだな」
【職業入門書(虹)を使用します】
ちなみにこの(虹)と言うのは、全ての職業から選べるだけで、他にたいした特典はない。
【職業を選んでください】
10種類ほど職業がウィンドウに表示され、俺は暗殺者を押した。
【暗殺者に転職しますか?】
勿論イエスだ。
【暗殺者に転職しました】
【ステータスが変化します】
【ステータス】
名前:クロード・ラングマン レベル:14
職業:暗殺者 疲労:5
称号:暴虐の化身
装備:R4墨月(耐久値21/40 )
攻撃力+5 速度+10
R5ゴブリンの秘剣(耐久値80/100)
攻撃力+5 速度+5 出血1%
HP: 340/340→300/300(+10)
MP: 65/65→60/60
攻撃力55→59(+45) 防御力43→38(+10)
魔攻39→37(+10) 魔防36→32
速度43→49(+30) 回避32→40
称号:暴虐の化身
攻撃力+20 魔攻+10 速度+5
R3ゴブリンジェネラルの腕輪
HP+10 攻撃力+5
R5ゴブリンキングの王冠
攻撃力+10 防御力+10 速度+10
スキル 剣術Lv3 王の資質Lv2 速度上昇Lv2(5%アップ)
スキルポイント25
ウィンドウが表示され、変化したステータスを確認。
「――防御関連とHPが割と下がったな」
今日の経験値特化ダンジョンでレベルが上がった分を含めても、幾つかの項目は思った以上に下方修正されている。
その分攻撃力や速度に関してはかなり上がっているから、よしとしよう。
「スキルポイントも少したまってるし、何か新しいスキルを手に入れるべきか?」
今のスキルポイントは25。剣術のスキルはいつか抜くとしても、現状あと2つスキルスロットを埋められる。
これがアプリのプレーヤーとしての選択ならば、暫く貯めて最強格のスキルを獲得する一択だ。
だが今俺はこの世界で生きている。常に生存率を上げていかなければならない。
最善の行動が最善の結果になるとは限らない。
今はまだ1桁の階層だが、10階層からは難易度が更に跳ね上がる。転職したとはいえ低レアリティ、まだまだ戦力の補強が必要か。
現状のポイントで獲得出来るスキルの中で有用なのは3つ。
威圧と影化、それから消音。
正直な所、3つ全てが暗殺者とは相性がいい。
威圧はレベル差がありすぎると効果はないが、一瞬相手を怯ませることが出来る。
影化は影移動を可能にし、奇襲や回避にかなり役立つ。
消音は文字通り、自身から出る音を消す。
レベル1だとどれも大した効果は期待出来ないが、カンストさせた時の事を考えると、
「影化か……?」
【スキルポイント25を消費してスキル:影化Lv1を獲得しました】
Lv1だと2秒間あらゆる影の中を移動する位しか出来ないが、それでもかなり強力な方だろう。
現状できる戦力増強はここまでだ。後はレベルをあげ、レアリティをR5にするまでは劇的な変化は難しい。
「そろそろ8階層でも攻略しにいくか」
俺は宿舎を出て、広場へと向かう。
そこで暇そうにウィンドウを眺めているアルタートに声をかけた。
「アルタート、全員集めてくれ。8階層に行く」
『おっけー!サクサク攻略が進んでるね!』
アルタートは人の気も知らないで、ケラケラと笑う。
傍から見たらそう見えるだろうが、中身は酷いもんだ。知識と経験があるからカスみたいなレアリティでも生き残れているが、それがなかったら何度もパーティは壊滅しているだろう。
アルタートがウィンドウを操作し招集をかけ、暫くすると全員が集まった。
「これから8階層を攻略する。これまでとは違った階層になるが――まあ後で説明する。アルタート」
俺は言いかけて辞めた。面倒なのもそうだが、どの道最低限はウィンドウが説明してくれるはずだ。俺はその肉付けだけでいいだろう。
『うん! じゃあ気を付けてねー!』
展開された魔法陣に足を踏み入れ、8階層へ。
8階層は今までの階層とは違い、人々が賑わう街だった。
「こ、ここがダンジョンっすか!?」
「肉の匂いがするのじゃ!」
「兄貴、あそこに武器屋があるぜ!」
と、まあ様々な反応を見せてくれた。だが残念な事に、この街での飲食はおろか武器やアイテムすらも購入はできない。
所詮は見せ掛けだ。
「あの、ここで一体なにを――」
【8階層へ侵入しました。ここでは組織が街を転覆させようと企んでいます。情報を集めて組織のボスを討伐してください】
ウィンドウがご丁寧に説明してくれた。
8階層は今までと違い、対人戦になる。そしてその前に情報などを集めて、組織のアジトを突き止めなければいけない。
「ウィンドウの通りだ。今回戦うのはモンスターじゃない。ネタばらしすると、この街に巣食う犯罪集団との戦いだ」
それを聞くとアルベルトは目を輝かせ、
「正義の味方になるっつー事だな兄貴!」
あながち間違った事は言っていないが、そんなに簡単なことじゃない。
8階層のクリア条件は、組織のボスの討伐。
つまり――。
「俺達がこれからやるのは、ただの殺人だ。その覚悟だけはしておけ」
対人戦と言うのはそういう事だ。簡単に言ったが、実際俺もあまり気は進まない。
この世界で多くのモンスターを殺してきたが、人を殺すとなると話は別だ。突き詰めればただの敵キャラクターだが、コイツらを見ていると人間にしか見えない。
それを聞いたアルベルトの顔があからさまに曇り始める。
15かそこらのガキに人殺しをしろと言えばこうなるのも無理はない。
しかし、それはウルやリリアも同じだ。
周りが顔をしかめる中、クラッドだけはいつも通りの表情をしていた。
「皆嫌そうだし、最後は俺やるっすよ。前の世界では兵士だったんで、こういうのに今更抵抗ないっすから」
そうか、クラッドは確かに兵士と言っていた。
それならこういうの役割を経験していても不思議じゃない。それどころか戦争等の経験があるなら、多くの人の命を奪っているだろう。
クラッドに甘える事は簡単だ。嫌な事を避け、人に押し付けるのは楽だ。だが――。
「いや、全員でやる。こんな事で一々逃げていたらダンジョン攻略なんて一生できない」
「そう、ですよね。私も戦います」
「ワシは……ワシは……」
覚悟を決めたリリアとは反対に、ウルはかなり戸惑っているようだ。
接近戦じゃない分、まだマシなはずなんだがな。
「お、俺もやれるぜ兄貴! 兄貴についてくって決めたんだ!」
アルベルトは心の底ではそう思っていないはずだ。
前向きな言葉とは裏腹に、表情が暗い。
「今すぐ殺すわけじゃないんだ。そんな気負うな。戦闘になったらいつも通り自分たちの役割を果たせばいい。それに、殺したからと言って誰もそいつを咎めるなんてことはしない」
対人戦は8階層だけじゃない。もっと大量に人を殺すダンジョンも存在する。こんな所で立ち止まっている暇は無い。
俺はもう、覚悟はできている。




