35話 余熱
【7階層クリアおめでとうございます。連結階層初クリア特典として10連ガチャチケット×1 10連武器ガチャチケット×1 回復ポーション(低級)×5 MPポーション(低級×5) 職業入門書(虹) を手に入れました】
【支援施設の1部の機能が解放されました】
【曜日ダンジョンが解放されました】
【1部のイベントが解放されました】
支援施設へと帰還を果たすと、次々とウィンドウがクリア特典の告知を表示した。
支援施設には新たに、『学術院』と『畑』が解放されたはずだ。どちらも適正キャラを置けば、今後アイテムを供給し続けてくれる。
そして曜日ダンジョンの解放、これが1番攻略の貢献度として大きいかもしれない。
各曜日ごとに進化素材や、スキルアップ関連や様々なアイテムを手に入れることが出来る。
周回は必須だが、低級なら今の俺達で十分通用するはずだ。
イベントは今は参加する必要がない。というより、俺の知るイベントであるならば、最低でもレベル30はないと話にならない物が多い。
無理して挑んだとしても全滅するのがオチだ。
それにしても、長時間連結階層で戦闘を行っていたからか、支援施設が妙に懐かしく思える。
「なんか、変な感じですね」
「ああ、戦いっぱなしだったからな」
リリアは解放されてほっとしたのか、表情が緩んでいるように見えるが、きっとそれは俺も同じだろう。
この支援施設は俺にとっては紛い物の安息地だが、そんなものですら今は有難く思うほど、精神的に疲労していた。
そして帰還した俺達を出迎えたのは、見慣れた妖精のような姿のアルタートだった。
――この憎たらしい顔も随分久しぶりに思えるな。
『やあやあ! 7階層クリアおめでとう! さすがだね! 君達は凄いよ! 1人も欠けずにクリアするなんて驚いた!』
アルタートは俺達の回りをぶんぶん飛び回り、その嬉しさを表現している。
ただコイツの言い分だと、誰かしら死ぬと予想していたらしい。相変わらず何を考えているのか分からないやつだ。
「何の用だ。俺達は疲れてるんだ。用がないなら休みたいんだが」
満面の笑みを浮かべるアルタートとは反対に、俺は冷たく言い放った。
『そんな事言わないで欲しいな! これでも僕は君たちを心配してたんだよ!』
何をほざくかと思えば、白々しい奴め。コイツが心配しているのは俺達じゃなくて、攻略が進むかどうかだ。
俺たちがくたばろうが何しようが、そこに関心などない。
敢えてそれに対し俺は返答をしないでいると、アルタートは気にもせずそのまま続けた。
『君達にいいおしらせがあるんだ!』
「お知らせ?」
俺達は宿舎へ戻ろうとしたが、その足を止めた。
『うん! 宿舎のレベルを上げられるようになったんだ!』
「――本当か?」
『失礼だな! 僕は嘘なんか付かないよ!』
本当の事を隠す事は多いけどな。
だがアルタートの言うように、宿舎のレベルを上げられるのならば、今後はバフ付きの食事が出るはずだ。レベル2だと誤差みたいな効果しかないが、生存率が1パーセントでも上がるのならばそれは有難い話だ。
尤もらしい事をいったが、本音は少し違う所にある。
今まで食事はかなり質素で、楽しめるような代物じゃなかったが、恐らくこれで料理と呼べる物が出てくるようになるだろう。
美味い不味いは別として、日々の彩りという点においては必要不可欠だ。
「そうか、わかった。それはお前の方で上げておいてくれ。俺達は一旦休む」
『わかったよ! 皆お疲れ様! また明日ダンジョン攻略頑張ろうね!』
アルタートはそれだけ言い残すと、俺たちの周りをクルクルと回り、消えてしまった。
「宿舎のレベルってなんすか?」
俺とアルタートの会話には空気を読んで口を出さなかったクラッドが、間の抜けた顔で言った。
「簡単に言えば、飯が変わる」
「――肉! 肉が食べたいのじゃ! ワシは肉の塊がいいのじゃ!」
前々から思っていたが、コイツは本当に元奴隷なのかと疑問を持つほど欲深い。
奴隷制度の内情は知らないが、普通はもっと謙虚な奴が多いはずなんだが。
まあこの単純思考もコイツの個性の1つか。
「それは楽しみだ、あの味のしないパンには飽き飽きしていたところだしな」
少し意外だったのは、カミルが喜んでいる事だ。
ウルやクラッドはともかく、コイツはそういったものに興味がないのかとばかり思っていた。
「そんな大層なもんじゃない。そこら辺の家庭で出されるレベルだ。あまり期待しすぎると後悔するぞ」
「それでもやっぱり楽しみですよ! そうだ、皆さん。 今日は皆で一緒に夕食をとりませんか?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれからリリアの言う通り、パーティで食事を共にした。
驚いたのがアルコールの類が出た事だ。
何故アルコールが出るのかはしばらく飲み続けた後でわかった。状態異常耐性が若干だがあがるらしい。
そんなもので上げる必要は全くないのだが、そういう仕様なので文句を言っても仕方ない。
プレーヤーとしてプレイしている時、食事などウィンドウをタッチするだけで完了していたが、この世界にも些細な楽しみが存在している事がわかった。
中でも普段は知的なカミルが、酔っ払ってリリアを口説いている時はさすがに笑ってしまった。
実は女好きなのかもしれない。女の園はどうのとか、訳の分からないオヤジ臭い事を言っていた。
ウルは実年齢はともかく、見た目的にNGだったがカミルの酒を横取りして、一口呑むと直ぐに呂律が回らなくなりそのまま寝てしまった。
クラッドは酔って醜態をさらすようなことは無かったが、やはり少し酔っ払っていたのか、食事を見て笑い転げていた。笑い上戸らしい。
リリアに関しては、酒を二度と飲ませてはいけない事がわかった。アイツは酔うと暴れ出す。止めようものならケダモノだなんだと責められる始末。
罵倒したり暴れたり、ベタベタくっついてみたりと忙しい奴だった。
そして俺は少し酔いが回っている中、自室の窓から造られた空をみて黄昏れていた。
カッコつけている訳では無いが、どうも俺は酒が強くないらしい。風に当たっていないと気持ちが悪い。
状態異常耐性が上がれば、こういうのも無くなるのか? それは少しだけ残念だ。
支援施設に戻ってきたら、色々とやろうとしていたことがあったが、どうも出来そうにない。
明日からまたダンジョン攻略が始まる。それまでにこの緩んだ感情をどうにかしないとな。
こんなシステム上の世界にも、星はあるんだな。
星座とかそう言うのは分からないが、天体観測を趣味にしている奴の気持ちがわかった気がする。
冷たい風が、火照った身体を冷やすようにそっと流れる。
「――タバコ、吸いてえな」




