33話 愚者の王
【連結階層第3ステージに侵入しました。クリア条件:ゴブリンキングの討伐】
ゴブリンキングか。懐かしいモンスターだ。
中盤まで出てくる事になるが、7階層にでるゴブリンキングは異様に強かったのは覚えている。
目の前の扉を開ければすぐにでも戦いが始まる。
7階層はボス戦以外ないが、だからこその高レベルに設定されているんだろう。
「これが終われば支援施設に戻れる。だがゴブリンキングはかなりの強敵だ。今までのフロアボスとは比較にならない」
今までのモンスターのレベルは基本的に、防衛階層を除いて基本的にはその階層プラマイ1だ。
だからこそ多少無理な戦い方をしても、倒すことが出来た。
7階層のゴブリンキングの設定レベルは10~12。運が悪ければ12の奴が出てくる事もある。
たかが2上がるだけで、モンスターとして別格の強さに変化する。レアドロップ率や経験値などもレベルに応じて上下するので、一概に損とは言えないがレベルが低いに越したことはない。
「まず私が弱点を暴きだそう」
「そうだな、基本の陣形は変わらないがカミルはあまり前に出ないでくれ。俺とクラッドにバリアを展開してくれた方が助かる」
「ああ、了解した」
カミルは元よりそのつもりなのだろう。自分の戦闘能力を過信するほど愚かな奴じゃない。
「リリア、もしもの時は回復を頼む」
「はい。もしもじゃなくても援護しますよ」
先程の一件から、気恥ずかしさからかあまり目を合わせない。
原因は俺にあるが、あれだけ感情を爆発させればそうなるのも頷ける。
「それと、ゴブリンキングはスキル持ちだ。相手が死ぬまで絶対に気を抜くなよ」
「了解っす」
「ワシがゴブリンキングとやらをぶっ倒すのじゃ!」
準備は万端、とは言えないが状況はそう悪くない。
俺は鉄の扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。
松明が照らす空間の中心にソイツはいた。
えげつない程の殺気だ。見ているだけで体の芯が冷えていく。ただそこに居る、それだけなのにゴブリンキングが発する圧で押しつぶされそうになる。
【ゴブリンキングLv12】
――やっぱり高レベルか。なにもこんな時にでなくてもいいものを。
「あ、あれがゴブリンキングっすか。もっとでかいのかと思ったっす……けど、あんまり勝てる未来が想像できないのはなんでっすかねぇ……」
クラッドはゴブリンキングの垂れ流しの圧にあてられ、冷や汗をかいている。それでも目はしっかりと相手を捉え、いつでも動ける体勢をとっていた。
ゴブリンキングの見た目はゴブリンとホブゴブリンの中間くらいか。
どちらかと言うとサイズは人間に近い。ひょろ長い体躯に、キングらしく装飾の施された冠を被っている。
手にはハルバートを持ち、マント代わりに赤い布を首からなびかせている。
風格は十分、王。
キングはこちらを見て首を傾げている。
――品定めのつもりか、生意気な野郎だ。
「あんなゴブリンなんぞワシの魔法で灰にしてやるのじゃ!」
「おいまてッ――」
遅かった。既に魔法陣が展開され、炎の玉がゴブリンキングに照準を定め放たれていた。
「クラッドッ、あわせろッ!」
「はいっす!」
ウルのタイミングになってしまったが、攻撃してしまったのなら文句を言っても仕方ない。どの道いつかは始まるんだ。
キングは魔法を避ける素振りもなく、直撃。
魔法の着弾に合わせて左右に別れ、挟撃するように刃を振るう。
が、火花を散らし甲高い金属音が響く。
――防がれたか。
クラッドの攻撃も同じく柄の部分で弾かれたらしく、負傷した感じはない。
一旦距離を置き、再度様子を見る。
ホブゴブリン程度なら、一撃で倒せる威力の魔法をくらっても、キングには傷1つ付けることが出来なかった。
「ワシの魔法が効いていないのじゃぁ……」
決して威力のあるものでは無かったが、ウルは自分の魔法が通用しない相手は初めてであり、明らかに落ち込んでいる。
かといってこんな序盤からMPを使いまくる訳にもいかない。ウルは牽制役に回るしかないな。
ゴブリンキングは前衛の俺やクラッドを無視し、リリアに向け一直線に駆け出した。
――戦略を駆使するのかッ!
狙いはヒーラー。多対一の定石であり、かなり有効な手段だ。
しかも速度は今の俺と同等。思っていた以上に速い。対処できなくはないが、今まで速度重視の敵はいなかった分かなり厄介だな。
「カミルッ!」
キングはハルバートを振り上げ、リリアを両断しようと迫る。カミルは絶妙なタイミングで、両者の間に青色のバリアを展開する。
展開されたバリアに向け、キングはハルバートを振り下ろす。
次の瞬間には、ガラスの砕けたような音が響きバリアは破壊された。
カミルのスキルも一撃か。攻撃力もずば抜けているな。
キングはそのままリリアに向かうが、クラッドが背面の死角からの刺突。
ハルバートを後ろに薙ぎ払うことでそれを弾くが、既に俺はキングの真上に跳躍している。
秘剣の切っ先を垂直に、体重を乗せた一撃がキングの肩に刺さる。
刃が肉にめり込む感覚と共に、鮮やかな赤が宙を色付ける。
短い悲鳴を上げ、キングはハルバートを振り回すがそこに俺もう居ない。
「なんとか、物理攻撃は効きそうだな」
――大して深くまでは刺さらなかったが、やけに出血が多いな。秘剣の属性のせいか?
俺が傷を付けた事に怒っているのか、標的を俺に変えたきはハルバートを持つ腕を、後ろに引き全力の薙ぎ払い。
短剣で受けるには威力が高すぎるそれを、バックステップで回避。後ろにはクラッドの槍が頭部目掛けて突き出されている。
「――――ッ」
キングは頭部を下に向けることで、回避と同時に伸びきったクラッドの槍は俺への攻撃と転換される。
「よ、避けるっす!」
クラッドが叫ぶが、間に合わない。
双剣でそれを弾くと、キングは隙ができたクラッドへハルバートを一閃。
クラッドの胴体を裂く直前、リリアの放った矢がキングの右手に刺さりその軌道が大きくズレる。
ハルバートが地面に擦る中、俺は墨月を背面に一太刀。右肩から左の腰まで続く太刀傷は、致命傷にはならなかったが、ダメージとしては小さくは無いはずだ。
一瞬、怯んだキングに再びウルの魔法が直撃し、防ぐことも出来ず数メートル転がるように吹っ飛んだ。
「カミル、こいつの弱点は」
「ああ、状態異常の耐性がほぼないが……」
「――十分だ」
なるほど、ゴブリンの秘剣は低階層でドロップの唯一の状態異常武器。ドロップ率は低いが、対ゴブリンキングの武器だった訳か。
俺は左右の剣を持ち替え、転がったキングへと追い打ちをかける。
タイミングを合わせたかのように、ハルバートの切っ先が襲い来る。反射的に首が動き、鼻先を掠めるだけに終わったが、間一髪と言った所か。
次いで放たれた矢がキングの肩に刺さる。
キングは怯む素振りもなく、乱暴にそれを引き抜き――。
ゴブリンキングの目の色が黒から禍々しい赤に変わり、押し潰されるほどの重圧が空間全体にのしかかる。
ゴブリンキングが俺達を強敵とみなし、スキルを発動した。
「狂戦士か、厄介な野郎だ」
ここまで連携のおかげで優勢に立てていたが、どうやらここから先はそう甘くはいかないようだな。