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【完結】最弱から始まる廃課金ゲーマーのダンジョン攻略~最弱キャラに転生したけど、知識と経験があるので最強です~  作者: 吉良千尋
第2章

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32話 貴方の力に



案の定、リリアは鬼の形相を浮かべ俺の元へ駆けてきた。

これから言われることは、想像できるし言わんとする事も理解はできる。

だからこそ聞くのが面倒と思ってしまうのは、俺が子供だからだろうか。


「――さっきのはどういうつもりですかッ!」


ほらきた言わんこっちゃない。

俺はカミルにコイツを止めろと視線で訴えたが目をそらされた。

俺は上半身を起こし気だるげに、


「どういうつもりも何も、仕方ないだろ。あの状況でお前らの所に合流したとしても、全滅するのは目に見えてる」


「だからって! あんな……あんな事するなんて……私は認められませんから」


思った以上に長引きそうだな。顔を赤くしツンケンしているリリアと、面倒くさそうにしている俺を見てクラッドが割って入ってきた。


「ちょ、ちょっと、2人ともどうしたんすか? さっきまで仲良さそうにしてたじゃないっすか」


間の抜けた顔で空気の読めない事を言うクラッド。


「そんな事ありません! だいたい、クロードさんは勝手すぎるんです。人の気持ちも考えないで。何でもかんでも自分が無理すればいいって思い込んでます。連結階層に入ってから、特にそうですよ」


「いや、別にそんな事は……」


ある。実際そうだ。この中で1番戦闘能力の高い俺が、他の奴らと同じ働きではコイツらの負担が増えてしまう。

ある程度、俺はそれを考慮して戦ってきたつもりだ。だがそれも全て勝算ありきの行動であって、ただ単に無理をしているのとは違う。

言うなれば、パーティとしての戦略だ。


顔を真っ赤にさせて、憤慨しているリリアにこれを言っても理解はされないだろう。


自分が間違っていない自信はあった。ただ何故か胸に針が刺さったような痛みを感じる。


「ありますよ! シンさんの時、思わなかったんですか? もう誰にも死んで欲しくないと。私は思いました。 もう二度とあんな気持ちにはなりたくありません。貴方の、その掌の傷は……一体何の誓いなんですかッ! 全部が全部貴方に守ってもらわないとけないほど、私達は頼りないですか……そんなに、私達は……信用、されてないんですか……どうして、無茶ばかり……するんですか……」


リリアは今にも泣き出しそうなほど、嗚咽が混じりどんどんと声が小さくなっていた。

普段冷静なリリアが、こんなにも取り乱すのを見るのは初めてだった。


「俺は――」


言いかけて気付いた。俺の行動は全て俺の為に繋がっている。コイツらの気持ちなど考えたことはなかった。

勝手に決めつけ、パーティの最善がコイツらの最善だと思っていた。

言葉が喉に詰まって声にならない。


「もっと……もっと頼ってください。もっと、自分を……大切にしてください。お願い、ですから……」


「それはそうっすよね。クロードさんは強くて頼りになるっすけど、見てて怖いっすよ!」


クラッドまでもリリアに味方した。

リリアはもう泣く事を我慢しようとはしなかった。

ヘタリ込み、うずくまり、血にまみれた地面に涙を零した。


「残念だが、リリア君の言うことは正論のように思えるよ」


カミルまで。


「クロード、お主、馬鹿じゃのぅ」


ふと、ウルがニヤついた顔でそういった。


「こういう時は、ごめんなさい、なのじゃ。そんなことワシでも分かるのじゃ」


「お前らなにを――」


全員が俺を見ていた。泣きじゃくり目を腫らしたリリアは、その目に強く感情を乗せている。

敵意はない。貶めるつもりもない。ただ、仲間に向けた慈愛の眼差しだった。


俺は、こんなもの知らない。元の世界でこんなものを向けられたことはない。会社でこき使われ、感情のない視線を浴び続けた。俺の代わりはいくらでもいる、と。


だから俺は『seek the crown』に逃げた。金さえ積めば羨望の対象になれたから。

誰からも見られることはなく、画面越しでのコミュニケーションですんだから。

俺は最強だった。俺の代わりなんて1人もいなかった。


自分が1番強くて、他の奴らの面倒を見ればそれで全てが解決してきた。

頼るとか、そういうのは戦略以外では考えたこともない。


ましてやコイツらはアプリのキャラクター。厳密には人間ですらない。

そんなコイツらに俺は、何を言わせているんだ。


人間らしくないのは、俺の方じゃないか。

コイツらの方がよっぽど人間だ。


「私……本当は怖かったんです」


消えそうな声でリリアが呟いた。

俺はまだ何も言えなかった。


「こんな世界に来て、何も分からず戦えと言われて……凄く怖かったんです。でも、そんな時貴方が……貴方が道を拓いてくれました」


「――――」


「殺戮の世界で、仲間を守り……もう駄目だと思った時、必ず皆を助けてくれました」


――違う。そんなんじゃない。


「最初のダンジョンでも、その次も……今こうして私達がここにいるのは、全部……全部貴方が助けてくれたからなんです……私達を助けてくれた貴方に……私達は何も、返せていないじゃないですか……」


――俺はそんな大層なことはしていない。


「貴方の力に、なりたいんです……」


「――ぁ」


「貴方の背中を守りたいです……貴方と一緒に戦いたいんです……」


「俺は――」


言いかけて、リリアが俺を強く抱き締めた。

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながらも、両腕は俺を離してはくれない。


嗚咽が耳に響く、零れた涙が胸に染みる。


「――辛いなら辛いと、助けて欲しいなら助けて欲しいと言ってください。貴方は1人じゃないんです……いつも、いつでも私達は……私はッ……ちゃんといますから……」


胸の内が、熱くなるのを感じる。


俺は今までコイツらがどんな気持ちで、どんな表情で居たのかを思い出せない。


簡単な、事だったのか。

助けてくれと、そう言えばいいだけだったんだ。

この世界でも、元の世界でもそうだ。思い返せばただの1度も自分から頼る事はしなかった。


そうする事で俺自身が、周りを遠ざけていたのかもしれない。

殻に閉じこもって、差し伸べられた手を取らなかったのは、俺だったのか。


1人で何もかもこなそうとして、コイツを駒のように扱っていた。

駒の失いたくないから無理をさせず、使えないから俺がやればいいと、心のどこかでそう思っていた。


俺は27にもなって、こんな簡単な事にも気付かなかったのか。


助けて欲しいと、協力して欲しいと素直に言えばよかったのか。


「――リリア」


「はい」


俺の呼びかけに、腕を離し顔をみて応じる。

乱れた金髪、潤んだ唇、そして力のある瞳が俺をじっと見つめていた。


「悪かった」


「なにがですか」


その目は未だ、じっと見つめている。


「お前らの気持ちを考えていなかった。1人で戦っている気になっていた」


「そうですよ、ちゃんと反省してください」


リリアは柔らかく微笑んだ。

クラッドもカミルもウルも、同じく微笑んでいた。

少し気恥ずかしい気持ちが駆け巡る。


「この先、今以上に辛い戦いになる。俺1人ではどうすることも出来ない。――手伝って、くれるか?」


答えは分かっている。ただ、きっと口に出してこれを言わないといけない気がした。


「嫌だと言っても、そのつもりですよ」


リリアはそう言って無邪気に笑った。

この世界に来てから、ずっと感じていた孤独感がすっと消えていくような気がした。


「じゃあ、改めてこれからもよろしくっすよ!クロードさん」


クラッドは笑顔で手を差し伸べ、俺はその手を掴んだ。

もっと早く、気づくべきだったな。


「早く次にいくのじゃぁーっ! ワシはもっともっと魔法を使いたいのじゃぁ! な、何をするのじゃ!」


ぶんぶんと杖を振り回す。ウルなりに気を使ってくれたのだろうか。

俺は感謝の気持ちを込めウルの頭にそっと手を置いた。これは別に伝わらなくてもいいことだろう。


「なんだか私の若い頃を見ているようで、胸が熱くなったよ」


「恥ずかしいからやめてくれ」


カミルは髭をさわりながら、ニヤついた顔で俺を見ていた。

次は7階層。この連結階層の最深部だ。

でもコイツらとなら不思議も不安はない。


「クロードさん」


ふとリリアが俺の手を握る。

確かめるような、信じているようなそんな目をしていた。


「ああ、わかってる。もう大丈夫だ」


俺は、俺達はまだまだ強くなれる。


「行くぞ、次で最後だ」


俺達は今までにない一体感を感じながら、続く最深部の7階層へと歩を進めた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

俺達の戦いはこれからだENDっぽくなってますが、そんなことはなくまだまだ全然続きます。


いつも応援ありがとうございます!

今後ともよろしくお願いいたします。

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