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29話 炎龍


「キリがないな……」


既に50匹は殺した。クラッドとカミルと合わせれば100は超えるだろう。

だがそれでも、目の前の大群はさほど変化があるようには思えなかった。


ただひたすらに刃を振るう。考える必要などない。

血で血を洗い、骸の山を築き、それでもなお両の腕を止めるわけにはいかなかった。


それに少しだが敵の比率が変化したようにも思える。ゴブリンが減り、ホブゴブリンやジェネラルと相対する事が増えた。

数の暴力に加え、微細ながらも個の力が増すのは中々に厄介だ。


俺は空から襲い来るキラービーを真っ二つに斬り裂き、


「クラッドッ! カミルッ! ここに居てもジリ貧だ、中まで戻るぞッ!」


「了解っすッ!」

「わかった」


目の前の敵を殺し、俺達は即座に撤退した。


「――――ッ」


背中を見せた直後、風きり音が鼓膜を揺らしたのを感じ、振り向くとオークの槍が俺を貫こうと放たれている。


旋回しそれを墨月で弾き、砦を目指し疾走する。

門には城壁から降りてきたリリアとウルが、俺達のサポートが出来るようにに構えている。


――いいタイミングだ。


「ウルッ! 全力でぶちかませッ」


ウルはそれを聞くと嬉しそうに飛び跳ね、


「任せろなのじゃぁっ!」


前線で戦っていた俺達3人は門へと辿り着き、俺含め全員が多少の傷を負っていた。

特にカミルが多いように見える。俺とクラッドは戦闘要員だが、その差が出たようだ。


敵の大群はもうすぐ後ろに迫っている。残った地雷や砲弾の爆発で多少足止めが効いてるが、誤差みたいなもんだ。


横を見るとウルが杖を天にかざし、


「魔導の真髄をみるがいい、燃え尽きるのじゃぁぁっ!」


薄々勘づいてはいたが、魔法の腕は悪くないがコイツはもしかすると相当痛い子なのかもしれない。

ウルが杖を敵に定めると、巨大な3重の魔法陣が展開され赤い輝きを放つ。


その刹那、魔法陣から膨大な量の炎が放たれる。

炎はその姿を変え巨大な炎龍となり、うねりながら大群へと迫り、その口で多くの敵を貪る(むさぼる)


そして、龍は爆音を轟かせ全てを灰燼に帰すべく爆発し、辺り一帯を焼き尽くした。

緑の草木の中に血で染めた赤と、焼き尽くされた黒が混じる。


「す、凄い威力ですね……」


「ああ、半分は死んでしまったようだ」


「ウルちゃんまじスゴすぎっすよ!」


口々に賞賛をウルに送るが、肝心のウルから返事はない。

ウルなら鬱陶しいほど自慢してくると思ったのだが――。


「――お前、まさかMP切れ……じゃないよな」


「まだちっとだけあるのじゃ……ちっとだけ……」


ウルは地べたに転がっていた。

まだMPはあると言っていたが、これはあてに出来なさそうだ。せいぜいカスみたいな魔法1発分だろう。


「カミル、核の部屋までこいつを運んでくれないか。少しすればMP自動回復で動けるようになるはずだ。その時にソイツを連れて戻ってきてくれ」


「ああ、わかった」


「カミルぅ、いつもすまぬのぅ……」


「――全くだ」


カミルはウルを背に乗せ、ため息をついて核のある部屋へと足を運んだ。


「て、敵はかなりへったっすね!」


必死にフォローするクラッドだが、実際ウルの功績はかなりのものだ。

もし仮にあいつが復帰出来なかったとしても、それに文句をつけることは出来ない。

現状の最大火力を、然るべき時に然るべき場所へ放ったのだ。


――たまには後で褒めてやるか。


【残り時間 10分】


ウィンドウが表示され、残り時間はあとたったの10分だった。

だがそのたった10分が、いかに長く地獄のような時間になるかは、俺とリリアは痛いほどによく分かっている。


「あと10分っすよ! これなら楽勝っすね!」


クラッドが楽観的になるのも無理はない。ここまで仕掛けた罠などのおかげで、大した負傷もおわずに時間が過ぎている。


本当に恐ろしいのは、全ての策が尽き肉弾戦になった時だ。そしてあと数分後にはそうなっている。

門の内側の落とし穴も、50匹ほど殺せれば上出来だが、それ以上は望めない。


俺とリリアは、自然に目線を交差させていた。


「――気を抜くな。もう罠に頼れないんだ。この先は地獄だぞ」


「なんだが、最初を思い出しますね。あの時もこんな感じでした」


リリアは喧騒とは無縁の空を眺め、穏やかな声でそういった。

最初、と言うのは経験値特化ダンジョンの事だろう。確かに状況は似ている。


「怖いのか?」


俺が聞くとリリアは一瞬キョトンとし、すぐに天使のような笑顔を浮かべ、


「いいえ、皆さんがいますし。それに、守ってくれますよねクロードさんは」


「馬鹿言うな。てめぇのケツはてめぇで拭け」


「ふふ、クロードさんらしいですね」


リリアは満足そうに笑い、弓を構える。

ウルの魔法があったとはいえ、まだまだ数は多い。

一定数撃破でクリアのほうがかなり楽なんたが、言っても仕方ないか。


「お似合いっすよお2人とも」


「――クラッド、無駄口を叩くな」


クラッドはニヤニヤした顔で割って入ってきたが、俺は相手にすることは無かった。

リリアはクラッドの軽口に赤面しているが、似合うも似合わないも、ここで死ねばそれまでだ。

今はまず確実に生き延びることが、最低条件。


「いいか、この落とし穴は最終局面につかう。それまでリリアは後方支援。俺とクラッドで門の前で食い止める」


「わ、わかりました!」


「了解っす! 」


敵はもうすぐそこまで来てる。


押し寄せる大群にリリアは先制攻撃で弓を放つ。

先頭のゴブリンの額に突き刺さり、それと同時に俺とクラッドは大地を蹴った。


視界に入る敵を全て斬り裂く。

迷いも、策略もない。あるのはコイツらを殺す覚悟だけ。


視界が緑と赤で埋め尽くされ、金属音と肉を斬り裂く音だけが鼓膜を支配する。


斬り殺し、殴り殺し、蹴り殺した。

それでも尚、波の勢いは止まらない。


目の前のジェネラルの肩に飛び乗り、首に墨月を刺し込み、新たな赤が草木を染める。


【おめでとうございます。レアドロップ R5ゴブリン族の秘剣を手に入れました】


――なんでもいい、今は手数が欲しい。


俺は迷わず真紅の刀身の秘剣を左手に装備した。これで、手数は倍になる。万が一墨月の耐久値がつきてもまだ戦える。


【R5 ゴブリン族の秘剣 (攻撃力+5 速度+5 出血1% )】


R5にしては並以下の性能だが、今の状況だと嬉しい誤算だ。

出血はこの戦いでは何の役にも立たないが、7階層では役に立つかもしれない。


右手に墨月を、左手に秘剣を装備した俺は、直ぐにその斬れ味を試すように跳躍し、ゴブリンの群れへと突っ込んだ。


迫り来る凶器を墨月で弾き返し、その隙をついて秘剣で斬り裂く。

斬れ味はそこまで良くは無いが、軽くて使いやすい短剣だ。


殺意の音が鼓膜を支配する中、わずかにクラッドの悲鳴が聞こえた。

目をやると、オーク3体に囲まれ尻もちを着いていた。


――マズイな。


俺は周りのゴブリンを蹴り飛ばし、クラッドの救援に向かう。

オークは既に剣を振り下ろしている。だがクラッドに当たる寸前、剣の軌道が横にずれクラッドの真横に突き刺さった。

オークを見ると、肩に矢が刺さっていた。


――リリアか! いい援護だ。


しかし、戦っている内に俺とクラッドの距離は開いていたようで、俺が着くまでまだ数秒はかかる。

その間オークが待ってくれる訳もない。クラッドは槍を振り回し、迫り来るゴブリンを殺し、オークを威嚇している。


――くそ、このままじゃ間に合わない。出し惜しみしてる場合じゃねぇな。


【スキル:王の資質Lv1を使用します】


【ステータスがアップしました】


王の資質はLv1でも、基礎ステータスの50パーセントが上昇する。周りのゴブリンからすると、走っていた俺が瞬間的な加速のせいで、消えたように映っただろう。


――これが俺に出来る最速最大火力。間に合ってくれッ!


ふと、視界の先にいるクラッドが必死な表情で俺になにか叫んでいた。

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