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28話 カミルの仕掛け


改めて門の外で敵の大群を目にすると、少しばかり不安がよぎる。

敵の数は少なく見積っても1000はいるだろう。

対して俺達は5人。制限時間付きとはいえ、中々鬼畜な階層だ。


敵との距離は目測で200メートルほどで、接敵まで1分もかからない。


「す、すごい数っすね」


「上手く罠が作動する事を祈るんだな。残念だが、まともにやり合って勝てる要素は1つもない」


俺達の頭上を黒い球体が飛んで行くのが見えた。それは大群の1部へと落下し、着弾と共に小規模の爆発を起こした。


「さっそく、やっているようだね」


どうやら上のリリアとウルが、大砲をぶっぱなしたみたいだ。


「開戦の狼煙にしちゃ殺しすぎだ」


着弾地点周辺の敵は、焼け焦げた者や吹っ飛んだ者で溢れ、10匹以上はその犠牲になっている。

そしてそれを皮切りに、次々と砲弾が発射され大群の所々で爆発し、敵を葬っている。


敵はそれでも慌てるそぶりなく、同じペースでこちらへ向かってきている。


突然、先頭のゴブリンが消えた。

いや、正確には消し飛んだ。地雷を踏んだのだ。


「中々いい威力だな」


次々に地雷を踏み抜き、爆発しゴブリンが死んでいく。上からの大砲と地面の地雷で大群はぐちゃぐちゃになっていた。


そしてその影響をほとんど受けないキラービーの集団が、城壁目掛けて飛んでいくのが見えた。

だが、そこに網のような物が放たれキラービーの集団を捕縛し、地雷の餌食となった。


「な、なんすかいまの! 網が飛んできたっす」


「お前の仕業だな? カミル」


カミルはニヤリと笑い頷いた。


「ああ、丁度いい網がいくつかあったのでそれを使ったんだ」


なるほど、確かにあれならキラービーに対してもかなり有効だ。

網の先端には重りも着いているようで、捕まれば確実に落下する仕組みになっているわけだ。


地雷が次々に作動する中、その中の1つが砲弾に誘爆した。

爆炎を巻き上げ、連鎖するように次々と爆発を起こすそれは、ゴブリン達には悪いが見ていて気持ちがいいほど規則的に爆発を引き起こしていた。


1回の爆発で数体が吹き飛ぶ。最前線で向かってきていた連中のほとんどは、もう死んでいるんじゃないだろうか。


敵との距離は50メートル程。後列の敵は前列を犠牲にし、爆発をかいくぐり接近してきている。


最初の地雷地点はほぼ全て爆発したのか、その地点をどんどん敵が通過していく。


「そろそろだな」


距離にして30メートルの地点で、再び地雷が爆発し、砲弾に誘爆。その次の瞬間、砦と敵を隔たるように炎が一気に燃え上がり、壁を形成した。


「――これは凄い。よく考えたものだ。敵の進軍を止めると同時に負傷者をかなり増やせる仕組みだな」


「ああ、だが思った以上に地獄絵図だな」


焼かれたゴブリンなどがもがき苦しみ、悲痛な叫びが聞こえる。ジェネラルやオークはなまじステータスが高いせいで、ゴブリンのようにすぐに楽になることもなく、生きたまま炎によりその身を焼かれている。


だがこの炎の壁も持って数分。いずれは突破されるはずだ。

これを突破されればあとは地雷と門の内側の落とし穴くらいしかない。そこからは肉弾戦だ。


「このままこっちに来ないと楽なんすけどね」


クラッドの心境は誰もが思っていることだ。

個々の戦力で言えば圧倒的にこちらに分があるが、数が多すぎる。


「そんな甘いわけないだろ。死にたくなかったらあいつら全員殺すくらいの気持ちでやれ」


炎の壁に遮られながらも次々とそこに突っ込んでいくモンスター達からは、狂気すら感じる。

突っ立って待ってればいいものを、自分から死にに行っているようなもんだ。まあでも俺達としては助かるがな。


次第に炎が弱まっていき、ちらほら突破する個体が出てきた。その大半がジェネラルやオークといった上位個体だ。


そして数が少ないので地雷が作動する確率も少なく、炎の壁を突破した内のジェネラル一体が門へと到達し――。


「――お呼びじゃねえんだよ」


俺は跳躍しすぐさま頭部に墨月突き立て、侵略を阻止した。

予想より少し突破するのが早いな。油の量が少なかったか。


「カミル、まさかお前の罠はさっきの網だけか? だとしたら――」


言いかけた所で、凄まじい轟音と共に大地が揺れた。爆発や魔法の類の音じゃない。大地そのものが悲鳴をあげたかのような音だ。


俺はすぐに敵軍を確認しようと振り向くが、


「だとしたら、何かな?」


炎の壁が死体により勢いが消され、残ったらモンスターのほとんどがこちらを目掛けて走り出す。

はずだった。だが、その炎の壁を越えたモンスターが見当たらない。大量の土煙によって姿を消したのだ。


「お前、何したんだ? あの土煙の量、尋常じゃないぞ」


カミルは敵を見て得意げに笑っていた。今の轟音と土煙はカミルの仕業らしい。


「なに簡単な事だよ。向こうに井戸があってね。井戸があるって事は水路があるということだ。そしてその水路はどこにあるかと言うと、丁度あの下ら辺を通っているんだよ」


「それと何が関係あるっすか?」


「つまり、ウル君の魔法で一定の加重で地盤沈下が起きるように、下から削っていたって事さ」


なるほど、やっと理解ができた。水路の補強された天井を削りまくった訳か。中々ぶっ飛んだ発想だ。

だがそれと同時に、かなりリスクもあったはず。自分達が生き埋めになる確率も、決して低くはない。


「それであんなに時間がかかっていたのか。くえないやつだ」


「もう暫くしたら、その井戸から奴らが這い上がってくるだろう。そうしたら砲弾を投下して、殺すついでに塞いでしまえば、奴らはまた引き戻さなければならない。少しばかりだが時間を稼げるとは思わないかい?」


カミルはそう言って、砲弾を持ち上げ井戸のある方へ歩いていった。

正直、予想以上の成果だ。大規模殲滅と時間稼ぎ、その両方をこんな簡単にやり遂げるとは……。


「クラッド、お前はカミルと一緒に井戸まで言って(行って)様子を見てこい。万が一キラービーが来たら援護してやってくれ」


「はいっす!」


――突破した奴らの数が少ない内に少し片付けとくか。2人1組で行動していれば、最悪の場合でもすぐにはくたばらないだろう。


【残り時間 15分】


ウィンドウが表示され、残り時間を告げる。


「残り15分か……まだまだ先は長いな」


俺は墨月を抜き、地獄のような門の向こう側に向け歩を進める。

敵は数体地盤沈下すら逃れ、核を破壊すべくこちらへと迫ってきている。


数体のゴブリンが俺の存在に気づくと、やかましく叫び始める。

そして無策にも総攻撃を仕掛け、飛びかかる。


「お前らには用はない」


ゴブリンが至近距離まで接近し、俺は駆け出すと同時にバラバラに切り刻む。


そして奥にいるオークの元まで加速を続ける。

射程圏内に入った瞬間、オークは俺にタイミングを合わせて槍を突き出してきた。


咄嗟の判断で、身体を捻ったが槍の切っ先は腰を掠めた。

だがそれと同時に、そのままの勢いで回転し、オークの首の横に墨月を突き刺した。


オークがその場に沈み、付近のジェネラルとゴブリンが向かってくる。


――ちまちまちまちま、鬱陶しい奴らだ。


俺はオークの持っていた槍を奪い、ジェネラル目掛けて投擲。

槍は加速に加速を重ね、風きり音と共にジェネラルの腹部を貫通し、その後ろにいたゴブリン頭部に突き刺さった。


「もう少し全線(前線)で暴れてもいいが、広すぎると全部はカバーできないか……」


辺りを見回すと、そこら中にゴブリン達が砦を目指して進軍していた。

俺は戻りがてら、幾つかの小隊を殲滅し再び砦で迎撃する事にした。


見ると、既に門付近でクラッドとカミルが交戦している。

数は少ないので、サポートにまわりゴブリン達を後ろから斬り殺す。


「クラッド、カミル。ここからが正念場だ、死んでも耐えぬけッ!」


目の前に迫るモンスターの大群を睨み、残っていたゴブリンの首を切り落とした。

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