113話 魔女との決着②
「兄貴……もしかして……」
さすがにアルベルトでも気付いたか。
メーデイアの発言は完全な不死者のソレではない。
「ああ、間違いない。コイツの不死には制限がある!」
本当に不死なら俺達程度なんて言葉は使わない。誰であろうと殺せないんだからな。俺達には殺せないが、俺達よりもっと強い奴には殺せる。そう言ったんだ。
不死に回数制限があるはず。思い返せば簡単な事だった。最初に殺した時は、一瞬で再生していた。それが今は数秒の時間を要しての再生。明らかに速度が落ちている。
「今更それに気付いたってどうにもならないでしょ? おにーさん達、もうボロボロじゃん」
そう言ってケタケタとわらうメーデイア。その通りだ。ポーションも切れ、でかいスキルも使えない。
アルベルトは知らないが、俺に至ってはHPMP共に4割程度しかない。イペタムの吸血のおかげでHPを保てているが、それが無ければ残り1割程度だ。
ケラノウスも相当だが、イペタムの方もぶっこわれだなあ、
疾風迅雷はまだ何回か使えるが、原罪の方は使う程の余力は残ってない。どうせアルベルトも似たようなものだろうな。
2対1とは言え、どちらが有利はかは明白だ。
「はっ、てめぇには丁度いいハンデだろ」
──リリア達はどうなっているんだ。カイロスに会えたのか? まさか、ボス戦に突入したのか……?
そのままカイロスに会えることを願っていたが、ここまで時間が過ぎても俺達にもメーデイアにも変化がない。俺の見通しが甘かったか。
いや、今はメーデイアに集中しよう。俺達がここで死ねば元も子もない。
強がってはいるものの、どうしたもんかな。
ふと、カミルからもらった謎の液体を思い出した。効果不明の黒い液体。カミルには絶対な信頼を置いているが、それでも失敗は付き物だ。
この状況で、失敗作だった場合……確実に俺は死ぬ。そうなればアルベルトの生存も難しくなるだろう。
まだ早いか? いやもう既に状況は最悪に近い。賭けるなら今だ。
アイテムボックスからソレを取り出すも、変わらずな名前すら分からない。ドス黒い液体がぴちゃぴちゃと瓶の中で揺れている。
「これを飲むのか……?」
どちらかと言えば、見た目は毒だ。それに気持ち悪くてあまり気も進まない。
「ええい一か八かだッ! ──うっ……ま、まずい」
蓋を開け、一気に飲み干す。舌に触れた瞬間から恐ろし程の苦味が口いっぱいに広がる。ポーションは美味いもんじゃないが、ここまで酷い味がするものでもない。
HPの回復もMPの回復もする気配がない。
──まさか、失敗作?
そう思い、半ば後悔し始めた頃ウィンドウが表示され、
【全てのスキルレベルが1上昇しました】
【スキル 原罪の王がレベル10になりました】
【EXスキルのレベルが上限に達しました】
【R8クロード・ラングマンの情報を元にスキルの再構築を始めます】
【スキル 双剣の極意のレベルは既に上限に達しています】
【R8クロード・ラングマンの情報を元にスキルの再構築をはします】
【スキル 疾風がレベル10になりました。スキルポイント30を利用してスキルが進化可能です。進化しますか? YES/NO】
──これは……スキルレベルアップのポーションか!? カミルの野郎、とんでもない物を造りやがったな……原罪の強化に極意の強化、これだけでも恐らくは相当なパワーアップになるだろう。それに加え、半ば諦めていた疾風迅雷のカンスト。拒否する理由がねぇ。
30ポイント全てを消費し、迷わずYESを選択。
【スキル 疾風が韋駄天に進化しました】
【スキル 韋駄天Lv1 速度70%アップ。攻撃力10%アップ。回避10%アップ】
遂に速度上昇の最終形態である韋駄天に辿り着いた。これを見越してのスキル選びだったが、やはり破格な性能だ。
常に疾風迅雷以上の効果があり、MPを使用する必要も効果時間を気にする必要もない。
──後は原罪と極意だが……スキルの再構築なんて聞いたこともない。変に尖ったスキルじゃなきゃいいが……
【スキル 原罪の王の再構築により、ユニークスキル 神蝕の堕天使を獲得。200秒間神蝕状態になり、全ステータスが100%上昇し、全ての攻撃に神蝕が発生します。このスキルにはレベル概念が存在しません】
【神蝕の堕天使には攻撃スキルとサブスキルが含まれます】
【神蝕の堕天使 攻撃スキル 破天星撃 使用回数2】
【サブスキル 魔眼】
【スキル 双剣の極意の再構築により、ユニークスキル 建御雷神を獲得。このスキルにレベル概念は存在しません】
【スキル 建御雷神 全ての斬撃が追加攻撃が発生し、斬撃による与ダメージが10%上昇。斬撃による被ダメージが5%減少】
「……やりすぎだろこれは」
明らかに今までの比じゃないレベルのスキルだ。神蝕というのはわからないが、そもそも神蝕の堕天使が自虐スキルじゃない事がおかしい。
建御雷神の方だって、これのスキルが常時発動しているとなると相当強化だ。
「兄貴、ど、どうだ?」
不安そうに尋ねる。あれこれ考えるのは後にしよう。それに、強くなったのには変わりがない。
「見てればわかる」
「そんなの1本飲んだ所で変わらないよーだ!」
メーデイアは俺がたった今、別次元の強さを手に入れた事をしらない。余裕のある表情で、自分の不死を疑いもしない。
【スキル 神蝕の堕天使を発動します】
【神蝕状態に入ります。ステータスがアップしました】
禍々しい黒いオーラが身を包み、身体の底から力が溢れてくるような感覚。今ならどんな奴にだって負ける気がしねぇ。
メーデイアはもう、俺を捉えきれない。
「何度も言わせんな。──てめぇの不死は今日で終わりだ」




