107話 違和感の正体
ウルの火力は確かに凄まじいものだったし、俺もクラッドもそれなりのダメージは与えたのは間違いない。
だが、呆気なさすぎやしないだろうか。仮にも神域ダンジョンのフロアボス手前の部屋だ。言うなればフィールドボスに近いレベルのはずだ。今まで多くのフィールドボと戦ってきたが、どのボスももう少し手間取った。
なのに、今回はどうだ? 俺達が初手から全開だったとはいえ、ほぼ無傷。それで終わることがあるのだろうか。
──超速再生の弱点を上手く着いたのか? だとしても腑に落ちねぇ。
いや予感がし、ふと肉片をみると──
「おい嘘だろ……まさかこの状態から、再生すんのか……? ウル──チッ、クラッド、手伝えッ」
モゾモゾと微かに動く肉片は、徐々に中央へと集まりだしていた。この状態で攻撃が効くのかはわからないが、やらないよりはやった方がいい。
本当はウルの魔法で一気に焼き尽くしたかったが、どうやらさっきの魔法で相当MPを使ったのか、少し顔色が悪い。まだ魔法は使えるとはいえ、ここで無理させて倒れられては本末転倒だ。
効率は悪いが、俺とクラッドで殲滅する他ない。幸い、ケラノウスの雷撃なら多少は範囲攻撃ができる。
「はいっす! ……うわ、キモイっすね。やだなあ」
原型がないことから緊張感が欠けているのか、嫌そうな顔で槍を手に取る。
「うだうだ言ってんじゃねぇ! ここで倒しきれないと、相当面倒だぞ」
ウルのあの魔法は暫く使えないだろうし、何より俺とクラッドのスキル効果は既に全て切れている。
もう一度使えないことはないが、次戦がかなり不利になる。
ケラノウスを振り抜き放たれる雷撃で肉片を焼き尽くす。
クラッドは集まって大きくなってきている肉片を片っ端から切り刻んでいく。
これが有効なのかはわからないが、それでもやるしかない。
「あは、確かに! これは手強いねー!」
ふと、声が響いた。その方向に目をやると、傷一つないルルの姿。
──なんでコイツが……確かに肉片は焼き払ったはずだ。くそ、デタラメな野郎だ。
「ど、どういうことっすか!?」
「そんな……どうして……?」
2人が動揺するのも無理はない。俺だって何が起こってるかさっぱりわからねえ。
ただ1つ分かったことは、俺達はコイツの事を勘違いしていたってことだ。再生系の能力は確かに強力だが、どこかに核がありそれが破壊されるか、再生限界を迎えるかすれば殺す事はできる。
超速再生だと思っていたが、どうやらそれは違うようだな。
──焼き払った状態から再生するとは思えない……って事は、コイツの身体は本体じゃない……? だが仮にそうだとして、本体はどこだ。この空間には間違いなく俺達5人と目の前のコイツしかいない。
「いやあ凄いねおにーさん達。たまたまかもしれないけど、あんなにあっさり殺されたのは初めてだよ」
どこか楽しそうに話すルル。その内容に違和感を感じた。
「……まるで何回も殺された事があるみたいな口ぶりだな」
そう、あっさり殺されのが初めてなんて普通は口にすることはない。つまりコイツは今までに何度か殺された事があるって事になる。
「うーん、凄い気になってるみたいだしぃ? 僕の能力教えてあげようか? どうせ、知った所でどうこうできる訳もないしね」
余裕の表情からは自身の能力に絶対的な信頼がある事が伺える。しかし、これは俺達にとって攻略のチャンスだ。
「はっ、どうせ大したことねぇだろうが聞いてやるよてめぇの能力」
「強気だねおにーさんは。ま、いいや。教えてあげる。僕、不死なんだ」
ルルは狂気を感じさせる表情で、しかしどこか悲しげに言い放った。




