105話 予感
俺が飛び出した直後、ウルは詠唱を開始しクラッドは挟撃の位置取りをした。リリアは左右に矢を打ち込みルルの逃げ場をなくす。
「とっておきっすよ!」
クラッドの槍が徐々に赤黒いオーラに侵食されていく。
──あれは……魔装ゲイボルグか。いつの間にあんなスキルを……
魔装ゲイボルグ。槍術士の最強スキルであり、パーティにいれるなら取得は必須の攻撃特化型スキルだ。
取得条件は恐らく俺の知っているものとは違うのだろうが、それでも簡単な内容じゃないはずだ。
防御無視に加え、命中補正がつきダメージは全て持続化する。単体火力は少し低めだが、長期戦においてはチート級な効果を発揮する。
ただ弱点もある。被ダメージが20%増加する。まさに背水の陣だ。
それならば俺は補佐に回るとしよう。どの道、超速再生持ちじゃ、一撃で決めれるかどうかも怪しい。
クラッドの持続ダメージで様子を見ながらタイミングで高火力をぶち込めばいい。
最悪、もう一度王の一撃を使う事になるかもしれないな。だがそうすれば次の階層では恐らく使用回数制限により発動はできない。
──ウルの最大火力でかたがつけばいいが……
「クラッド、メインの攻撃はお前に任せる。リリアはアイツの動きを阻害してくれ。ウルは……まあ好きにしろ合わせてやる」
各々がそれを快諾し、ルルを囲み始める。前後に俺とクラッド。左右にリリアとウル。
向こうの戦闘能力はいまだ未知数。だが位置的優位、数的優位はこちらにある。
「おい、にやけヅラしてられんのも今のうちだぞ」
「うふ、だってぇ……楽しくって」
愉悦に浸っているようなその表情は異常者のソレだ。もしかしたらアルベルトの妹とやらは、もうどこにもいないのかもしれない。
── だとしたらアイツは今までなんのために戦ってきたんだ? いや、余計な事を考えるのは後でいい。今はコイツをぶちのめす。
「キチガイが……」
影化を使い瞬時に距離を詰め、真下からの強襲。
影からケラノウスを突き出し、同時に威神力で押し潰す。
クラッドは俺が消えた瞬間に動き出し、神速の連撃を放つ。
左右に逃げればウルとリリアが、上に逃げれば全員が追撃のチャンスを得る。
「あは、強いねえおにーさんたち。やっぱりちょっと厳しいかなあ……」
ルルは最低限の動きでまずケラノウスの刃を弾く。クラッドの連撃を完全に避ける事は出来なかったのか、擦り傷が増えていく。
そして太ももに弓矢が深く突き刺さり、一瞬動きが止まる。
──今だッ!
すかさずイペタムの刃を振り上げる。肉を斬り裂く手応えと共に血液が噴射。
この短い攻防の間、ルルはあまり対処出来ていない。傷は負わせた。再生するにもある程度力を使うはずだ。なのに、
──なんで笑ってやがる。
傷が増えていく中、不敵な笑み。何かがおかしい。順調すぎる。神域ダンジョン初の敵として、難易度が低すぎる。
 
「離れろクラッドッ!」
嫌な予感がし叫ぶ。直感に身を委ね、影化でリリアの影に移動すると──
「な、なんですか……アレは」
「化け物が」
まるでルルを押し潰すかのように、闇の柱が天井から伸びている。
「あははははは。いいよ! おにーさん達最ッ高だよ! あは、油断しちゃダメだからネ」
その中から狂気じみた笑い声が響き、やがて柱はルルに吸収されるように収束していく。




