104話 アルベルトの頼み
正直なところ、単純なスキルの威力で言えば俺とアルベルトにそこまで大きな差はないはずだ。
アイツの崩拳は命中率も高く爆発的な火力がある。それは俺自身、身をもって体験してる。
王の一撃もそれと同等の威力はあるが、今回撃ち合ってみて俺の方は無傷、恐らくアルベルトは致命傷をくらったはずだ。
何故か。ステータス差もあるが、何より大きいのは武器の性能差。ケラノウスとイペタムはハッキリ言えばチート級の性能だ。態々システムが創造するレベルなら、他のR10よりも優れているのは当然の事。
アルベルトの拳鍔のレア度はR9。優秀な武器なのは間違いないが、俺のと比べるとまるで玩具だ。
同等のスキルでも攻撃力に差がつけば、それ以上に威力は差がつく。単純な撃ち合いで俺が負ける道理は1つもない。
徐々に土煙が晴れると、そこにはボロボロになったアルベルトの姿。
──崩拳のおかげで威力は半減したか……だが、全開の王の一撃をくらってもまだ立ってとは、さすがだな。
「へへ……や、やっぱ兄貴は強えや……がふッ……はぁ、はぁ……」
立っているのがやっとなのか、小刻みに震えている。右肩から腰にかけて斜めに大きな裂傷。とめどなく血液は流れ、吐血もしている。
恐らくは持続ダメージ状態にある。放っておいても死んじまうだろうな。そこ前に、アイツとはケリつけておきたい。
アルベルトはこうなるのを分かっていたのだろう。じゃなきゃ負けるとわかってて正面から撃ち合いなんてする訳がない。
「もう喋るな、死ぬぞ。酷かもしれないが、お前はそこで事の顛末を見届けろ。俺達は先へ進む。あれはお前の妹じゃねぇんだ。悪いが斬り伏せるぞ」
肩に手を置くと、アルベルトは瀕死とは思えないほど力強くその手を握った。
「る、ルルを頼んだ、ぜ……兄貴」
「ああ……」
そっとアルベルトを寝かすと、か細い呼吸音が聞こえてくる。思えば、コイツがこんなに弱っている所なんて見たことがない。
──こんな事をするために、俺はここまで来たんじゃねぇ。どこまでも馬鹿にしやがって……
沸き起こる怒りは計り知れないが、自分でも不思議な位に冷静だった。
リリア達に目をやると、多少押されてはいるが上手く立ち回っているみたいだ。
怒気を含んだ俺の視線にルルが気付き、余裕の笑みを浮かべ、
「あちゃ……もうちょっと時間稼ぎ出来ると思ってたんだけど……ほーんと、駄目なお兄ちゃんだ──」
「黙れよ」
俺の中で何かが切れた音がした。
気付けば俺は駆け出し、イペタムを振り下ろしていた。
「ッ! なになに、なんか強くなっちゃってない?」
金属音を響かせ、刀で受けられたがそんな事は想定内。威神力で上から更に力を被せ、無理矢理押し潰す。
【スキル 威神力がレベル4にアップしました】
「なッ! まだ強くなるの!?」
徐々にイペタムの刃がルルの顔面に近付く。冷や汗を垂れ流している所を見ると、コイツにとって俺の力は想定外だったらしい。
「てめぇらは許さねぇ。消し炭にしてやる。お前ら、コイツは俺がやる。手を出すな」
「いいえ、出しますよ」
「ぐぅッ」
後方から聞こえたのは間違いなくリリアの声。
それと同時に俺の肩上を1本の矢が疾走し、ルルの腕に突き刺さる。
一気にバランスを崩したルルは、イペタムの刃を抑えられなくなり右肩に刃が沈む。
手応えはある。致命傷とまではいかないが、それなりの深手だ。一瞬俺の力が緩んだのを見逃さずに距離を取り体勢を整える。追撃しようと思えばできるが、ここは敢えてしなかった。
「何のつもりだ、リリア」
「こっちのセリフですよクロードさん。貴方の気持ちは痛いほどわかります。それはクラッドさんもウルちゃんも、私だって同じ気持ちです。私達はパーティです。仲間です。貴方一人が辛い訳でも、怒っているわけでもないんですよ。だから……1人で背負わないでください……」
「リリア……」
泣きそうになっているのか、声が小さくなっていく。コイツの言いたいことは分かっているつもりだ。
1人で突っ走りたい訳じゃない。
「クロードさんって不器用っすよね。俺達そんな信用ないっすかねー」
お前らの気持ちも分かってるつもりだ。信頼も信用もしてる。だからこそ、俺がやらないと駄目なんだ。こんな事をするのは俺1人で充分だ。
「アルベルトのバカに何を言われたのかわからんが、ワシだって怒ってるのじゃ! あのバカにも、そいつにも、お主にもじゃ!!」
そういえばウルはアルベルトと仲が良かったな。喧嘩ばかりしていたが、なんだかんだ息はあっていた。
「お前ら、アイツを殺すことの意味、わかって言ってんのか」
──中身は違えど、身体は仲間の身内だ。敵を殺すのとは訳が違う。
「くどいっすよ!」
「チッ……勝手にしろ」
もう何を言ったところで聞かないだろう。せめてトドメは俺がさす。
──それで納得できるか?アルベルト。
「もういいかな? 僕待ちくたびれて回復しちゃったよ? 勿体ないなあ、結構チャンスだったと思うんだけど」
見ると、先程までの傷は綺麗に無くなりケロッとした顔のルルが日本刀を担いでいた。
回復魔法を使った気配はない。
──と、なると超速再生か……
「チャンス……あんなのが? 舐めんなよクソガキ」
4対1だ。速攻でケリをつけてやる。
俺は再び双剣を構え、ニヤつくルルを睨み飛び出した。




