102話 再会
「何がどうなってやがる。まだ……何もしてねぇぞ」
まさか何もなしでクリアとは想定外すぎる。いや何もないに越したことはないんだが、どうも腑に落ちない。
これまでどのダンジョンも何かしらのアクションがあった。何かあると考えるのが妥当だろうが、ウィンドウが告知して、次の資格も獲得してる。
「流石に怪しいですね」
リリアも困惑の表情。よく見ればウル以外は同様に困惑している。
アイツは馬鹿だからきっと、
「らっきー! なのじゃ! クロード、らっきーなのじゃ」
「お前はもう少し疑いを持て」
コイツみたいに馬鹿になれれば、もう少し楽になる事もあるだろうが、こんな能天気な奴はパーティに1人で十分だ。2人以上いたら壊滅してしまう。
「でも考えても仕方ないっすよ」
「そうだぜ兄貴。訳わかんねぇけど、先に進もうぜ」
言い返してやりたい所だが、2人の言う通り先に進むしかない。それはわかっている。
「意味がわからねぇが油断はするな。いつ何があっても対処できるようにしとけ」
気味が悪い。神域に入ってからずっとだ。展開がまるで読めない。油断しているつもりはないが、通常のダンジョンと同じと考えていたらその内痛い目にあうかもしれない。
訳も分からないうちにクリアしてしまった壱の間のだだっ広い空間の先にある階段を上ると、
【神宮 弐の間に侵入しました】
壱の間と似たような作りで、無駄に広い空間。
その中央には、金の装飾を施された椅子に座っているのは、
「やっほー! さっきぶりおにーさん。あと──」
「……てめぇッ!」
飛び出したアルベルトだが、どうやらルルと面識があるらしい。
ルルはきゃっきゃと笑い、掴みかかる腕を払い除け、
「お兄ちゃんもお久ー! てか愛しの妹に乱暴しないでよ。それとも、そっちの関係でもあったの?」
「ふッざけんな! ルルを返しやがれ! ルルの身体から出てけよッ」
激昂するアルベルトだが、イマイチ話が読めない。
──どういう事だ? アイツがアルベルトの妹だってのか。
他の奴らも俺と同様に困惑が隠しきれない。まさか、仲間の身内が敵として、それも神域ダンジョンに登場するなど思うわけがない。
「アルベルト、どういう事だ」
「どうもこうも、コイツは……俺の住んでた村の人達を、妹を殺したんだッ! どうやったのかは知らねぇけど、ルルの身体を乗っ取りやがった」
「乗っ取るってそんな事出来るんすか!?」
興奮状態にあるアルベルトだが、全力で突っ走って行かないだけでもまだマシだ。さっきので分かったが、コイツの強さは相当なもんだ。全力全開で戦っても勝てるかどうか。
それにコイツを倒した後の事も考えると、それなりに力を温存する必要がある。その為にも全員の連携は必須。1人の私情で全滅なんて笑えない。
──それよりも、本当にアルベルトはコイツと戦えるのか? 中身は知らねぇが、身体は妹だ。アイツに身内を傷付ける事が出来るとは思えない。と、なると実質戦力は格段に落ちるな。さて、どうしたもんかな。
「よーするに、悪いヤツなんじゃな! それならワシの魔法で」
「──ダメだッ! コイツはぶっ飛ばす。でも、ルルを傷付けるのはダメだ。俺のたった一人の家族なんだ……」
言ってる事が矛盾しているのにも気付いていない。言いたいことは分からなくもないが、それをする為の方法がないんじゃ話にならない。
「アルベルトさん……何か方法はないんでしょうか」
あーでもないこーでもないと言い合う俺達を見て、ルルは何やら楽しそうに笑った。
「ふふ、私の為に争わないで! あはっ、これ1回言ってみたかったんだぁ」
「てめぇこの野郎ッ」
「落ち着けアルベルト。安い挑発に乗るんじゃねぇ」
「くそッ」
人の神経を逆撫でするようなルルだが、それは明らかにアルベルトの弱い精神面を狙っての事だろう。
兎にも角にも、コイツを殺らなきゃ次へは進めない。
「おい、茶番はもういい。3つ質問に答えろ。まず1つ、てめぇの正体はなんだ。アルベルトの妹か? それとも別のナニカか?」
「つれないなぁおにーさんは。仕方ないから答えてあげるよ! 器は妹ちゃんのだけど、魂は違うよー!」
一回転してピースサイン。どうにも場違い感が否めない。が、こいつの言うことが本当ならば中々に厄介だな。
「次だ。さっき言ってた嫌な戦いってのは今回か? それとも次か?」
「んー、勿論今回だよ」
即答か。今回は一筋縄にはいかなそうだな。色々と覚悟を決める必要がありそうだ。
「そうか。最後だ──てめぇを殺せば次に行けんだな?」
「兄貴ッ!」
「あはっ、おにーさんこわーい! でも、そういう事だよ」
クラッドもリリアもウルも、そしてアルベルトも俺が何を言いたいかわかったはずだ。
この場の雰囲気が一転したのがわかる。それは何も俺達だけじゃない、ルルから放たれる異様な圧。
あとは──
「アルベルト、お前はどうする」
「ど、どうするって……何をだよ兄貴」
動揺を隠す事も出来ずに狼狽える。
「何って、コイツを殺すかコイツに殺されるか。もしくは──」
「おにーさん達に殺されるか? あはっ」




