101話 種明かしと三重塔
【神宮へ侵入しました。※途中離脱不可】
「……なんだここは」
一言で言うなら、悔しいが相当に立派な三重塔。
なんの捻りもなけりゃ、3回戦突破でダンジョンクリア。
だが、ボス級3連発となると正直かなり分が悪い。
どの程度のレベルかにも勿論よるが、初戦が仲間内で戦わせるくらいだ。まともなのを期待する方が間違ってる。
「クラッドさん達はもう中にいるんでしょうか。だとしたら、早めに合流しないとですね」
「ああ、それはそうだが……やけにシンプルなダンジョンだな。もっと面倒なのを想定していたが……」
シンプルということは、罠や面倒な攻略法が少ない分、純粋に的が強いケースがほとんどだ。
神域に入ってからというもの、モンスターらしいモンスターは、先程の雑魚門番2匹のみ。
あの程度が門番なら、敵のレベルも知れているが、明らかに難易度が低すぎる。
よく見積っても60階層後半のレベルだ。
──神域ダンジョンだからって気負いすぎたか?いや、このまま終わるとは考えにくい。警戒するにこしたことはねぇか。
「そうですか? 私は今まで1番嫌なダンジョンだと思いますよ、ここ」
リリアは軽い口調で言ってはいるが、心中は穏やかじゃないらしい。
表情に怒りが垣間見える。さっきの仲間内の戦いが相当刺さったのか、はたまたルルが気に食わないのか。その両方か。
「まあクソゲーなのは認める。とりあえず中に入ってみるか。何をするにしてもそれからだ」
さて、このわかりやすい三重塔の中で何が起こるか。期待はずれならそれでいいし、寧ろその方が都合がいい。
三重塔は近くまで来ると、余計にその巨大さがよくわかる。
構造的には三重だが、高さ的には20階建てのビルよりもあるんじゃないだろうか。
塔の巨大さからしたら、意外なほど小さな門をくぐると、
「あ! クロードさん!こっちっすよ〜」
「やっと来たのじゃ! ワシはずーっと1人で待っておったというのに。何を呑気にしておるのじゃー!」
「──え、え?」
金色が広がる目の痛くなるような部屋に、クラッドウル、それからアルベルトと全員揃っていた。
アルベルトに関しては、俺の姿を見て口をパクパクとさせ、幽霊でも見ているような表情だ。
それを見てクラッドが一瞬、ニヤリと笑った。中々いい性格してるなクラッドも。
リリアは3人に駆け寄り、嬉しそうにウルに飛びついた。
ウルも文句は言っているが、内心は嬉しそうだ。
そんな中俺とクラッドは視線を合わせ、ニヤリと笑うと、
「どうしたアルベルト。幽霊でも見たような顔して」
「そうっすよ。クロードさん忘れたわけじゃないっすよね?」
「え、あ、だって……兄貴は確かに……」
俺とクラッドを交互に見て、それでも信じられないのか挙動不審な様子。
加減したとはいえコイツに殺されたんだ。もう少し虐めても罰は当たらないだろう。
「確かになんだって? あ、そういえば少し前に、やたら強い格闘家の影と戦ったなあ。強かったなあ……アルベルトとどっちが強いんだろうな」
「そ、そうなんすか〜!? それはすごい敵とタタカッタスネー」
便乗するのはいいが、大根役者すぎるだろコイツ。
「ま、待ってくれ兄貴! あれは、やっぱり兄貴だったんだよな。でも俺は確かにあの時、兄貴を──」
「ああ確かに俺はお前に殺されたよアルベルト」
「 でも、ならなんで今……」
「生き返ったからに決まってるだろう。俺を殺した奴に復讐するためにな」
「──ッ! す、すまねぇ兄貴。でも、でも本当にどうしようも無かったんだ」
こんな冗談、真に受ける奴なんてアルベルトとウルくらいだろう。
青ざめた表情のアルベルトにも見飽きたし、そろそろ種明かししてやるか。
「なんてな。冗談だ、それくらい分かれよ。俺が生き返ったのは蘇生アイテムを使ったからだ。ああ、だけど勘違いはしないで欲しいんだが……俺の切り札として持っていた物だから、2回目はない」
その後、焦るアルベルトとウルにゆっくりと俺とリリアの蘇生アイテムの事や、ここまでの出来事を大まかに話した。
特別難しい話ではないはずだが、2人がそれを理解するまでには3回は同じ事を言った気がする。
次にウルの話を聞いたが、想定通りでシード枠のような扱いだったらしく、この神域に来てからウルはまだ1度も戦闘を行っていないらしい。
燃費の悪いウルの事だから、決闘で温存なんて出来なかっただろうし、好都合と言えば好都合だ。
普通に考えれば残る戦闘は残り3回。
敵によるが少なくはない数字だ。ボス級が連発する可能性もあるし、何よりもルルの言葉が気にかかる。
だから俺は全員に、非情ともとれるある提案をした。
「この先は今まで以上に何があるか分からない。そこで、例え何があってもお前ら自分の生存と、ダンジョンクリアを優先しろ。仲間内の誰が敵になっても、俺が敵であってもだ」
「……そんなッ! 」
クラッド以外の全員が驚愕するが、クラッドは納得しているような表情で、
「違うんすよリリアちゃん。これは、そういう戦いで、そういうダンジョンなんすよ」
雑ではあるが、その通り。これはそういう戦いだ。
クラッドはそこら辺の線引きがよく分かっている。だが、もしその時が来たとしても、コイツが仲間を助ける正確なのも俺にはわかる。なんだかんだで、お人好しなんだクラッドは。
「必ずしも仲間内で戦う訳じゃない。もしもの話だ。俺に帰る世界があるように、お前らにもあるだろ。そこを最優先事項として頭に入れておけってことだ」
「大丈夫なのじゃ! いざとなったらワシがどかーんとやってやるのじゃ!」
「……」
ウルは言ったことの半分程度しか理解してないだろうが、寧ろそれでいい。考えすぎるとコイツの場合つかいものにならなくなるからな。
アルベルトだが、思った以上にさっきの戦いの事を引きずっているようで、明らかに表情が暗い。
俺を殺してしまったことの後悔か、それとも手を抜かれての勝利が悔しいのか。
「俺から言うことはあと1つ。出来れば死ぬな。俺達で攻略パーティーだ。わかったら行くぞ」
全員がうなずき、多少不安が残る中俺達は三重塔の中へと足を踏み入れた。
【神宮 壱の間に侵入しました】
──壱の間って事は、当たり前に弐と参もあるんだろうな。さて、どんな奴がもてなしてくれるのか楽しみだ。
そんな予想を裏切るように、次のウィンドウが表示された。
【神宮 壱の間をクリアしました。弐の間への資格を獲得】
「──は?」




