99話 裏ルート
「あの、クロードさん。なんか神宮への資格っての貰ったんすけど……なんすかねコレ」
「なんだと?」
クラッドはウィンドウを見て不思議そうに言った。
──神宮への資格? そんなもの俺は貰ってないが……もしかするとそれが正規ルートなのか? だとしたらまずいな。生き残る事だけを考えていたが、まさかそんなものが必要だなんて。
資格、と言うからにはその神宮とやらに行くのに必須なものだ。
恐らくアルベルトも同じ資格を得ているはず。
ウルの事が気になるが、正直今の俺にそれを知る術はない。
シード枠という事で、次へ行けるならいいが実際どうなっているのやら。
そしてリリア。高確率、というかほぼ確実に俺と同じ特異点。
ここで考えられるのは大きく3通り。
1つ目は最悪のパターンで、俺とリリアだけが永遠にダンジョン取り残される。
ルールに穴がないのなら、恐らくはこうなるはずだ。死因は、餓死が妥当か。
そして2つ目、望みはかなり薄いが無理矢理にでもクラッドについていき、神宮とやらで他のメンバーとの合流。
だがそれが可能なら資格何てものは作らない。出来たらいいな程度だな。
最後の3つ目。裏ルートによる攻略。
勿論これが可能かどうかは分からない。が、蘇生アイテムがある以上、この攻略法がある可能性は捨てきれない。
「クロードさんは貰ってないっすか? 資格」
「ああ、俺は1度死んでるからな。リリアはどうだ?」
「すみません、私も同じです」
やはりそうか。
「それは困ったっすね……一か八か一緒に」
「あの、いいですか?」
クラッドの言葉が終わる前に、リリアがそれを遮った。
何か考えでもあるのだろうか。
「なんだ」
「資格、というのはないんですけど……ここに来る途中の森で、道……とまではいきませんがけもの道って言うんですか? そんなようなのがあったんです」
「本当か!?」
俺は思わず両手でリリアの肩を勢いよく掴んだ。
「ちょっ、ちょっとクロードさん! そ、その……近い……です……」
ハッとしてリリアの顔を見てみると、こんな時だと言うのに真っ赤にさせ視線を逸らしている。
どうやら呆れているのは俺だけじゃなく、クラッドも同じなようだ。
「なんていうか……呑気っすねぇリリアちゃんは」
「全くだ」
「ち、違っ……もう! なんですかクラッドさんまで!」
クラッドは呆れながらも暖かい目でリリアを見ている。
リリアはそれが気に食わなかったのか、ポカポカと叩き始めた。
「おい、今はそんなことしてる場合じゃねぇ。話を戻すが、そのけもの道は本当にあったのか?」
放っておくと延々と続けそうなので、ここらで1回釘を刺した。というのり本当にそんな事をしている場合ではない。
「すみません……はい。あっちの階段の真ん中辺りに……でも、先へつながっているかは、わかりませんよ?」
「私行ってないので」と付け足し、リリアが通ってきたであろう道を指さした。
「上等だ。どの道正規ルートでの攻略から俺達は外れてるんだ。万に1つの可能性も見過ごせない」
とは言ったものの、正直な所俺は確信にも似た何かを感じていた。
今までのダンジョンと毛色が違うのは間違いないが、根本的な所には変わりは無い。
ニフェルタリアに意味の無いものは一つもない。
幽世の仕組みは俺の住んでいた現世でいう、ゲームの世界に近しい。
ウィンドウの仕組みや、アイテム、ダンジョン特有のルールなど解明できないことは多い。
だが一つだけ言えるのは、この世界でのダンジョン攻略に正解は複数ある。
一見正規ルートのようで、ミスルート。
一見ミスルートのようで、正規ルート。
そしてここに来るまで、恐らく裏ルートであろう攻略も何回かは経験した。
それこそ71階層は確実に正規ルートの攻略ではない。
それにモンスターもいないこのダンジョンで、けもの道があるなんて普通に考えればおかしいんだ。
──つまり、蘇生アイテムの仕様に対してのの救済措置も必ずあるって事だ。
「クラッド、お前は正規ルートでアルベルトとウルを頼む。特にアルベルトに関してだが、恐らく俺が生きているのは知らない。精神的にも肉体的にもまいってるはずだ。……頼むぞ」
「大丈夫っすよ! 2人のことは俺に任せてくださいっす! 後で必ず、合流するっすよ」
クラッドはあえて明るい口調で言ったんだろう。それ程簡単な内容じゃないのは俺もクラッドもわかってる。
「ああ。お前も俺達みたいに死ぬんじゃねぇぞ」
「クラッドさん、必ず……また会いましょうね!」
クラッドは親指を立てて、ニコリと笑い先へと進んだ。
「行っちゃいましたね」
「アイツなら大丈夫だ。抜けてる所はあるが、頼りになる。アルベルトとウルの事もしっかりやってくれるだろうよ。それより、そのけもの道ってのはどっちだ?」
「あっちの方です」と言って、リリアはスタスタと石段を下り始めた。
下ること数分、立ち止まったリリアが少しだけ気まずそうに、ある方向を指さした。
「一応、あれ……なんですよ」
見ると、確かにけもの道と言えなくはないが、
「思ったよりも酷いな……けもの道と言えるのか微妙だな」
そこは微かに道がひらけているだけで、それが自然にできたものと言えばそうも見える程、ほかとの違いはない。
逆に言えばよくこれを見つけられたものだ。
「す、すみません……」
「いや、むしろお手柄だ。これを道と捉えるかは感性による。因みにだが、俺なら捉えない」
「それ、褒めてるんですか?」
「さあな。さて、ここから先は恐らく裏ルートだ。気を引き締めろよ。油断はイコール死だと思え」
ただの木々のはずが、先も見えない裏ルートだと思うと、どうも禍々しく見える。
リリアと視線を交え、意志を確認する。
心配なんて最初からしていないが、真っ直ぐ迷いのない目をしている。
あとは、進むだけだ。
「行くぞ」




