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胸の中のだれか   作者: しのたと
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男性

男性




 その日の仕事が終わりさなえさんに今日の話のお礼をもう一度言い帰路につくことになった。


 帰り道少しおなかが空いて来てどこかで何か食べていこうかと飲食店街に足を運ぶ。どこに入ろうかとぶらぶらしていると、ある居酒屋の前でまた胸のやつが


 『ぎゅーーー』


いつものことなのでその居酒屋に入ることにした。


 「いらっしゃいませ!」


入ると客がいっぱいで満席状態だった。


 「すいません、相席良いですか?席いっぱいなので。」


 「えっ、はい大丈夫です。」


 「じゃっ、すいませんお客さんここお一人一緒で大丈夫ですか?」


と一人で飲んでいる男性客に店員が話しかける。


 「あっ、良いですよ。どうせ一人で飲んでいたからだれか話し相手欲しかったところ。」


とほろ酔い加減のその男性が私の顔を見ながらテーブルの前の席に手を差し伸べ


 「どうぞ、兄ちゃん。一緒に飲もうや。」


 結構明るい感じのサラリーマン、仕事帰りに飲みに来たのだろう、ネクタイを緩めて楽な姿勢で飲んでいる。


 「では失礼します、よろしくお願いします。」


 「そう硬くならないで、酒の席は明るくよ。俺は渡邊浩史、27歳、婚約者のいる日々忙しく働きまくる社畜です。」


そう言って手を差し出す。


 「あっ、私は志村亮、25歳です。ただのフリーターです。」


差し出された手を握る。


 「25でフリーターかぁ、大変だなぁ。将来とか考えているの?」


飲み物と少しのつまみを頼み


 「以前は会社員だったけど数か月か前に辞めました、それで今バイト生活です。」


 「会社辞めるって、何があったん。パワハラか?いじめか?」


初対面なのにずけずけと聞いてくる男性、酔っているのだろうとあまり気にせずに


 「いえ、何かやる気がなくなってしまって。」


 「なんだその理由、そんなんで会社辞めるってどんな奴なんだ。会社なめている奴の考えだな。」


 「そうですね、でも仕事に対してそれほど熱を持てるわけでもないし、給料もそれほど高くないのに続けている意味あるのかなぁって思いまして。」


 「まぁなぁ、いくら働いても給料安かったら働く気失せるよなぁ。俺は働いた分きっちりもらえる職場だけど、そうもいかない職場が多いって聞くからなぁ。そこはわからなくもない。」


 「でも働かなきゃ生活も出来ないから今はバイトで何とかってところです。」


 「いいんじゃない、そういうのも。俺の後輩の女の子も高校出てⅤチューバーやってる娘もいるし。その娘は片親で育ったんだけど親には迷惑かけたくないってすぐに親元離れてバイトしながら頑張っているわ。自分一人で生きていけるだけでもすごいことだからね。でも俺からしたらもっと将来も見据えて頑張れって言いたいけどね。」


 「将来を見据えるって言っても、社会のレールから一度外れると戻るのが大変で、どうしたら良いか全然わかりませんよ。」


 「社会のレールかぁ、わかる。俺はたまたま良い方向に舵をとれたから良かったけど、一度外れるとなぁ。学歴、職歴、能力、全て求められる感じだからなぁ。それがない人間は本当に辛い社会だ。」


 「羨ましいです。こうも格差を見せつけられると何も言えませんよ。」


 「わかった。今日はおごってやる、一緒に飲もうぜ。」


すごく話し好きな男性で少し引き気味な私、それでも全然お構いなしに話してくる。


 「でも、俺みたいに社畜人間も考えもんだよ。毎日仕事のことしか考えていないから周りのことなんて全然だからなぁ。それに最近のこともすべて流して見ていくから広く浅くで身になっているのか。」


 「そんなことないですよ、私なんて毎日がのんびり過ぎて余計なことばかり考えてしまって。でも仕事に対してはそれほど熱が持てなくてなかなか行動に移せなくて。」


 「それで良いんじゃない、今はいろいろ考える時なのよ。そういう時間が持てるってだけで良い人生なのかもよ。」


お互いお酒を飲みながら話が進んでいく。


 「なんかいろいろ考えすぎちゃってダメですよ。全部が空回りです、どう動いても悪い方向に進んでしまってうまくいかないんですよ。だから今こんなですよ。ただのフリーターで金もなく彼女も持てない、こういう人間が本当の負け組っていうのでしょうね。」


 「勝ち組、負け組って言葉は俺は好かんな、どんなに良い仕事についていても、どんなに金があっても、どんなに可愛い彼女がいたとしても心って言うものが満たされた人間にはかなわん。俺なんか全然心が満たされていない、逆に荒んでいっている気がする。仕事にしても毎日が追われていくし、金があっても上を見たらきりがない、彼女にしてもその心のうちはわからない、でもそれらについて考える暇もない。だからいろいろ考える時間がある亮は羨ましいよ。時間というのは全人類平等に与えられたもの、それをどう使うかによって人生は変わるのかもな。」


 「考えるって言っても何をどう考えても答えなんて出ません。答えのないことをただ考えているだけです、時間がただ過ぎていくだけですよ、時間の無駄です、時間の無駄遣いですよ。逆に何でもある浩史さんが羨ましいです。浩史さんはないものねだりですよ、時間をうまく使っているのは浩史さんの方じゃないですか?」


 「俺はただ合理的に時間を使っているだけで、考えていることは損得だけ。無駄だと思ったらそれを切るだけ、考えることも辞めてしまう。周りから見たら冷めた人間に思えるかもしれないけど、そういう考えしかできなくなっている自分が嫌なんよ。もっといろいろ深く考えて悩んでみたい。確かにないものねだりかもしれない、亮からすれば何でも持っている人間に見えるかもしれないが、俺からしたら亮の方が何でも持っているように見える。たぶん、こういうことが隣の芝は青く見えるって言うんだろうなぁ。」


だいぶお酒が進んできたようで饒舌になる二人


 「なんか亮にはどんどん本音を話せるなぁ、なんか不思議な感じがする。昔からの友達みたいだ、良かったら友達になってくれないか、仲良くできそうだ。」


 「えっ、私で良いのですか?願ったりかなったりですよ、私友達いないしこちらこそよろしくお願いします。」


 「ありがとう、俺もここまで話せる奴おらんからうれしいよ。よろしく。」


あらためて握手をして連絡先を交換する。


 「でも本当に私なんてダメ人間なのにありがとうございます。とてもうれしいです。なんか最近とても縁に恵まれてきた気がします。私もなんかとても不思議な感じです。」


 「そうなんだ、ってその前にその敬語はやめよう俺が嫌だ。」


 「はい、っじゃない、うん、わかった普段使いなれないけどタメで話すよ。でもこんな話し方するの久しぶり、なんか懐かしいなぁ。こんな歳で友達が作れるなんて、それもこんな小学生が友達になる感じで『友達になろう』なんてすごいね浩史は。」


 「俺だって恥ずかしかったよ、そう言うなって。まっ、飲もっ。」


酒を飲み交わし、二人ともほろ酔いになって来て酔いを醒ますために店を出ることにした。外の風に吹かれ少し酔いを醒ます二人。夜道を並んで歩きながら


 「なんかまだ話足りないなぁ。どこかで飲み直すか。」


 「えっ、じゃぁ僕の部屋で飲まない?ウチ少し先だけどコンビニで買い物してのんびり飲もうよ。」


 「おっ、良いねぇ。俺も明日仕事始まるの遅いからのんびり飲もう。」


そう言って帰り道、買い物をして家路につく。


部屋に着き二人とも床に楽な格好で座り買って来た物をテーブルに並べまた飲み始める。


 「浩史の婚約者ってどんな人なの?もう結婚の日取りとかって決まっているの?」


 「年下のフリーターよ、結婚なんてまだまだ考えていない。ただ結婚の約束をしているだけで先のことはまだね。」


 「えっそうなの。婚約って結婚すぐにするものだと思っていた。そんなので婚約者不安がらないの?僕だったら早く結婚したいと思うけどなぁ。」


 「まぁね、いろいろとあるのよこういうのは。最近彼女の考えが分からなくなってきていてね。俺が忙しいのをいいことに浮気でもしているんじゃないかって。この前も男友達と水族館に行ったって言って、俺にどうすれっていうのかわからなくなってねぇ。」


 「なんで信用してやらないの?彼女のこと好きなんだよね。そんなんで結婚していくのって大変じゃない?」


 「だから俺もよくわからなくなってきたのよ。本当に好きなのか、本当に結婚してよいものなのか。俺も仕事だらけで彼女のことをかまってやれていないのもわかっているのよ。もし結婚しても忙しすぎて彼女のことを守っていけるかどうか、そしてもし子供が出来ても育児を手伝っていけるかどうか、不安でしょうがないのよ。」


そう言って酒を飲む。


 「そんな、男の君がそんなんでどうするんだよ。しっかりしろよ。優等生なんだろ浩史は。僕から見たら何でも持っていて何でも出来るイメージだよ。彼女だってそんなのわかっているよ、浩史が忙しいなんて。それを承知で婚約だってしたんだろうし、彼女にしてみれば今更って感じじゃないのかい。なんでそんなに自信がないんだい。」


 「彼女を見ているとどうしても不安になってしまうんだよ。正直まだ彼女は若すぎる、俺からしたら子供に見えてしまうんだ。今後、一緒に生活していったら俺の負担が大きくて耐えられなくなるんじゃないかって。だから今、一生懸命稼いで将来少しでも働かなくても良いようにって。でも全然ダメなんだ。いくら仕事しても仕事してもどんどん仕事が生まれてくる。終わらないんだ。その分彼女をかまってやれない、こんなんじゃ俺も彼女も潰れてしまうんじゃないかってね。」


 「なんでそんなに仕事に縛られるの?浩史なら十分な貯金もあるだろ。仕事、今辞めても暮せるだけの貯えはあるんだろ。仕事と彼女どっちが大事なんだよ。仕事なんていくらでもあるんだよ。そんなに今の生活が大事なの。彼女は絶対、浩史のこと大事に想ってる。だから彼女だって頑張ると思うよ。何も一人で何でもかんでも抱えなくて良いんじゃない。結婚って二人の生活だろ。二人で支えあっていくものじゃないの。彼女をもっと信用しろよ。人は成長するものだよ。


彼女だって今のままじゃないよ将来。きちんと成長して立派な女性になってそしてお母さんになるよ。人の成長を信じてみて。」


 「俺、今まで何でもかんでも一人で物事片付けてきた。全部自分がやらなくちゃって。人を頼るってことが出来ないのかもしれない。もう少し人を信用しなくてはいけないのかなぁ。でもどうしたら良いのかわからなくて。どうしたら人を信用できるんだ。」


急にやつがまた暴れてきている。


 「僕はここ何か月かずっと何かに動かされているんだ。胸が急に熱くなるんだ。それに任せて動いてきた。その中でいろいろ学んできた。人は信用するんじゃないんだ。その人をずっと見ていくっていう想い。その人の成長過程や、変わっていく様。そしてそれによる自分の変化。すべてを見ていき感じていく。そうすることにより自分が何をするべきかそしてその人に何を求めていけばよいかがわかってくる。そういう感覚が持てていくのだと思う。人を見ていくってことは。」


 「人を見る。俺だって今までいろいろな人を見てきたぞ。それなりの経験だってあるし、友達だっている。そいつらをきちんと見てきているしその成長だって見てきている。でもそんなのは感じたことないぞ。それにそれと彼女と何が関係あるんだ。」


 「それだけ彼女のことを大事に想えってこと。彼女の成長をこの先もずっと見続けて、そして自分の成長も感じていく。ただそれだけなのよ。長い長い人生、躓いても良いし失敗しても良い。僕なんて人生失敗だらけで転びっぱなし。でもそんな僕でも見ていてくれる人が出来た、そして浩史みたいな友達もできた。それも僕の変化。そういう変化や見ていてくれる人たち、全てやつのおかげなんだ。やつの言うとおりに動いてやつの思うように行動することでこんな僕でも変わることができた。そう、こんな僕でも変われるんだから彼女や浩史なんてすぐ変わること出来るよ。」


 「やつ、やつって何なんだよ、急に。訳が分からないぞ。でも言いたいことはわかった。これからは彼女のことをきちんと見ていこうと思う。ありがとう、今日いきなり友達になった奴にここまで言われるとは思ってなかった。本当に変な奴だな亮は。そして異様に熱い奴だ。俺とは真逆な奴だ。今までこんな奴には会ったことがない知り合えてよかったよ。これからも仲良くしてくれるか。」


 「うん、こちらこそよろしく頼む。僕、友達少ないからすごくうれしいよ。そして、僕は浩史のことをこれから見ていくよ。僕が生きている限りずっと見させて。これは僕が勝手に決めたことで 浩史には迷惑かもしれないけど、きちんと見ていく。」


 「ありがとう、俺も亮のことを見ていくよきちんと。」


 「いや、浩史が見るのは彼女だけで良い。人を見るって大変だから見るのは少ない方が良い。それに今大事な時なんだから彼女だけを見てあげな。大事な人がいるってすごく羨ましいことだよ。だからきちんと見てあげて。」


 「わかった。今は彼女をしっかり見ていく。そしていつか出来るかわからない子供も。よし、もう少し頑張るか。今度の休みデートでも誘おうかなぁ。なんか気が楽になって来た。」


 「よかった、そして羨ましい。僕も彼女ほしいなぁ。誰か紹介してよ。」


 「そうだなぁ、まず亮はフリーター卒業してからだな。まぁ頑張れ。」


 「ひどいなぁ、どうせ僕はしがないフリーターですよ。やっぱりこんなんじゃ彼女出来ないかなぁ。」


 「できても大変だぞ。まずデート代どうするんだよ。いつも彼女に奢ってもらおうなんて考えていないだろ。」


 「まぁそうだけど。」


 「それに俺が紹介する女の子は結構金かかるぞぉ。」


 「やっぱり遠慮しとく。まず仕事かぁ、今のところ結構気に入っているんだけどなぁ。まぁ将来的にはきちんとした会社で働かなきゃなぁ。」


 「仕事ならいくつか紹介できるところあるけどどうする?結構、人足りてない職場が多いから。」


 「大丈夫。僕にはやつがいるから。」


 「そのやつってのは何なんだ、さっきから。」


 「僕を導いてくれるもの。結構前からずっと胸が熱くなったり苦しくなったりしてて、それの言うとおりに行動してみたのよ。」


 「それって心臓かなんかの病気なんじゃない?一回病院行ってみた方が良いんじゃない。」


 「えっ、そうなの。全然考えなかった。今度行ってみよう。」


そんな話をしながら飲んでいたらすでに夜中になっていた。


 「じゃ、俺これで帰るわ。ありがとな。また飲もうや。いつでも連絡してくれや奢るから。」


笑いながら帰り支度をしていく。玄関先でもう一度握手をして別れた。










 それから2か月、その間に知り合い二人から同時に結婚の知らせが来た。香さんからはチケットが売れないから買って欲しいとの連絡が来ていた。私はまださなえさんのお店で働いていた


 「おはようございます。」


 「あっ、おはよう亮君。なんか今日はご機嫌じゃない?」


 「わかります?私、きちんと仕事探すことにしました。」


 「えっ、そうなの。いよいよ動き出すかぁ。まぁ、それまでは面倒見るから頑張んな。」


 「はい、ありがとうございます。それまでよろしくお願いします。」


 「そんなにかしこまらなくて良いよ。さぁ開店準備するから手伝って。」


と開店を待たずに店の扉が開き。


 「おはよう、さなえちゃん。元気してたかぁ。」


聞き覚えのある声


 「あら、大ちゃん久しぶりじゃないの。忙しいのかい。」


 「まぁ、ぼちぼちやなぁ。おっ、あんちゃん元気だったかぁ。よく持っているなぁこんな店で働いて。」


 「ちょっと、大ちゃん言い過ぎよぉ。私なんて優しすぎるくらいなんだから。ねぇ、亮君。」


 「はい、良くしてもらっています。久しぶりです大介さん。」


 「おっ、きちんと名前覚えていてくれたかぁ。ありがたいねぇ。こんなおじさんの名前覚えていても何にもならないのに。」


 「いえ、大介さんの名前は絶対忘れません。私の恩人ですから。」


 「なんや、いきなり恩人とか。やめてくれやぁ、照れるわぁ。そういえば、あの弾き語りの女の子きちんと仕事してまだ歌っていたわぁ。」



 朝からにぎやかに始まり、いつもと同じで少しづつ違う今日が始まった。少しづつ違ういつも。


 みんな未来を見ている。私ももう少しだけ見てみよう。そして私が経験できない未来をみんなから見せてもらおう。どんな未来が待っているかはわからない。だから楽しもう。もう少しの間だけど・・・






 縁は円、どこかで必ず繋がるもの。


 命ある限り

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