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エピローグ1/2


 三月下旬。小学校の卒業式を間近に控えた二人の少年と少女が、いつものように学校を終えて下校していた。通学路を歩きながらツインテールを跳ねさせる少女。闇内オウマ。彼女は軽やかに足を動かしながら表情をご機嫌に微笑ませていた。


「ついにわしらも小学校を卒業か。たかが六年とは言え、感慨深いものがあるのう」


 オウマはうんうんと一人頷く。少女の言葉にブラウンの瞳を柔らかく細める少年。光月ユウ。オウマの隣をついて歩きながら、ユウが「それにしても」と口を開く。


「勉強とか大変だったけど、二人とも白ノ宮学院に無事合格して良かったよね」


 ユウがニッコリと微笑む。表情を輝かせる少年に、オウマは意地悪くニヤリとした。


「おやおや……随分と嬉しそうではないかユウよ。さてはお主……わしと同じ中学校にいけることが嬉しくて仕方ないのじゃな?」


 ユウの顔が照れから赤く染まる。そんな反応をオウマは期待していた。「にしし」とニヤニヤ笑うオウマ。からかい顔の彼女に、ユウが何の躊躇いもなく「うん」と頷く。


「オウマと同じ中学校に行けて嬉しいよ。これからもずっと一緒にいようね」


 ユウの直球な返答。それを受けてオウマはカアッと顔を赤く染めた。恐るべきカウンター。ミイラ取りがミイラになるとはこのことだ。オウマは「ぐぬぬ」と拳を震わせると、不思議そうに首を傾げているユウに蹴りを入れた。


「なんじゃい! 恥ずかしいことをさらりと言うではない! 阿呆かお主は!」


「ええ? 聞いてきたから答えたのに……じゃあオウマはボクと一緒で嬉しくないの?」


「別に嬉しくもなんともない……こともない……こともない……ことも……こと……」


 オウマは尻つぼみに声を小さくした。きょとんと目を瞬かせるユウ。オウマは顔をさらに沸騰させると彼の無垢な視線からプイッと目線を逸らした。


 そのまましばらく道を歩く。赤い顔のまま口を尖らせているオウマ。その彼女を優しい笑顔で見つめているユウ。普通ならば沈黙は居心地悪いものだろう。だが二人はもう六年と一緒にいる。二人にとって沈黙は当たり前の日常でありむしろ心地よいものであった。


「……のう、ユウよ」


 無言のまま道を歩くこと五分。オウマは何の気なしにユウに尋ねる。


「お主はなぜ……わしと一緒にいてくれる?」


 それはこれまでも何度かしてきた質問だ。光月ユウはなぜ闇内オウマのそばにいてくれるのか。勇者の転生体である彼がなぜ魔王の転生体と一緒にいてくれるのか。このオウマの疑問に対して、ユウはいつも決まった答えを返してきた。


「だってボクはオウマを守るって決めたから」


 このお決まりの答えに、オウマはいつも苦笑していた。「答えになっていない」や「守られる覚えはない」と悪態も吐いた。だが今回のオウマは苦笑も悪態も吐かない。ただ純粋な疑問を淡々と口にする。


「どうして、わしを守ってくれる?」


「どうして? うーん……」


 思案するように首を捻るユウ。闇内オウマを守る。その理由を彼自身も理解していないらしい。しばしの間。ユウが自信なさそうに口を開く。


「分からないけど……だけど守ろうって決めたんだ。ずっと前にそう決めた……」


「ずっと前に……それは初めて出会った時にと言うことか?」


「うーん……違うと思う。変な話だけど……オウマと会うよりもずっと前に……それこそ……()()()()()()()()()()()()……そう決めていたような気がするんだ」


 ユウの不可思議な答え。だがそれを聞いてオウマはあることを思い出した。


 闇内オウマが生まれるよりも前。自分がまだ魔王リリスであった時代。滅びを目前にしたリリスは転生術を使用した。自身を滅ぼした元凶である男。勇者を巻き添えにして。


『わしが貴様の大切な存在に含まれるなら、わしのために命懸けで戦えるのか?』


 リリスは勇者にそう尋ねた。それは転生術を使用するための時間稼ぎであり、答えなど知れた詰まらない雑談だった。しかし彼女の予測に反して勇者はこう答えた。


『貴女が僕の大切な存在なら、僕は貴女を守るために戦う』


 大切な存在のために戦う。例えそれが魔族であろうとも。それは人間の勇者としてあるまじき答えだ。ゆえにリリスはそれを一笑に付した。だが勇者はきっと――


 その言葉を真剣に話していたのだろう。


(……お主はあの時の約束を果たそうとしてくれておるのか?)


 正確にはそれは約束ですらない。人間である勇者が魔族である魔王を守る。それは仮定を前提とした想像の話だ。だが勇者はそれを愚直に守ろうとしていたのかも知れない。詰まらない雑談を証明しようとしていたのかも知れない。人間の勇者である彼は――


 本当は自身が滅ぼしてしまった魔王に心を痛めていたのかも知れない。


(ゆえに今度は守ろうというのか? このわしを……お主の言う大切なものとして……)


 だとするならば――


(やはり……気に食わん奴じゃ)


 オウマはふっと微笑した。


「どうしたの、オウマ?」


「ん? いや……何でもないわい」


 ユウは前世の記憶を失っている。尋ねたところで明確な答えなど返されない。真相は闇の中。だがそれもいいだろう。オウマは適当にそう結論付け「さて……」と腕を組んだ。


「中学に上がってからは忙しくなるぞ。そろそろ本格的に世界征服に向けた準備を始めようと思うておるのでな。まずは魔王軍の再建から始めねばなるまい」


「具体的に何をするのか分からないけど……それってボクも手伝うの?」


「当然じゃ。お主には魔王軍の中でも花形ポジション――四天王の一角を任せよう」


「荷が重すぎる。まあ世界征服もいいけど人に迷惑かけちゃ駄目だよ、オウマ」


「ぬう……人に迷惑を掛けない世界征服とはこれ如何に……」


 ユウの提示した無理難題に、オウマは首を捻りながら帰路についた。



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