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第四章 闇内オウマと戸塚正義4/6

 そして瞬く間に翌週の月曜日。


『先週に引き続き、闇内オウマさんからお話があります。それでは闇内さん、どうぞ』


 朝礼の司会がそう話した直後、体育館にアップテンポな音楽が鳴り響いた。突然の音楽に表情をポカンとさせる全校生徒。無数のスポットライトが体育館の壇上を照らして、無機質な壇上を色鮮やかな舞台へと変える。そしてその直後――


『全校生徒のみんなぁああ♪ おはようございますぅううう♪』


 ブリブリのアイドル衣装を着た三人の少女が舞台袖から姿を現した。


『今日はぁ、プリティー&キューティー&魔王軍のライブに来てくれてぇ、どうもありがとうぅ♪ 嬉しいキュン♪ それではぁ、早速自己紹介しちゃいますよぉ♪』


 センターに立っていたツインテールの少女が体をくねらせながら右手をピンと上げた。


『はいぃ♪ 恋も勉強も実力行使♪ 狙った獲物は骨までしゃぶりますぅ♪ ツンツン吊目がチャームポイント♪ 貴方のハートもツンツンしちゃうぞ♪ 闇内オウマですぅ♪』


 ツインテールの少女の自己紹介に続いて、おかっぱ少女が嘆息混じりに右手を上げる。


『はい。いつもはちょっと引っ込み思案な女の子。だけど恋と将棋には積極的。チャーミングなおかっぱ頭にキュートなジト目。貴方の恋心を詰将棋。詰丘将希です』


 おかっぱ少女が淡々と話す。すると今度はおさげの少女が震えながら右手を上げた。


『はは、はいぃ。まま、真面目だなんていわないで。ほ、本当は恋もエッチなことも興味津々。お、おさげ髪に丸眼鏡。だけどキャラづくりじゃないのよ。計楽賛香です』


 自己紹介を終えて顔を赤くするおさげの少女。そして三人の少女が同時に口を開いた。


『それでは私たちの曲を聞いてください♪ いざゆかん白ノ宮学院中学校♪ みんなも一緒に歌ってね♪ せぇの――い・ざ・ゆ・か・ん♪ へいへい♪ 白ノ宮学院――』


 三人の少女が踊りながら歌うその姿を――


 全校生徒は無表情のまま眺めていた。



======================



 戸塚正義――652票。


 闇内オウマ――49票。


「プリティー&キューティー&魔王軍んんんんんんんんんんんん!」


 週末の投票結果を確認して、オウマは背中を仰け反らせつつ絶叫した。ショックのあまりブリッジ姿勢で硬直するオウマに、詰丘が溜息まじりに呟く。


「前回よりも差が開いたね。まああんなやり方で票が稼げるとは思えなかったけど」


 例のごとく放課後のコンピューター室。オウマはブリッジ姿勢からガバリと上体を起こすと、冷たいジト目でオウマを見据えている詰丘に声を荒げた。


「なな、なぜじゃ! この世界ではアイドルが異常にもてはやされているであろう! 大した顔でもない連中が周りからチヤホヤされているではないか!」


「コメントしづらいけど……とりあえず本物のアイドルも演説で歌なんか歌わないよ」


「本当に……信じられないわ」


 呆れる詰丘に続いて、顔を赤くした計楽が肩を震わせながらオウマを睨みつける。


「あの後、クラスの皆から白い目で見られたり陰口叩かれたり散々だったのよ。いい笑いものよ。それで票が増えているならまだ救いもあったけど……これじゃあ報われないわ」


「わしの所為だと言うのか!?」


「貴女の所為でしょ!? あたしたちに無理やりあんな恥ずかしい真似させたんだもの!」


「お主もノリノリじゃったろうが!」


「誰がよ! そもそもあんな可愛い衣装があたしたちに似合うはずもないじゃない!」


「……ボクは」


 オウマと計楽の言い合いに、場違いなのんびりとした声が挟まれる。声の主は当然ながらユウだ。不満を口にしていた三人の女性陣に、ユウがニッコリと笑い掛ける。


「ボクは三人とも良く似合ってたと思うよ。とっても可愛かったから」


 ユウの無邪気な言葉に、オウマと計楽はみるみると顔を赤く染めた。動揺する二人とは対照的に詰丘が冷静に「……どうも」とユウに礼を述べる。ドキドキと高鳴る心臓。オウマはその鼓動をどうにか静めて「は、話を逸らすではない!」とユウを殴りつけた。


「と、とにかく投票もあと二回! 何がなんでも票を集める方法を考えるんじゃ!? 詰丘よ! お主はこういう戦略を練るのが得意であろう! 何かないのか!?」


「そうは言っても情報が少なすぎる。もっと詳細な投票傾向が分かればいいんだけど」


 詰丘が眉をひそめてぼやく。するとここで計楽が「あっ」と何か思いついたのか手を叩いた。怪訝に計楽を見やるオウマ。計楽が手元のパソコンを操作して何やら作業を始めた。


黙して待つこと五分。パソコンのモニターに数値が敷き詰められた一覧が表示される。


「あったわ。やっぱりまだバックドアが残されていたみたい」


「……計楽さん。それは何?」


 詰丘がモニターを眺めながらそう尋ねる。彼女の問いに計楽が躊躇いつつ口を開いた。


「実はその……一昨年の選挙戦にプログラミング研究部の先輩が立候補していたの。それでその先輩が情報収集の一環だとして、教師用のパソコンにバックドア――つまり不正な侵入口を仕込んで、教師だけが閲覧できるネット投票のサーバーに接続していたのよ」


「つまりこの一覧がそのサーバー情報と言うことか!? 一体何が書かれておるのじゃ!?」


 オウマは興奮のあまり前のめりにモニターを覗き込んだ。モニターに表示された一覧。そこには生徒の名前とクラス、そして細かな数値が横一列に記載されていた。計楽が一覧をじっと見つめながら眼鏡を指先で触れる。


「所詮は集計用のサーバーだから大した情報があるわけじゃなさそうね。それぞれの生徒が一体誰に投票したのか。そして投票した日時。この数値は……投票に使用したパソコンもしくはタブレットの資産IDね。一覧で分かるのはそんなところみたい」


「お、おい! この名前は見覚えがあるぞ! 確かわしのクラスメイトじゃ! ぐうう、おのれ! クラスメイトを差し置いてどこぞの馬の骨に票を入れるとは! 来週教室で顔あわせた際にでも後悔させてやるわ!」


「立候補が取り消されるからやめときな」


 憤慨するオウマをそう適当に宥めて、詰丘がモニターに表示された一覧を見つめる。いつもどこか眠たげな詰丘のジト目。その半眼に細められた瞳に将棋盤を見ている時のような光が灯った。詰丘がポリポリと頭を掻いて計楽をちらりと見やる。


「計楽さん。今回の選挙戦で一回目と二回目で投票先を変えている生徒を表示できる?」


「投票先を変えた生徒を? えっと……ちょっと待ってて」


 計楽がキーボードを操作する。しばらくしてモニターに表示されている一覧が更新された。詰丘の要望に合わせて表示内容を変更したのだろう。ジト目をさらに細めていく詰丘。おもむろにスマホを取り出して、彼女がスマホに何かを打ち込み始める。


「ありがとう計楽さん。それと状況次第ではあるけど、もしかしたら計楽さんにはこれから色々と手伝ってもらうかも知れない。申し訳ないけどその時はよろしく」


 スマホをしまいながらそう話す詰丘に、計楽が困惑しながら「う……うん」と頷いた。


「ど、どういうことじゃ! まさか詰丘よ! お主は良い策を思いついたのか!? ならばすぐに教えろ! さあ! 早く話すがいい!」


 詰丘の奇妙な態度に、オウマは手足を振りながら声を荒げた。詰丘を期待する目で見つめるオウマ。詰丘がふと思案する仕草をして「残念だけど」とゆっくりと頭を振る。


「まだ話せる段階じゃない。この考えは常識とはあまりにかけ離れたものだ。きちんと調査をして、検証して、それで間違いないだろうと確信できたら話をするよ」


「な、なにを悠長なことを言っておるか! もはや投票も二回しか残されておらんのだぞ! 票を集める方法があるなら即座にそれを実行すべきじゃ!」


「不確定な情報のまま動けば詰むのはこちらのほうだよ。できる限り盤面は正確に理解しておきたいんだ。オウマは次の演説に向けて準備をしてなよ」


「な、なんじゃあああ! だからそんな時間などないと言うておるだろうがぁああ!」


 オウマはムキィと地団太を踏むと、目尻にうっすらと涙を浮かべて怒声を上げた。


「分かったぞ! お主ら何だかんだとわしが負ければ良いと考えておるのじゃろ! だからわしに協力せんのじゃ! この裏切り者が! お主らなんて嫌いじゃぁあああ!」


「……落ち着いてよ闇内さん。詰丘さんには何か考えがあるみたいじゃない」


 計楽がそう宥めてくる。困り顔の彼女にオウマは「うるさい!」と唾を飛ばした。


「お主らは何も知らんのじゃ! この勝負で負けたらわしがどうなってしまうのか! 何を奪われてしまうのか! わしは……わしは汚れてしまうやも知れんのだぞぉおお」


 オウマの瞳から涙がこぼれる。突然泣きだした彼女に詰丘と計楽がポカンと目を丸くした。もし選挙戦に敗北すれば戸塚正義の子供を産まなければならない。現実味を帯びてきたその可能性にオウマは恐怖する。否応なく全身が震えた。だがその時――


 オウマの震える肩に手が乗せられる。


「大丈夫だよ、オウマ」


 声に振り返ると、そこには優しく微笑んでいるユウがいた。涙と鼻水でグシャグシャの顔。何とも情けないオウマのその表情を見つめて、ユウが何かを受け止めるように力強く頷く。そこに普段の頼りない気配は感じられない。瞳に眩しい眼光を湛えて――


 ユウがハッキリとした口調で告げる。


「なんかうん……きっと大丈夫だから」


 何やらもろもろのことに絶望して――


 オウマはがっくりとその場に膝をついた。


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