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第四章 闇内オウマと戸塚正義3/6


 そして翌週の月曜日。全校生徒が体育館に集められ朝礼が開かれた。普段通りの退屈な挨拶や報告が粛々と行われた後、進行役の教師が普段にはない言葉を口にする。


『それでは次に、生徒会会長緊急選挙の立候補者である一年C組の闇内オウマさんより全校生徒に向けたお話しがあります。闇内オウマさん。壇上に進んでください』


 司会の紹介を受けて、オウマはのんびりとした足取りで壇上へと進んだ。オウマの姿を見て生徒たちに小さなざわめきが広がる。これまで度々騒動を起こしてきただけに、すっかり有名人らしい。「あれって魔王の?」や「初めて見た」などの生徒たちの囁きを聞き流しつつ、オウマは演台の前に立った。


『あー、あー、今しがた紹介された一年C組の闇内オウマじゃ。この度は生徒会会長緊急選挙に立候補したがゆえ、まずお主らに一言だけ伝えておこうと思う』


 落ち着いて話をするオウマに、全校生徒がゴクリとつばを飲み込む。しんと静寂する体育館。オウマは少し長めに間を空けた後、全校生徒に伝えるべきその言葉を口にした。


『お主ら全員、わしに投票してもらう。さもなくば――命はないものと知れ』


 オウマのこの一言に――


 キンと体育館が凍りついた。


 口をポカンと開けたまま硬直している生徒たち。さらに教師一同。オウマは呆けた連中をぐるりと見回して、マイクを握りしめたまま演台にガバリと跳び乗った。


『良いか貴様ら! これは脅しではないぞ! 投票が匿名だろうが関係ない! どのような手段を用いようと裏切り者には必ず制裁を加える! 恋人から家族まであぶり出し、地獄のごとき苦痛を与えてジワジワとなぶり殺してくれるわ! それがイヤならばわしに投票することだな! ふはははははははは! あーはっはははははははははは!』


『……以上を持ちまして、本日の朝礼を終了させて頂きます。皆さんお疲れさまでした』


 オウマの哄笑が体育館に響く中――


 司会が朝礼の終わりを淡々と告げた。



======================



 そして週末の金曜日。第一回中間投票の結果が集計された。放課後になり投票結果をコンピューター室で確認するオウマとユウ、そして詰丘と計楽。パソコンのモニターに投票結果がグラフとして表示される。投票率93%。その各割合は――


 戸塚正義――623票。


 闇内オウマ――72票。


「うぉおおおおおおおおおおおおお!? な、なぜじゃぁあああああああああ!?」


 目を疑うような結果を前にして、オウマは頭を抱えて絶叫する。血走らせた目を見開いて全身をカタカタ震わせるオウマ。想定外すぎるこの事態に彼女は寒気さえ覚えた。


 だが狼狽しているのはオウマだけだった。詰丘も計楽も――ユウはいつも通りぼんやりしている――いたく冷静で、どこか呆れているようにさえ感じられる。詰丘が「ふう」と大きく溜息を吐いてポツリと言う。


「いや、そりゃそうでしょ?」


「何がじゃぁああああああ!?」


 オウマは絶叫しながら詰丘に詰め寄る。瞳からハラハラと涙を流しているオウマに、詰丘がジト目を細めながら「はあ」とまた大きく溜息を吐いた。


「演説で生徒を脅すような人間を生徒会長として投票するわけないだろ? 先週随分と自信があるようだったから、どんな策があるのかと期待していたら……ガッカリだ」


「そ、それはおかしいぞ! 選挙なるものは如何に群衆を恐怖に陥れて支配するかではないのか!? 演説で脅迫することなど至極当然! 責められるいわれなどないはずじゃ!」


「……それどこの歪んだ常識?」


 どこと聞かれれば魔族のだが。オウマは胸中でそうぼやきつつ、全身からダラダラと冷や汗を流した。よもやこのような事態に陥るとは。オウマの脳裏に最悪の事態が過る。


(ここ、このままでは……わしの貞操が……前世を含めての初めてが……)


 恐怖に身悶えするオウマ。そんな彼女を尻目に、計楽がモニターを見やりふと呟く。


「でも……少し不思議ね。確かに一般生徒があんな脅しをしても効果なんてないと思うけど、闇内さんはこれまで結構な無茶をしているし、脅迫を信じた人も一定数はいたはずよ。それなのにこれほど大差がつくなんて」


「……確かに予想よりも惨敗だね」


 計楽の言葉に一定の理解を示しつつ、詰丘が「だけどさ」と言葉を続ける。


「それだけ現会長の信頼が厚いということなのかも知れない。あの会長はそもそも半年ほど前に学校に転入してきた新参者だ。その顔も知られていない彼が去年、会長選に立候補して大差で圧勝した。彼には大衆を引き付ける何かが備わっているんだろうね」


「……確かに去年の会長の演説は素晴らしいものだったわ。穏やかな口調ながら芯の強さが感じられて……一言で魅力的だった。それだけに、ちょっと怖くもあったけど――」


「なんじゃなんじゃ! お主ら二人して敵なんぞ褒めおってからに!」


 戸塚を評価する詰丘と計楽に、オウマは憤慨して地団太を踏んだ。


「お主らは魔王軍じゃろうが! 敵よりも魔王たるわしをもっと褒め称えんか! ユウの奴を見習うがいい! このような結果になろうと戸塚の名前など口にもせんぞ!」


「いや……ボクは会長のことよく知らないから。入学式でちょっと見たぐらいだし」


 何やら呟いているユウは無視して、オウマは詰丘と計楽にズビシと指を突きつけた。


「良いか! 魔王たるわしの敗北は魔王軍の敗北、つまりお主らの敗北にもなるのじゃ! 敵のことを持ち上げとる暇があるなら、逆転する方法を死に物狂いで考えんか!」


「私たちに相談もなく選挙を始めといて、オウマは随分と勝手なことを言うね」


「……とりあえずそうね、闇内さんのイメージを変えるところから始めたら?」


 肩をすくめる詰丘に続いて、計楽がそう提案してくる。「イメージ?」と首を傾げるオウマ。ピンときていない彼女に、計楽が言葉を補足する。


「つまりイメージ戦略よ。これまでの騒動と朝礼での脅迫のせいで、現段階の闇内さんの印象は最悪……じゃなくて、あまり良くないと思うの。それをまず覆さないことには、生徒からの票を集めることなんて無理よ」


「ぬう……要は何をすればいいのじゃ?」


「例えば積極的にボランティアに参加してみるとか、朝から校舎の掃除をするとか、そういうことよ。闇内さんのそういう姿を見れば票を入れてくれる生徒も出てくるはずよ」


 計楽が思案しながらそう話す。彼女のその作戦に、詰丘が頷きつつも首を傾げる。


「悪くないと思うけど……もう最終投票まで一ヶ月もないのに、その手のアピールだけで逆転するのは難しいんじゃないかな。もっと劇的に印象を変える何かがないと……」


「劇的に……か。ふ……ふふ……ふははははははははははは!」


 詰丘の話を聞いて、オウマは高らかに哄笑した。ぽかんと目を丸くする詰丘と計楽。オウマはぐいっと胸を反ると、その口元をニヤリと曲げて犬歯を覗かせた。


「なるほど勝機が見えたわ。この方法ならば確実に逆転できようぞ」


「……なにか思いついたみたいだけど、今度こそ大丈夫なんだろうね」


「当然じゃ。くくく……戸塚の馬鹿め。これで貴様も年貢の納め時じゃな」


「……何だか心配ね」


 詰丘と計楽の不安を他所に、オウマは一人ケラケラと笑い続けた。




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