第96話 化け物Ⅳ
「先輩。自分は大好きな人から恐怖され、軽蔑され、拒絶され、嫌われちゃいました。」
自傷気味に顔を歪ませて日吉は言葉を紡いだ。
なんて声をかけたら良いのだろう?
そんな事は無い?絶対にダメだ。
適当な言葉で励ましても日吉には響かないだろう。
ガイ部長もハーシャ奥様も何も言えてなかった。
それを優しさと取ったのだろう。日吉は苦笑しながら言葉を続けた。
「それから何をしていたのか?あまり記憶がありません。
フラフラと彷徨い、ただただ歩いていたような気がします。
夜が来て、夜が更け、日が明けていましたね。あんなにも眩しい朝日は生まれて初めて見たかもしれません。
まるで吸血鬼になった自分を焼き尽くしてしまうかのような……それで思ったのです。
ああ。自分は死にたいのだと。
だから、いつの間にか街の外壁まで来ていたので、壁を登り、物見やぐらっぽい所から飛び降りてみたんです。
笑える程、無傷でしたよ。服だけはボロボロになりましたがね。
次にガイ部長のマントを使って首を吊ろうとしたんです。これもまた全然苦しくなかった。暫くしていればいつかは……と思ってそのまま寝てしまったみたいです。
起きたら、下に大勢の人達が騒いでいて、暫くしたらガイ部長が駆け付けて捕まっちゃいましたね。」
「……そうか。日吉。今でも死にたいか?」
「ここに来るまでは、そうでしたね。
自分はどうやっても死ねない。唯一の方法は餓死かシアラちゃんの料理でしょう。
シアラちゃんには嫌われたので、本人に頼むのは無理です。だから、あの飴を使おうと思って、ココに来ました。」
職場の除湿アイテムのシアラちゃん特性飴玉か。
増産依頼をする前に事が起こったから貰ってなかったのか。
「……でも、先輩が……あんな風に……言われたら。
自分は……。自分は……!うぅ……。」
「俺は素晴らしい先輩だからな。後輩想いだろ?」
また泣き出してしまった日吉を優しく肩を抱き慰める。
「だから思わず抱き着いちゃいました。先輩、気づいてますか?
自分達、最近はほとんど誰とも触れ合ってないのですよ。
自分は先輩とガルフだけで、ガルフだって撫でたりするぐらいですね。もっと他にも知り合いが居るはずなのですがね。
ガイ部長、ハーシャ奥様。他の皆に周知でもさせていたんじゃないですか?」
確かにそうだな。
俺も日吉とガルフだけだ。ミイネには指一本すら触れてない。
昔はもっと触っていたはずのガイ部長ですら、最近触れた記憶が無い。
それは当事者が答えてくれた。
「……ああ。その通りだ。
お前らが大切な人達を壊さないようにな。」
「じゃあ!なんで?事前に俺達へ伝……」
「先輩。ガイ部長はちょくちょく言っていましたよ?
ただその事を、今まで自分達が受け入れなかっただけです。
ガイ部長。ありがとうございます。
自分はこれで良かったと思ってます。でなければ、自分はシアラちゃんを……・」
日吉は恐怖で震えていた。
自身の力を。そして、その力の矛先を。
俺にはまだよくわからない。
日吉のように実感がまるで無いんだ。
でも、俺の力は日吉の力と互角かそれ以上だ。
ということは、俺も化け物なんだな。
ミイネ。俺は君を壊してしまうかもしれない。
恐怖以外の何物でもなかった。




