第7話 言葉
「先輩。この前、タバコについて話したじゃないですか。それ関係で、今度は……」
「日吉。酒談義はまた今度な。
今、俺達には重要な案件をしなければならない!」
「重要な案件?
先輩。この仕事、ただ棒を押すだけじゃないですか?」
「まぁそうなんだが。
日吉。俺達がここに来て、どのくらい経つ?」
「そうですね。2週間ぐらいは経っているんじゃないですか?」
「その間、俺以外と話したか?」
「いや、言葉が通じないから無理ですよ。」
「そうだ!言葉だ。流石にそろそろ真面目に覚えないとマズイだろ。」
「うっす!確かにそうですね。
ずっと先輩と付きっきりだと。変な誤解を受けそうですし……。」
「それは俺も勘弁だな。
とにかくだ。今日は仕事しながら、言葉を教えてくれそうな奴を探すぞ。」
「うっす!素人の自分達に根気よくイラつかずに優しく教えてくれそうな人ですね!」
「そうだ。気が弱そうで、あまり複数グループに入ってないと更にいいな。押しまくれば、なんとかなりそうだし。」
こうして俺達のミッションは開始された。
そして日吉とアイコンタクトをとりつつ、仕事中に1人の男性に目をつけた。
仕事終わりの夕食時、その男性の左右に俺と日吉は陣取る。
急に、俺達2人に囲まれて、驚く男性をよそに、日吉がまずはお願いしますとアイコンタクトしてきた。
仕方がない。
先輩の威厳を見せてやるか!
「コンニ~チワ!ワタ~シ、カゲイデ~ス!ヨロシクデ~ス!」
「ムププ。先輩。それ外国人風の日本語ですよ。」
「ぐむむ。じゃあ日吉。逝ってこい!」
「うっす!ハ~イ!マイ、ネーム、イズ、ヒヨシ!ディス、イズ、ア、ペン!」
「日吉……。それただの英語じゃねぇか。それにペンって……お前が指したのはカチカチのパンじゃねぇか!」
「ブフゥ!言わないでくださいよ。指した瞬間に自分も思ってたんですから。」
「まぁいいや。この際だ、恥を忘れてドンドン行こう!」
「うっす!」
俺と日吉は恥を捨てた。
元々あまり持っていなかったかもしれないが。
「ボンジュ~ル。ボジョレーヌーボ~?」
「トレビア~ン。ラトビア~ン。」
「ボヘミア~ン。バ~ミア~ン。」
「オブリガ~ド?ウルトラガ~ド?」
「シェシェ!ニーハオ!リーチ、ピンフ、タンヤオ……」
「「イーペーコー!!」」
もう外国語ですらないな。
日吉と変な言葉を言い合うだけの会になってしまった。
2人で苦笑していると、男性も笑ってくれた。
意味が通じたのか?と思ったが、ひとしきり笑うと首を横に振った。全然ダメだったようだ。
だが、その後、男性自身を指さして言葉を紡いでくれた。
「オサイ。オ・サ・イ。」
それに、俺も男性を指さして
「オサイ?」
応えると、笑顔で返してくれた。男性はオサイという名前らしい。
その後、男性は俺達を交互に指さしてきた。
これは流石に俺も日吉も意味が分かった。
「カゲイ!」「ヒヨシ!」
オサイは俺達を指さしながら、
「カゲイ。ヒヨシ。」
と言ってくれた。
この世界に来て実質初めての現地民との会話だった。