第6話 タバコ
「先輩。そういえば、タバコ吸わなくて大丈夫なんですか?」
「うん?そういう日吉だって吸ってないじゃないか。お前も喫煙者だっただろ?」
「自分はまぁアレですから……。」
「知ってるぞ?日吉も俺と同じクチか。
ニコチン中毒じゃなくて、休憩中毒なんだろ?」
「あ、やっぱりバレてましたか?」
「そりゃそうだろ。ウチの会社、ほとんど喫煙者だし、その社員のほとんどが休憩中毒だからな。部長や課長、更に上の人達も吸ってる影響だろう。」
「じゃあ先輩もなんですね?」
「まぁな。家では吸ってないしな。あんまり家に帰れて無いから、吸う機会すらあまり無いんだがな。」
「あ、自分もそうですね。
それにしても、あの会社、本当に酷かったですね。」
「うん?何がだ?」
「タバコ休憩ですよ。皆一斉に行くじゃないですか。」
「ああ。アレか。」
「非喫煙者だけがポツンと残されるんですよ。アレ見たら、自分も喫煙者になるしかないじゃないですか。」
「タバコはやめとけ。体に毒だぞ?」
「先輩……。今更遅いですよ。
それに、あのポツンと残される空気は耐えられませんでしたよ。吸いにいった人の電話対応もしないといけなくなるし。」
「まぁな。昔はバラバラで行ってたんだが、部長達に怒られてな。『何故、俺も誘わないのだ?』とか『お前、誘い過ぎだ!真面目に働けよ!』とかで、面倒くさくなったんだ。
だから、部長の一声で皆で行くようになったんだ。」
「そういう部分だけは、何故か一体感ありましたよね。あの会社。
時代を逆行していますし。」
「うーん。仕方がない部分もあるんじゃないのか?大体、分煙とか言ってやたら遠い場所に喫煙所を作るからな。これは部長の格言なんだがな。『タバコ休憩はタバコに火をつけてから始まるんだ!喫煙所までの道のりは休憩じゃない!』だそうだぞ。」
「そうですね。
それはちょっとだけわかる気がします。
せっかく遠くまで来たのだから、ゆっくり満喫したいですよね。
でもまぁ、帰ってきて同期の非喫煙者に『遅い!』と小言を言われる迄がセットなんですがね。」
「頭に透明のカプセルでも被せておいた方が余程分煙になりそうだけどな。常に煙いからニコチン中毒者でも吸う本数は減るんじゃないかな?」
「それは……そうかもしれませんが、人としての倫理に反しないですかね?というか窒息しないですかね?」
「どうだろうな。
それに多分俺達のようなニコチンじゃなく休憩中毒者も多いはずだから、純粋に労働環境が良くなれば喫煙者減るんじゃないかな?」
「あ、それは分かります!
でも、そんな事有り得るのでしょうか?特にあの会社で……。」
「まぁ俺達はあの会社に戻れそうにない身だからな。知ったこっちゃないさ。
というか、日吉。タバコの話なんてするから、ちょっとだけ吸いたくなってきたじゃねぇか!」
「えー??じゃあ、自分の乳首でも吸ってみます?」
「アホか。さて、仕事、仕事!」
「うっす。先輩。今日もキリキリ働きましょう。」