第64話 シアラⅢ
綺麗な紙で包まれたソレを、中身の色を見ずに口へ運ぶ。ヤバそうな色でもしていたら、食べれなくなってしまう。こういうのは見ない方が良い。
シアラちゃんや他の人達も不安そうに見つめる中、その飴玉を口に含んだ。
口に入れた瞬間に、顔の全ての水分がソレに吸収されていく感じがした。実際にそうだったかもしれない。
「お……おぉ……。」
これ以上、口に含んでいたら死ぬ!
飲み込もうにも唾液すら吸収される。寧ろ飲み込んでも死ぬ!
震える手を口に突っ込んで飴玉を取り出す。
なんて恐ろしい食べ物だ!
飴玉を掴んだ手ですら、水分を吸われてドンドンと腕あたりまでもが干からびていくのだ。ミイラ状態の手で持つ飴玉は、包み紙に急いで戻した。
「お……み、水……を……!」
枯れた声でなんとか水を頼み、両親が急いで桶に入れた水を持ってきてくれた。
その水をがぶ飲みする。3度、お水のおかわりをしたところでようやく落ち着いてきた。
うん。これ……日吉でも無理じゃね?
「シアラちゃん。この飴玉は……一体?」
「ごめんなさい!センパイさん。
ヨージ君のお仕事は汗がいっぱい出るって聞いてたから、その為にと思って作ってみたんです。」
なるほど。
確かに俺達の仕事は肉体労働だ。
重さに慣れた今ですら汗が尋常じゃなく出る。
そして、汗が出るなら、出なくなれば良い。
なんともストレートな発想で大変素晴らしい。
普通の人なら、すぐに死ぬけどな。
とりあえず、日吉は普通に食べれるかもしれないし、お土産として貰っておこう。
ウチの職場、水だけは大量にあるからな。もしもの場合も安心だ。
俺が口に含んだ飴玉以外にも5、6個用意されていた飴玉をお土産として包んでもらった。
皆、何故か驚いていたが、仕方ないだろ?
シアラちゃんを目の前にして、捨てさせる選択肢は選べないんだ。
うーん。それにしても……。
確かに課長の奥様より手強いぞ?
課長の奥様だって一般的に食べれる料理はあった。その分、見た目はアレだったのだが。
そうか!テーマだ!
本来、美味しさが第1目標の料理なのだが、彼女達は副次的な効果を出そうとし、第1目標が抜け落ちる。そして副次的な効果を突出させ過ぎるから凶悪になる。
それらを意識させない為にもテーマを決めて制限する方法はアリだと思った。というか、もうそれしか無い。
シアラちゃんも課長の奥様同様、作る腕前だけは良かったから創作に向いている。
そうして、シアラちゃんにテーマ料理を教えこんだ。課長の奥様という良い手本や経験があるから、アドバイスしやすかったし、シアラちゃんも理解してくれた。
これで今後少しはまともな料理が食べれるようになるだろう。
シアラちゃんと両親も揃って、別れを告げ、暖かく見送られ、俺はミイネの店に向かうことにした。
食堂の常連達が、
「おい。見たか?」
「ああ。一瞬でミイラみたいになってたな。」
「それなのに、水を飲んだだけで元に戻ったぞ?」
「ああ。数々の料理を食べ、何の変化も無いヨージは化け物だと確信していたが、センパイもある意味化け物だな。」
「まだまだ俺達が食べるのは自殺行為だな。」
「ああ。せいぜい彼らには頑張ってもらおう。」
と、何かコソコソ言っていたが良く聞こえなかった。




