第60話 お姫様だっこⅢ
少しずつ片腕でも出来るようになり、1週間もすれば半日ぐらいはなんとか持たせることが出来てきた。
後々の為、俺はかなり頑張っていた。
ただ、これはミイネが嫌がったら全てが無駄になる。
しかし、いつかやる日が来るかもしれない。その為に準備しておいて損はないはずだ。仕事へのモチベーションアップにも繋がるし。
だが、それは俺に限ったことであり、日吉は気が向いたら程度で、ガイ部長にいたっては休日もあるから、本当に少しずつ出来る時間を延ばしたぐらいだった。
日吉とガイ部長には悪いが俺だけ次のステップに進もう。
重さに慣れたら、次は姿勢制御だ!
この職場は石ばかりに囲まれて石しかないと今まで言ってきたが、一応他の物もあったりする。
その筆頭が桶だ。監視員が居た時、水が欲しい際にぶちまけてくれる為の桶がある。
その桶に水を張り、片腕で支えながら棒を押す。中の水がこぼれないように姿勢を安定させつつだ。
そう。
第2段階はイ〇シャルD特訓法だ。
どうやら日吉は漫画を読んだ事があるようで、この特訓法に食いついた。
「先輩!それって、藤〇豆腐店ですか?」
「ああ。重さに慣れたからな。次は安定だ。俺は先へ行くぞ。」
「マジっすか。ソレなら楽しそうです!自分もやってみたいです!」
「お、おぅ。好きにしたらいいんじゃないか?」
すると日吉は用意する為に棒を押すのを抜け、桶を持って、水を貯め始めた。
急に抜けたから俺の桶からかなりの水がこぼれてしまった。
ぐむむ。かなり難しいぞ?コレ。
四苦八苦してる際も会話は続く。
「アレですよね。表面張力でギリギリのところを回すように移動させるのでしたっけ?」
「それは漫画だな。特訓法は一緒だが、俺達は違うからな?」
「へっ?慣性ドリフトの為じゃないのですか?」
「アホか。ハチロク無いのに、どうやってドリフトするんだ?
それに回してどうする。本来は人が乗るんだぞ?それだと確実に酔うだろ?」
「あー。確かにそうですね。なら、目標は何になるのですか?」
「こいつの完成形はだな……桶の水が波紋すら起こさず移動が出来るよう目指すのさ。
そうすれば、乗ってる人も振動することなく座っていられるからな。疲れないだろ?」
「それはいくらなんでも無茶じゃないですか?出来そうな気がしないですよ。」
「すぐに出来るとは思っていない。それにすぐ実践する程の仲でも無いからな。
後々の為、少しずつで良いんだ。彼女が喜んでくれる為、そしてそれを俺が見たいが為にだ!」
日吉が水の入った桶を持って仕事に戻る。
「先輩。クソかっこよすぎないですか?頭はおかしいですけど……。
うわっ。コレ。めちゃくちゃ難しいですね。」
「日吉は水を入れすぎだな。最初からそんなに入れたら誰も出来ないだろ。」
「……お前ら。また訳の分から……いや、理にかなっているか。
しかし、やっていることと見た目は非常識だな。俺はついていける気がしない。」
ガイ部長はただただ乾いた笑いをしていた。
その後、日吉が棒を押す進路上に水を零し過ぎて、ガイ部長が足を滑らせ、こっぴどく怒られていた。




