第53話 ミイネ
翌朝。
3度目の休日だ。
シアラちゃんを見てみたい気持ちもあるが、これ以上日吉に先を行かれる訳にはいかん。先輩としての威厳はとても重要なのである。
王城を出て、真っ直ぐ布屋へ向かう。
多少距離が遠いし、歩きオンリーなので布屋に着いたのは朝ではあるが、大体のお店もやっている良い時間帯になっていた。
ウッキウキで布屋に入った……。
そして、絶望を知ってその場で膝を折った。
カウンターに座る、1人のお婆さん……しか居なかったのだ。
まさか、あの女性が居ないなんて思いもよらなかった。
「いらっしゃい。あの子は今日、居ないよ。」
マジかよ!
今日の予定が一気に崩壊したじゃねぇか。
ヤバいなぁ。
お婆さんから【あの子】の名前を聞き出すのも難しいだろう。
いや、待てよ?
【あの子】って言ったよな?
何故知っている?俺とお婆さんは初対面だ。
娘さんか何かで、話を聞いていたのか?
それにしたって、ちょっとおかしい。
考えろ、俺!今こそ頭脳をフル回転させる時だ!
ポクポクポク……チーン!
おもむろに立ち上がる俺。
そして、お婆さんへ質問する。
「そうですか。それは残念でした。
ところで、今後も毎月布を買いに来ようと思っていまして……もし良ければ、お婆さんの名前を教えてくれませんか?」
「ワタシ?ワタシは『ミイネ』よ。」
特に何かを考えずスラスラと答えるお婆さん。
これは偽名ではなさそうだ。
そのお礼として、毎度貰ったお小遣いの銀貨1枚をカウンターに置く。
「どうも丁寧にありがとう。ミイネさん。
来月、来る時は若い姿のミイネさんで宜しく頼みますね!」
と、カマをかけてみた。
「なっ!?」
驚くお婆さん。
そこは驚いたらダメなのに。
その反応で正解だったのが一目瞭然だ。
「よっしゃー!予想が当たったぜー!ありがとう!神よ。」
当然の如くガッツポーズをし、その後神に感謝の祈りを捧げる。
「じゃ、ミイネさん。また来るから、その時はよろしくね!」
超嬉しい。
勝手に1人で心理戦を繰り広げ、読み勝った。
そして、今回の目標だった名前を聞けたんだ。
もう十分な戦果を上げたから、お金をそのままにして帰ろうかと思っていた。
「ちょっと!待ちなさいよ!」
しかし、帰る間際で、お婆さん状態のミイネに呼び止められた。
「うん?ミイネさん。どうしたんだ?」
「どうしたも何も……どうして分かったのよ?」
「いやぁ……こう言っちゃアレだけど、設定がユルユルだったからね。こういうのはちゃんと成りきらないと!
お婆さんとは初対面なのに、すでに会った事があるみたいなセリフだった。初対面なら、奴隷が目の前で崩れ落ちたら、体調を心配するとか、店の前で倒れるな!とか言わないとおかしいだろ?
だから、第一声でお婆さんの名前を聞けば、その辺りの設定も決めてないと予想して、本名を言うと思ったんだ。」
最初に【あの子】とやらの名前を聞いたら、確実に偽名を言うだろう。
そして、その間にお婆さん自身の偽名も考えてしまうはずだ。
そうなる前に、少しでも考え始める前に……
確実に仕留める渾身の一撃を打ち込まなければならなかった。
もしカマかけで驚かずに、本当にお婆さんと娘の関係だとしても、お婆さんの本名は聞けたんだ。周辺で聞き込み調査でもすれば、すぐに娘の名前も判明するだろう。
「そう。……やっぱりダメね。私にこういうのは向かないわ。」
ミイネは諦めたのか、ため息を吐いて、ちょっと変わったステッキみたいな物を取り出して、光り輝かせた。
その光が収まると、お婆さんだったミイネの姿は、最初に見た若く美しい姿へ変身していた。
おお!
変装かと予想していたが、これがもしかして魔法とかかな?
初めて見た!




