第47話 出会い
出会いは最悪。
なんせ、俺は何処からどう見ても奴隷。
好印象を持たれる訳が無かった。
「今日は最悪だわ。最初の客が奴隷なんてね。」
会ってすぐの一言目がコレだ。
それでも特に気にならなかった。一目惚れ中だったからな。
明彦君に教えてもらったお店に着いた時、誰も居なかった。
「すみません!」と呼ぶと暫くして奥からこの女性が出てきた。奥にはチラッとはた織り機が見えるので、作業中だったようだ。
綺麗だった。
ゆったりした服から見える手足は細く、しかし痩せすぎという程でもなくスレンダーな雰囲気ではあった。そして、肌も透き通るように白く、健康的には見えないが、ギリギリ病的という訳でもない。
髪はストレートでかなり長く、作業中は頭上にかんざしで纏めていたのだろう。出てくる際に解いて、おろしてした。それがまた俺に見せびらかしているのか?シャンプーのCMのようにサラサラとなびき背中へおりていく。
肉感的というよりも芸術的な雰囲気を持った女性だった。
ぶっちゃけ、1歩間違って、かなり悪く言えば貞子だった。
だが、顔立ちは意志の強さを感じさせる程、キリッとしつつ整っており、ホラー的な怖さよりも、現在の不機嫌も合わさってキツめの印象が勝っていた。
『いとしさとせつなさと心強さと』
篠○涼子じゃないし、意味不明かもしれないが、まさにそんな感じがした。
俺にとっては何よりも誰よりも綺麗に見えた。
「それで?何が欲しいの?」
見惚れていたら、一応客として扱ってくれるようで、注文を聞いてきた。
慌てて意識を取り戻して、一番安いのでいいから布が欲しいと伝えようとした。
「君が欲しい。」
あ、間違えた。
つい本音が駄々洩れた。
ガッツリ聞かれてしまい、女性の眉間に深い嫌悪感が刻まれる。
それすらも絵になっていたが、流石にマイナスイメージがつきすぎている。
「あ、いや、すまん。間違えた。布が欲しいんだ。実はまだ言葉を覚えたばかりなのでな。」
慌てて言い訳で誤魔化しながら、本来の目的を伝える。
「フフッ。何よそれ。もう少しまともな言い訳を言いなさいよ。」
言い訳でも失敗した。
実際に言葉を覚えてまだそんなに時間が経っていないので、本当のことなのだが、普通に考えればこの俺の年齢で言葉を知らない人はほとんど居ないだろう。
説明不足だが、説明しても理解しれくれそうにないし、冗談と思ったのか笑ってくれたので、良しとしよう。
「それで?布といってもどんなのが欲しいの?」
「そうだな。なるべく丈夫な布が欲しい。量があると更に嬉しい。」
「ふーん。分かったわ。」
本当はボロい布でいいし、言い訳の時にさっさと伝えた方が早い。
しかし、「君が欲しい」と言っておいて、その後すぐに「ボロい布が欲しい」と言い直す訳にもいかない。女性=ボロい布と言っているようなものだ。
俺の身なりと言動で、その辺も察してくれたのか、若干目尻を下げて安そうな布を用意し始めてくれた。
その姿は俺にとって、あざとさが限界突破していた。
かがんだりする度に髪が流れ、それをかき上げる仕草が、本当に美術品を見ているようであった。
その様子をがっつりガン見していたらバレた。
ボサボサの髪で顔が隠れているはずなのに……。
「奴隷にジロジロ見られても全然嬉しく無いわね。あんまり見るとお金取るわよ?」
再び不機嫌そうな顔で注意してきたが、素晴らしい絵画を見ている気分の俺は、その通りだと思った。
「ああ。そうだな。」
そう言って、ガイ部長から貰ったお小遣いの銀貨1枚をカウンターの上に置く。
本当にお金を払うとは思ってなかったのか、一瞬驚きの表情を浮かべる女性。その後、すぐに普段に戻り、今度はニヤリとした表情に早変わりした。
「フフッ。私はそんな安い女じゃないわよ?」
コロコロと表情が変わり、そのどれもが魅力的に見えた。女性のセリフは冗談だと分かっていたが、確かに!と納得した気持ちを抱いた。だから……
「ああ。その通りだ。
来月また来るから、その時はもっと持ってくるよ。」
ガイ部長になんとかお小遣いを増額してくれないか頼み込むとしよう。
しかし、どう頼んだら多く貰えるのだろうか?
『女性に気に入られたいからお金もっと頂戴!』
……うん。絶対くれないな。
1人の世界に入って、ムンムン唸りながらどうすれば増額してくれるか考えていたら、いつの間にか帰り道を歩いていた。
王城前に着いた時、お金だけ払って布を貰うのを忘れていた事にやっと気づいた。
でも、布屋の女性に出会えただけでも十分過ぎる程の価値はあったか。と思った。




