第39話 奥様Ⅱ
次の日から、ほぼ毎日ハーシャ奥様は仕事場に来ていた。
騎士団が休みの日は一日中居ることもあった。
今まで来なかった事が不思議なくらい入り浸ってきた。
ハーシャ奥様にその事を聞いてみたら、ガイ部長が教えてくれなかったそうだ。
ガイ部長の気持ちは若干分かる。
自らの失態じゃないとはいえ、合わせる顔が無かったのかもしれない。
ハーシャ奥様は普通の貴族令嬢では無かった。
仕事中は俺も日吉も裸に紐パンなのだが、まったく物怖じしなかった。
むさ苦しい騎士団で慣れているのかもしれない。
更に、俺と日吉の2人だけで棒を押していても、最初は驚いていたが、次の日にはすんなりと受け入れていた。
「ガイ様の部下ですもの!そのくらい出来て当然ですわ!」
「「そうですね。ハーシャ奥様!」」
と、俺達のことよりもガイ部長を中心に物事を考えている節があり、そういった事もあって、簡単にこの環境に溶け込んだ。
そんな日が続いた、ある日。
ヒューメル大隊長が、ガイ部長の後任候補を連れて視察に来た。
今までも度々あったが、数十分もしない内に消えていってしまう。
笑顔アピールしても、しなくても結局一緒だった。
というより、ここ最近は俺達よりもガイ部長の切羽詰まった感で逃げられているように思う。
先程まで後任候補と会話し、ここの環境は素晴らしいとアピっていた。しかし、笑顔を振りまいているガイ部長の目だけは死んでいた。
最近ハーシャ奥様が来るようになったが、普段は俺と日吉しか居ないし、早々誰かが来る訳でもない職場だ。見た目もおざなりになりつつあって、どんなに素晴らしいとアピールしても、ぶっちゃけ説得力が皆無だった。
当然、今回の人にも逃げられてしまっていた。
すがりつくようにガイ部長は止めたが、それもホラー感を増長させるだけで、馬の耳に念仏状態だった。
何がそんなにダメなのだろうか?
こんな楽な仕事は他に無いと思うのだが?
ハーシャ奥様の爪の垢を煎じて飲ませた方がいいんじゃないだろうか?
……ん?ハーシャ奥様?
そうか!
出入口付近で、膝をつき項垂れるガイ部長は放置しておいて、その隣で『またもダメだったか。』と呆れ気味の大隊長を呼ぶ。
「大隊長殿!お話がございます!少々お時間良いでしょうか?」
上司を呼ぶには失礼にあたるが、俺達の仕事は止まれない。
それは大隊長も分かっている為、特に不機嫌になるわけでもなく、隣へ来てくれた。何故が日吉も俺が押している棒まで来て一緒に押すようになった。
「なんだ?何かあったのか?」
「ガイ部長の後任の件なのですが、ハーシャ奥様はどうでしょうか?」
「うん?ハーシャオク?」
「あ、いえ。ハーシャ・コーキン様でございます。」
「ああ。彼女か。そういえば、確かガイの元許嫁だったか。」
「先輩!それは良い案ですね。
大隊長殿。ハーシャ様は最近、ココによく来てくれますので、逃げる事は無いはずです。」
「!?それは本当なのか?」
「はい。ガイ部長を今でも慕っている様子で、俺達を見てもまったく物怖じしませんでした。
後任ということですが、ガイ部長は何処かへ移動になったりするのでしょうか?
もし、ガイ部長の休日の為に管理者を増やす……ということであれば、ハーシャ様は適任なのではないでしょうか?慕う者と同じ部署になるのですから、ハーシャ様も喜んで受けてくれるかもしれません。」
「なるほどな。確かに騎士団所属だから、女性でもこの環境は慣れているか。
ふむ。お前達の言う通り適任そうだな。分かった。その件はこちらで預かろう。」
「よろしくお願いします。
あんな感じのガイ部長では、今後も後任が見つかるとは思えませんし……。」
「うん?……いやぁ……まぁ……そうかもしれんな……。」
最後だけ、何故か歯切れが悪かったが、ヒューメル大隊長は俺達の思惑を受け取ってくれた。




