第109話 交差点
棒立ちの俺を抱きしめるミイネ。
周りのチンピラ共は全員失神中の地獄絵図の中で、俺とミイネは想い合った。
少し離れた場所では、ロン様とミラ様が優しい微笑みで俺達を眺めていた。
その真ん中で、目元を赤く腫らしていたシアラちゃんが、更に涙を流して笑っていた。
悲しさよりも嬉しさの方が強く目の色を彩っていた。彼女は誰よりも俺達を理解している。俺達のように、日吉と想い合えたらと思っているのかもしれない。
周りを見渡していたら、ミイネが抱き終えて俺の体から離れ、俺と一緒に周りを見渡した。
「シュンの職場を見てみたかったけど、この後始末だけで今日は無理かもしれないわね。」
「確かに、ちょっと人数が多すぎだな。誰か人を呼ぶにも奥まった場所みたいだし、彼らが起きたら面倒だな。」
ミイネとこれからについて話していたら、ロン様達がこちらにゆっくりと合流してきた。
「ヒッヒッ。なんじゃ?これから何処かへ行く予定だったのかねぇ?」
「はい。本当はミイネとシアラちゃんを俺達の職場まで連れて行く予定でした。
シアラちゃんから聞いていると思いますが、元々はシアラちゃんが絡まれた時、日吉が助け、返り討ちにしてしまったのが今回の原因なんです。それで俺達は俺達のことを気づいたのです。だけど、そのせいで2人は傷ついてしまった。治す為にも話し合った方が良いと思って案内するつもりです。」
「フォッフォッ。そういう事なら、後始末はワシらがやっておこうかのぅ。」
「ヒッヒッ。そうだねぇ。おぬしらはあまり休日は無いのだろう?こんな所で油売ってないで、さっさとお行き。」
「いえ、ですが!……」
凄い人達とは言え、老人2人に40人程居るチンピラ共の後始末をお願いするのは心苦しく思って、否定しようとした。しかし、あさっての方向から声をかけられて否定も遮られた。
「おい!爺さん!婆さん!こんな所で……またやらかしたな?
知り合いの冒険者から呼ばれて急いで来てみれば……少しは自重することを覚えてくれよ!?」
1人のちょっとおかしな見た目の中年男性がロン様とミラ様を怒りつつズンズンと向かってきていた。
「ヒッヒッ。アタシらは指一本も触れてないねぇ。」
「フォッフォッ。そうじゃ!そうじゃ!ワシらは見学しに来ただけじゃのぅ。」
「嘘臭ぇなぁ。全然信用出来ねぇぞ?そういう事は日頃の行いをもう少しだな……」
中年男性は反論するロン様とミラ様に物怖じせずネチネチと説教しだしていた。流石に2人が可哀想だなと思って、弁護する。
「あのぉ。すみません。ロン様とミラ様は、俺達が巻き込まれた所を助けて頂いただけですので、お2人の言い分は本当の事なのです。」
「なんだと!?爺さん。婆さん。本当か?」
「フォッフォッ。さっきから言っておったじゃろうが。少しはワシらを信用せい。
ほれ。シュンよ。丁度良い男手が来たのじゃ。こちらの事は任せて、2人を案内するといいのぅ。」
「ヒッヒッ。どうせこやつは暇だから問題ないねぇ。お前さん達はこれから大事な予定があるんだ。気にせず行くといいねぇ。」
「いえいえ。流石にそういう訳には……」
「ったく。しょうがねぇなぁ。爺さん、婆さん。分かったよ。
あんたも気にすんな。こうなった爺さんと婆さんは頑固だからな。まぁ元々だがな。」
「フォッフォッ。」「ヒッヒッ。」
本当に良いのだろうか?急に現れた中年男性に丸投げしちゃって?
隣に居るミイネは何故か口元を手で押さえプルプルと笑いこらえていた。
不思議に思ってミイネを見つめると、頷いてきたので頼んで良いみたいだった。
「すみません。この御恩はいつか必ず返しますので、後の事はお願いします。」
「ああ。任せておけ。」
すんなりと承諾してくれた中年男性へ丁寧に頭を下げ、剥ぎ取った衣服をまとめて背負い、屈んでミイネを腕に座らせ、シアラちゃんを呼んで、改めてロン様達3人にお礼を伝え、職場のある王城へと歩き出した。
別れ際に、ロン様とミラ様から「近い内にまた職場へ行く」と言われた。今度は何しに来るのだろうかと不思議に思った。
3人が見えなくなってから、唐突にシアラちゃんが話しかけてきた。
「最後に来た人、なんだかセンパイさんに似ていましたね?」
「そうか?歳はガッツリ俺より上だっただろ?俺ってあんなに老けてるのか?」
「うーん。なんていうか雰囲気が似ていました。ヨージ君ともちょっとだけですが、センパイさんの方が近い気がします。」
「フフッ。シアラ。そうね。その通りよ。
シュン。あの人がディアナとキエナさんの旦那さんよ。普段ディアナから愚痴を聞いていたから直ぐにピンときたわ。
誰もが想像しない事をいきなりし始めて周りを振り回すそうよ。環境や生き方はまるで正反対なのに、確かにシュンとヨージにそっくりね。」
「ええ……。俺達、そんなに変な事はしてないと思うんだけどな。」
「ププッ。そうなんですね!」
「フフッ。でもお陰でこうしてヨージ君へ会いに行けるのだから、後でディアナに感謝しなきゃね。」
確かにそうだな。
俺は来月まで次の休みは無いから、ミイネにお礼を頼みつつ、あの頭の上に緑の鳥を乗せた中年男性に心の中で感謝した。




