第107話 野獣と野犬Ⅴ
大剣使いはリーダーらしく振る舞い、代表格が全員敗れたにもかかわらず、後退りながらもまだどうにかしようと足掻いていた。
「クソが!!てめぇら数で圧倒しろ!!」
周りのチンピラ共に一斉に攻撃するように命令すると、チンピラ共は一瞬怯えたが、誰か1人が恐慌なのか?威圧なのか?叫んで突進し出すと周りにも伝播して、全員俺に向かってきた。
「フォッフォッ。愚策だのぅ。」
「ヒッヒッ。無駄だねぇ。」
ロン様とミラ様は40人近い者達が俺1人に決死の突撃をしているというのに、変わらずのほほんとした空気で彼らを馬鹿にしていた。
ぶっちゃけ、代表格が拍子抜けだったので、彼らをどうやって制圧すればいいのか検討もつかなかった。
蹴る殴るは以ての外、押し返そうにも圧し潰してしまいそうだった。
戦い方も分からないし、今まで通り防御に徹しよう。
今の感じだと、急所すらも脅威足りえないが、もしもという事もある。
ミイネとの仲も途切れなかったから、今使おうとするとミイネを壊しかねないが、今後使う機会があるかもしれない息子を片手でガードし、もう片方で顔をガードする。
俺1人に対して40人近くのチンピラ共が各々武器を振りかぶり、拳を握りしめ、飛び込んできた。
その全てを一身に受ける。ほとんど何の感覚も無かった。
たまにゆるく投げられたゴムボール程の衝撃が体中を撫でるように受けただけ。
そして、俺に攻撃を仕掛けた奴らは何処かしら体を痛めて、うずくまったり転げまわったりしていた。
一斉に突撃したせいで、無傷なチンピラは弓やちょっとした魔法で遠距離から攻撃してきた3~4人しか残っていなかった。
それでもリーダーの大剣使いは往生際が悪く、まだどうにか出来ると思っているのか?力の篭った目で俺を睨んでいた。
確かに、ココで負けたとしても、全員生きているのだから。更に人数を増やしてリベンジすればいいと思っているのかもしれない。
これはもうロン様の言いつけを破ってでも、誰かを殺すしかミイネ達の安全は守れないのではないか?
『この力で人を殺すな。』
日吉が理解したように、この戦い?で俺も理解した。
俺達はやっぱり化け物だった。
この力で人を殺すのは簡単だと思う。まるで蟻を踏み潰すぐらいなんだ。
一度でも踏み潰してしまえば、その簡単さに罪悪感も湧かず、殺害への抵抗感も無くなりそうだった。
2人の言う通り、一度でも殺してしまえば、以降は簡単だと知り、その通り簡単に繰り返してしまうだろう。そのせいで俺達の人に対する心持ちも変質するだろうな。
今のところ誰も殺してないはず。だから、今は殺人を回避したい気持ちも行動も取っているが、もし殺ってしまえば、それすらも無くなりそうだった。
確かに、戻ってこれなくなりそうだと自分でも思った。
それでも、現状を打破しなければならない。
八方塞がりかと思っていたら、ロン様とミラ様から提案があった。
「フォッフォッ。まだ理解できぬとは、どうしようもない奴らじゃのぅ。
そうじゃ、アレをやってはどうかのぅ?」
「ヒッヒッ。そうだねぇ。シュンよ。仕事の始動のヤツをやってくれないかねぇ?
それならば、こんな奴らでも力の差が理解出来ると思うねぇ。
ミイネにシアラだったかい?アタシらから離れちゃダメだからねぇ?」
亀仙人モードか。
なるほど。あの時のロン様達は、俺のあの姿を脅威と思って3者3様の対応をしようとしていたのか。
ロン様がミイネとシアラちゃんを囲むように魔法陣が地面に展開されていた。
俺から彼女達を守る為だろうな。
チンピラ共の時は何もしていなかったのに、俺からの脅威にはしっかり対処してくれるみたいだ。自分で言ってて悲しくなってくるな。
涙をこらえつつも、ならば心置きなくやってやりますか!
これでダメでも、更に先を見せれば良いんだ。
気合いさえあれば、なんでも出来る!
「うおぉぉぉぉーー!!」
力を込めて叫び、体中の筋肉全てを膨らませる。
ドンドンと全身が大きくなっていく……ひとまわり……ふたまわり……と。
はち切れんばかりの筋肉でボロボロだった服やマントが破れ飛び、Tバック1枚になってしまった。
このぐらいかな?とある程度、体を大きくしたところで、周りを見渡せば……
その場に立っている敵は誰1人居らず。
代表格の5人も含めたチンピラ共は全員、失神していた。何人かは失禁もしていた。
戦いと呼んでいいのか分からない代物の何かは簡単に幕を下した。




