98話 イゾウ
なおす力の持ち主を見たコタロウとミュウは、図らずも同じ印象を抱いていた。
『思ったよりヨボヨボ!?』
その力で生き存えていると聞いて、てっきり若い姿をキープしていると思っていたのだ。
それが、まさかじいさんやドクターのようなヨボヨボの類いとは――
「ふん。どうやら、ワシの力のことは知っているようじゃの」
俺たちの反応を見た『新ヨボヨボ』は、一つ鼻で笑った。
自分のことをワシと呼んでいるし、何より語尾が『じゃ』というこの新ヨボ。
なおす力にも限度がある、ということなのだろう。
「新ヨボ……ゴホン。あなたは、なおす力を持っている、と――緑の国のドクターが聞いたと、ゴロウさんから聞きました」
又聞きしたゴロウから又聞きしたことを正確に伝えるミュウ。
うっかり新ヨボと口走りそうになったが、咳払いで上手く誤魔化したようだ。
「ドクター……あぁ、ゴンゾウくんじゃな? 犬ころに聞いたが、残念じゃったの……。ワシも当時から知ってはおったのじゃが、触れることが出来ないモノをなおすことは出来んからのぉ――」
「その、なおす力というのは、一体どんな……?」
「ほっほっ。そこな女子、焦ることも無かろうよ。先ずは自己紹介じゃろうて。ほれ、現世にはレデーブーストなる言葉があるんじゃろ? 女子から素性と力を紹介するのじゃ!」
レディーファーストと言いたかったのだろう。
ブーストって、間違いだけどなんか……合ってる気がする。
何というか、圧力が高い、威圧感たっぷりな女子って感じで――おっと……隣の女子が何やらブースト気味で怖いから、変なことを考えるのは止めておこう。
その後は大人しく、ミュウから名前、年齢、そして持っている二つの力を説明した。
続いて俺も自己紹介を……と思ったのだが、その役はミュウが買って出てくれた。
俺の言葉には、未だに干渉判定されるものもあるのだ。
力の制約のことも含めて、ミュウから正確に紹介をしてくれた。
いや、名前がタコロスだというのは正確ではないのだが。
「ほっほっ。両人とも、なかなかに優れた力を持っておるようじゃの。一日に一度、死んでも生き返る……ミウのそれは、なんとも残酷な力じゃ。じゃがのぉ、まさか力を知る力を新たに得るなどとは――何とも、賢い連中が揃っておるようじゃの。
じゃがしかし――タコ……タコス……タコスケと言ったか。お主の力は凄いのぉ! まるで物語を読むかの如く、人様の視界を覗くじゃと?」
覗くという表現が浸透してるし、俺の名前がどんどん別のものになっていくし……このじいさん、見た目通りのヨボヨボで、記憶力も怪しいのではないか?
「――しかもじゃ。変異種の一新で、その視界の一つを人様に貸し与えることも可能じゃとは……おみそれしたぞ!」
――俺の『物語りスキル』だが。
強化された結果、俺が所有する視界画面を、一人につき一つまで貸し出せるようになっていた。
貸した画面は俺の手元からなくなり、覗く……じゃなくて、俺自身は見ることが出来なくなってしまう。
そんな制約もあるが、例えば俺がほとんど見ることの無い、俺自身の視界画面を貸す場合には何の不自由も無い。
ただし、残念なことに俺の視界画面には、俺が見ている他の人の視界画面は映らないようだ。
現に、今はシンジに貸しているのだが、その画面に映るのは俺が見た人や景色だけ。
そのほとんどを、時折俺を睨むブースト女子が占めているようだ。
せっかくレイと二人きりの旅行……任務なのに、どこかミュウに監視されている気が止まないのでないか。
――今回、シンジには俺の視界、レイにはミュウの視界。ミュウにはレイの視界を貸している。
人に貸した画面が手元からなくなると言っても、俺なら隣でミュウが見ているレイの画面を見ることも出来る。
それに、シンジの視界画面には、レイに貸したミュウの視界画面すらも映ることがあるのだ。
今のところ不自由はほとんど無いと言えるだろう。
「ふん。次はワシの紹介じゃな……これ、犬ころは何故尾を振っておる? 紹介の必要は無かろうて。――ワシのことは『じじい』でも『じさま』でも、好きに呼ぶが良い」
「じゃあ、老害で」
「ふむ――いや、え? お主、なかなかに人を敬えない女子じゃのぉ!?」
「冗談です。おじいさん枠は既に飽和状態ですので、お名前を頂戴してよろしいでしょうか?」
「う、うむ。イゾウ、それがワシの名じゃ」
実に見た目にピッタリな名前である。
イゾウはあごに蓄えた真っ白いひげを手でなぞりながら、紹介を続ける。
「ワシがこの世界の地を踏んだのは、かなり昔のことじゃ。年月など、とうに数えるのをやめたわい」
「じゃあじじいは、いつこの世界に来たかは覚えていない、と?」
「そうじゃ。……って、せっかく名乗ったんじゃから、じじい呼ばわりすな!」
なかなかに年季の入ったツッコミ属性のようだ。
そんなイゾウの紹介は、肝心要の力の話へと移る。
「ワシの『なおす力』じゃが。人を治すこともモノを直すことも可能じゃ。こんな姿で生きておるがのぉ、本気を出せば赤子の姿まで自身を治すことも可能なのじゃよ」
「じゃあ、せめてもっと若い姿で生きた方が良くないか? なんでまた、そんなじじいの姿で?」
「じじい言うな。ふん、ワシはのぉ……若人まで治しては、また老人までを過ごして、そしてまた若返ることを繰り返しておる。ずっと若い姿でおったら、それこそ時の流れを感じることも出来まいて」
それはそうだと思うのだが……うっかり寿命でくたばるなんてこともありそうで怖い。
「ほっほっ。事ある度に、ワシはこんな具合に自身の力を紹介しておるのじゃがな――実は、ちと違うんじゃ」
「――違う? 何が?」
「いろいろと面倒でな……まぁ、聞けばわかるじゃろうて。ワシの力はのぉ――時を戻す力なんじゃ」
「――!?」




