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97話 なおす力

 時は前日の早朝に遡り、黄の国城下町、レモーヌ。

 反発少女復活班二人がウッホに跨がるのと同時に、コタロウとミュウの二人も別のウッホが牽引する荷車へと乗り込んだ。


「くれぐれもお気を付けて」

「朗報を楽しみに待っております。――えぇ、マサユキと二人、それはもう寂しく……」


 待機班のじいさん、マスコットの猫神父キィに見送られ、二班はそれぞれの目的地へと出発した。


 俺たち『見る知る班』の目的は、文字どおりこの世界に散らばる力を見ることと、知ること。

 直前にもシンジの力でその所在を確認したのだが、各国に一体ずつ生息する変異種を除くと、『黄の国に二つ』『青の国に一つ』『赤の国に一つ』の、力を持つ黒髪の存在が確認されていた。


 俺とミュウが先ず向かうのは、青の国だ。

 順番としては、青の国の黒髪、次に同国の変異種。黄の国に戻って変異種、そして黒髪二人。

 赤の国の二つの力は、復活班の目的地に近いところに位置しているため、そちらの二人に兼務してもらう。

 シンジが見れば今後は識別まで可能となるし、ミュウの力を借りたレイが見れば、その力を知ることも出来るのだ。


 ちなみにだが、世界の拡がりの前後で、この世界の力の“数”は変化していない。

 ゴロウの力が消えた代わりに、赤の国に一つ増えたのだ。


 赤の国の二つの力が位置するのは、そのどちらもが、今回壁の内側に編入された区域。

 つまり、黒髪のものと思われる一つは、拡がり前には壁の外にいたということ。

 壁の内側に位置したことで、所在の確認が可能となったということだ。

 わかっているのは、その人物が壁を通り抜ける何らかの力を持っているという、ただそれだけの情報だろう。



 途中、黄と青の境界付近の宿屋で一泊をすると、翌日の昼には青の国の城下町、イソラに到着した。

 俺にとっては二度目となるこの町。

 一度目は、レイたちがゴロウ&ドクターと接触していたときに、じいさんと変異種調査の名目で訪れていた。

 そのときの滞在期間は僅か一日。

 犬神父の協力もあって、少しだが情報が集まった直ぐ後に――変異種が一新してしまったのだ。


 無駄な遠征だと某女子に罵倒されるし、ウッホ車に揺られて痔が悪化するし、散々な記憶しか無い。

 それでも、今回はその反省を生かした。

 主に羊の獣人の体毛を麻袋に詰めた簡易クッションを用意し、それを尻に敷いてウッホ車の旅に臨んだのだ。

 おかげで、痛いのは時折俺に注ぐミュウの毒舌と目線だけだった。


 レイが灼熱地獄の獄卒だとすると、ミュウは極寒地獄のそれ。

 対人能力皆無の俺が持っているのは、漫画やアニメ、ラノベの知識だけ。

 対してミュウも対人を苦手としていて、持っているのは勉学の知識だけ。

 そんな俺たちが楽しい旅など出来る筈が――あったのである。


 勉強漬けだったミュウにとって、俺が生きてきた引き籠もりニートの世界そのものが別世界なのだという。

 まるでこの世界とも違う異世界に生きた俺の話を、実に興味深く聞いてくれるのだ。


 とは言え、調子に乗って俺の推しを口にした瞬間に、その場は凍りついた。

 俺はおっとりとした巨乳美女が好きなのだが、この世界にやって来た女子たちは、美女であることを除くと……。



 そんなこんなで意外と早く目的地に着いた俺たちは、先ずは神の家へと向かった。

 一応だが、犬神父にも挨拶しておくことにしたのだ。

 それに、黒髪の情報もわかる範囲で聞いておこうと思ったのだが――


『やっぱり、力の一つは神の家にいるようだね』


 その声は、シンジの視界画面から聞こえてきた。

 力の一つは、世界の拡がり以前から町の中に留まっていることはわかっていた。

 もう一つは青の国の外れ、元々壁の外に位置していた区域から動かない。


 自ずと町の中にある力が黒髪のものだとわかったため、俺たちの第一目的地としていたのだ。

 それでも、町のどの建物にいるかまではわからなかったのだが――どうやら俺たちが向かう先、神の家の中に黒髪がいるようだ。



 ――事前にキィから聞いていた情報。

 先ず、黄の国にいる二人は“二十五年前にこの世界に来た黒髪”ということを明らかにしていた。


『――わたくしも、ずっと気にはしていたのです。いたのですが――えぇ。気が付いたら今になっておりました。ま、まさか……どちらかの力で私の時が跳ばされたとでも!?』


 それは知らんけど。

 と、誰もが冷たい視線を注ぐも、その言葉から得られるものもあった。


 程度は知れているが、キィは自身を情報通だと豪語している。

 そんなキィがよく知らないということは、その二人がこの世界攻略には積極的に動いていないということ。

 自身の力を悪用することも、有効に使うこともしていない。

 ただの一住人として無事に、平穏に生きることを決めたのだろう。

 そもそも自身の力を未だ知らないという可能性もあるのだが。


 ということで、キィの情報から、この二人の優先度は、最も低いものとなる。

 同時に、その他の二人のどちらかが『なおす力』を持っている黒髪であると推察された。



 こちらは以前、ゴロウの語りで知った情報なのだが――今からおよそ百年前のこと。

 『一人の黒髪が世界の始まりに導かれて戻らなかった』という事実を、一人の人物が、緑の国のドクターに知らせた。

 その人物は、ゴロウたちよりも先にこの世界にやって来たという黒髪で、『なおす力』を持っていると言った。

 力の詳細は不明だが、老化すらもなおすことで、若い姿のまま生き存えているに違いない。


 今も生きているとすると、そこには一つの疑問が生じる。

 二百二十五年前にやって来たゴロウたち。それよりも先にこの世界に来たというその人物は、確実にその時代の生き残りだろう。

 もしかすると、赤の国に現れた一人が同期の可能性もあるが……そんな、いつの時代も同期が二人仲良く存命するなど考えにくい。


 とすると――世界の始まりの地では『この世界に生き残る』という選択肢もあるのだろうか。

 赤の国のそれは謎として――とにかく、青の国にいる黒髪が、なおす力の持ち主であろうと踏んでいた。




 ウッホ小屋に荷車ごと預けると、正面から神の家の礼拝堂へと入る。

 入ってすぐに、正面の最奥、国旗と肖像画の前にやたらとイケメンオーラを放つ犬を見つける。

 犬神父も匂いでこちらに気付いたのか、脇目でクールに微笑むも、だが尻尾を左右に大きく振り始めていた。


 犬神父に近付くことで、別の誰かと話していることに気が付く。

 それは人間で、おそらく五十代後半くらいの齢。

 毛量の多いその頭髪は、八割ほどが真っ白く染まっているものの――残りの二割は、この世界ではほとんど見ることの無い髪色。


 目的の黒髪、その人物だった。

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