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93話 レイの強化

 強化内容の発表は、レイの二つ目の力へと続く。

 こちらは『物語りの力を共有する力』だから、タコロスの力の強化に依存するのだろうと、レイはそう考えていたのだが――


「――タコロスの力を共有する力。共有するというより、借りるって表現が正しいかもね。何故なら、今回強化されたことによって――人の力の一部を借りることが出来るようになったの!」

「――はい? ……えっと、それって凄いんじゃない?」


 おそらく制限も多いだろうが、その時々によって借りる力を変えることで、この世界攻略にもかなり役立てるのではないか。

 と言うと、やはり制限が気になるところだが――


「借りることが出来るのは、効力の一部だけ。一度に借りることが出来るのは、一つの力だけ。借りた力は自分では発動出来ないし操作も出来ない」

「つまり、自動で発動するような力に限るってことか……」

「そして、ここからが重要。命にも関わる要注意事項なんだけど……その効力が発動するのに耐える身体機能は、借りることが出来ないの」

「なるほど……」


 例えるならミュウの力だろうか。

 一日一回生き返るというその効力は借りることが出来るけど、おそらく元どおりには生き返らない。

 致命傷はそのまま残るのではないだろうか。

 あのヤンチャ少年の力も、そもそも凄いパンチを放てるかわからないが……もしも放てたとして、その衝撃で自分のからだがバラバラになってしまうだろう。



「でも、発動するのに何らかの身体機能を必要としない力なら、問題無く借りて使うことが出来そうだね。タコロスの覗く力だと、必要なのは人並み以上のいやらしさだけだろうし。

 あと、力を知る力、所在を知る力なんかは何も必要としないかな? 言い聞かせる力、願いを叶える力は……これは発動系だから、借りること自体出来ないと思う」


 この子、暗にわたしが『人並み以上にいやらしい』って言ってない?

 はっ! そうか……もしも彼の力を借りたら……それ即ち、運命共同体ってことだよね? 一緒に力の所在を追っちゃったら、それ即ち初めての共同作業ってことだよね?


「レイ……残念ながら一人目はタコロスだからね?」

「――!?」


 この子、人の心を読みすぎじゃない……?

 タコロスはお試し、ノーカンってことにしてもらえませんかね?




「――じゃあ、レイの三つ目の力だけど」

「あ、そう言えばもう一つあったね」


 レイもすっかり忘れていた。

 コリーが変異種ゴキを討伐したことで得た、ラッキースキルのようなもの。

 しかもそれは、日中の限られた時間に五分間姿を消すという、正直使いどころに悩む力だった。


「ブブブブ、という気色の悪い音を立てて宙を舞い、人に精神的な大ダメージを与える力。それが今回、なんと――ゴキの姿に変身出来るようになったの!」

「ちゃうやん! キモっ!」


 ミュウのボケセンスは嫌いではない。

 でも、ゴキを想像させるのだけは本当に止めて欲しい。

 ミュウは、あのインプの見た目を可愛いというのだ。もしかすると……いや、まさかそんなことは――


「ふふ……。実はね、こっちも強化というか、使い方が増えたみたい。これまで、その姿だけじゃなくて音とか匂いとかも消すことが出来た。でも、不可視なだけで、人に触れることも触れられることも出来た。でもね――」

「まさか、完全に透明になれるとか?」

「正解! 時間制限とかは変わらないけど、誰にも触れられることが出来ない、完全に透明になることが出来るの!」

「それって――逆に、私も人には触れることが出来ないってことだよね? じゃあそっちを選ぶと、触れた相手を消すことも出来ないってことか……」


 もしかしたら変異種討伐に役立つかと思ったのだが……。

 気付かれないように近付けたとしても、肝心の触れることが出来ない。

 手に持った凶器とか捕獲用の縄とかは見えてしまうし……。

 ――うん。いつか、役立つときがある筈。



「――ってことで。取り敢えずここに居る三人の強化内容はわかったけど……やっぱり、ゴロウが居たら心強かったのにね……」


 それは考えても仕方の無いことだと、わかっていた。

 七つもの力が強化されていたら……と思うと、やはり勿体ないと思ってしまうのは事実なのだ。

 それでも、新たにわかったことが一つある。


 この世界にとって重要なのは、力の強化よりも、世界の始まりに導くことなのだろう。

 ゴロウは神が求める力を持たずに、ただの生き残りだったというのに――



 まだ全てを話していない様子のコリー。

 それでも、この場で話すべきことは全て話したのだろう。


「黄の国に帰るんだろ? じゃあ、レイ。ここでお別れだな! 楽しかったぜ。がはは!」


 この世界に来てからずっと、すぐ傍で見守ってくれた。

 そんな存在に、感謝の気持ちを込めて足蹴をしながら、小さく「ありがとう」と呟いたレイだった。


 ちなみに『ドクターは何処へ行ったのか?』という問題は、ミドリに丸投げしたのだった。




 ――翌日の夜。


「おかえりにゃさーい! ――見事、変異種の一新を果たしたようですね。えぇ、実に素晴らしいことです」


 黄の国レモーヌの町の、神の家に帰った三人。

 表情が読めないが嬉しそうな猫の大神父、浮き足立った俺、涙目のじいさんが出迎えた。

 何故俺が浮き足立っているかというと、言わずもがな、力の強化を一刻も早く知りたいからだ。


「待ち侘びたぞ! 早く、俺とじいさんの強化内容を教えてくれ!」


 ウッホ車に乗っていただけの筈なのに、やけに疲れた表情を見せるミュウ。

 これは、ただ面倒臭いだけだろう。

 本当に、この女子二人の当たりは俺にだけ強いのだ。まさか……変異種の一新で、当たりも強くなってないだろうな?



「……仕方無い、か。わたしたちも気になってたからね。じゃあ――発表します!」


 先ずはじいさんの力を見ているのだろう。

 上から下まで舐めるように眺めるその背景音に、俺は勝手にドラムロールを鳴らしていた。


「――おじいさんの力。一日に一回、人の願いを叶えることが出来る。叶える願いに上限はあるし、一人につき一つまでという制約もある。これが、なんと――」


 ミュウ自身、発表を楽しんでいるのだろう。

 やけに間を取り、薄らと微笑んで、皆の反応を窺っていた。


「願いをリセットすることが出来るようになったの!」

「――おおっ!」


 猫も含めた全員から、感嘆の声が上がる。

 確かに、それは凄いことだった。


 一度叶えてもらった後に『あぁ、やっぱりあの願いの方が良かった!』などと、より良い願いが思い付けば、後悔だけが募る場合もある。

 それをリセットして、再度叶えることが出来るというのだ。



「リセットするにも、それは一日一回の願いにカウントされてしまう。それに、リセットも一人につき一回だけみたいだね」

「でも、それは凄いことだよ! ――じゃあ早速、タコロスの願いをリセットして試してみようよ!」

「だね!」

「俺にまた死ねと!?」

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