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92話 シンジの強化

 考え込むように、シンジの全身をじっくりと眺めるミュウ。

 見ているのは力だけの筈なのに、何となく全てを見透かされているようで、シンジは落ち着かない気分になってしまう。

 と同時に、少しだけだが嫌な予感が頭をよぎっていた。


 ミュウの力の強化を聞くに、主にはそれに付随するような身体能力の強化だった。

 少し死ににくくなったというのは何やら凄いが、視力が五倍というのは正直あまり羨ましくない。

 では、自分の『言うことを聞かせる力』だと、なんとなくだが『言い聞かせる』のに必要な身体機能――そう、『声が大きくなったの!』とか言われるのではないか。


 この力は、会話や意思の疎通が可能な変異種にも通用すると考えられている。

 そのため、例えば近付くことが出来ない相手には、遠くからでも声を届かせることが出来るのなら、有効な強化だとは思うのだが……そんな変異種が現れない限り活躍の場は無いし、他には大声選手権くらいしか思い当たる場が……。



「――シンジさんの強化。先ずは、人に言うことを聞かせる力ですね。効力があるのは一度に十人まで。そして二十四時間後までという制約があるけれど、どんなことでも言い聞かせることが出来る凄い力です。今回、この制約にはなんら変わりが無いのですが――」


 シンジは黙って頷く。

 そのに、やはり声量だろうかという不安が募ってしまう。


「この力の強化、これは凄いですよ。――なんと、思念を伝達することが出来るようになったの!」

「――し、思念!? つまり、思いを念じるだけで相手に伝わるとでも……?」

「それ、凄くない? 言葉にしなくても言い聞かせることが出来るんでしょ? 例え会話が不可能でも、意思のある変異種なら彼の言いなりってことだよね」

「そうみたい。でもね……元々、シンジさんの力には発動条件がある。それは、人への感謝の気持ちを抱き続けること」


 そうだ……お墓の前で願うと同時に誓ったんだ。

 これまで僕を育ててくれた両親、そして周囲の人への感謝の気持ちを抱き続けようと。

 ということは――


「僕のその、感謝の気持ちの大小によっては、変異種に通用するかどうかも変わる……ってこと?」

「そう。……ここまで細かい条件を教えてあげたんだから、わたしにも感謝してよね?」


 ミュウなりの気遣いなのだろうが……耳が真っ赤になっているということは、普段なら先ず言わない言葉なのだろう。

 僕の胸には自然と感謝の念が宿り、口からは「ありがとう」と、感謝の言葉が出ていたのだった。



「――次に、力の所在を知る力。シンプル設定のおかげか、壁の内側に限るけど、世界中の力を持つ存在の位置が手に取るようにわかる。

 これまでどおり壁の内側には限るけど――なんと、力を持つ者の識別が出来るようになったの!」

「おぉ……そ、それはつまり――」

「誰が何処にいるかわかるってこと!? そっちも凄いじゃん! さすがシ……一新の恩恵ね」


 何故かレイのテンションが猛烈に上がり、だが直ぐに冷静に戻った。

 確かに、識別出来たところで何の役立つのかは、今のところいまいち不明だ。


「ただし、一つ条件がある。わたしの力と同じで、肉眼で捉えて初めて識別出来るみたいなの」


 それはそうだろう。見ず知らずの黒髪や変異種を認識もしないで、識別など出来ないだろうから。

 じゃあ、残すは三つ目の、不死の力か……。


 でも、これは――シンジは、残滓から得たこの力だけは、強化がされないだろうと考えていた。

 そして実際に、ミュウの口から出たのはそのままの言葉。

 おそらく、元々神の力を超えるような力は、強化の対象とはならないのだろうと考えられた。




「――じゃあ、次。レイの番だね」


 ミュウの視線に、今度はレイが身構える。

 視力の強化を聞いた時点では、『期待値を下げようかな』などと考えていたが、その後は思いの外すごい強化がされていた。

 彼の強化も、もしかしたら声が大きくなるだけかと思ったが、それはなかなかに素晴らしい内容だったのだ。


「――先ず、結果を予知する力。二十四時間後までに限るけど、自身が辿り着く結果を映像として見ることが出来る。これまでは、取るべき行動を変えることで、最善の結果を見つけていた。でもね、今回――使い方が一つ増えたの」

「え? まさか、予知できる結果の時間指定が出来るようになったとか?」


 これまでは、その結果が何時間後のものかわからなかった。

 二十四時間後なのか。あるいはまた次の、結果が変わるような選択の場に立たされるときの光景を見ていたのだ。

 それを、例えば時間指定――早送りとか巻き戻しとかも出来ればどんなに便利だろうかと、ずっと思っていたのだった。


「うん……残念ながら、それではないの。二十四時間以内に限るのは変わらないんだけどね――あらゆる事象の、最善の結果を予知出来るようになったみたい!」

「……最善?」


 疑問を抱きつつも、レイには思い当たることがあった。

 そう言えばさっき、タコロスへの仕打ちを考えたときのこと。

 何をすれば一番効果的か……みたいなことを思って目を閉じたら、あの結果を予知したのだ。


 つまりこれは、これまでの『行動を選択して最善の結果を見つける』とは逆。

 『最善の結果を先に見てから、そこへと至る行動を見つける』のだ。


 もともとは、私はこの力を願った。

 対局の結果、もしも負ける結果がわかれば、勝つためにあらゆる手を考え、手を尽くそう。

 そう、望んだのだ。



「レ……澪川みおかわさんのその力。先ずは追加された方で最善の結果を予知する。今度はこれまでの力で、その結果に辿り着く行動を見つければ良いってことかな?」

「それが可能なら良いけど、そもそも最善の結果は、これまでの力では予知出来ない可能性もあるのと思うの。

 例えば――レイ。自分にとって、最高に幸せな結果を予知してみて?」

「……えっ?」


 何をさせようというのか……と言いつつも、レイはあることを考えていた。

 最高に幸せな結果なんて『彼と結ばれる未来』しか考えられない。

 期待と不安を胸に、目を瞑る。



 ――どこかの、宿屋の一室だろうか。

 一つのベッドの前に、至近距離で立ち見つめ合う男女。

 抱き締め合い、そして口づけをする二人はゆっくりとベッドに――


「きゃぁーっ!!」


 大声で叫び、両手で顔を押さえると、レイはその場にうずくまった。

 何が起きたのかと目を丸くするシンジ。

 その一方で、レイが予知しそうな結果を予知していたのか、ミュウは構わずに話を続ける。


「レイが予知したのは、最善の結果。でもね、これまでの力だと――あらゆる行動を選択して予知しても、その結果を見れるとは限らない。

 例えば、レイが見たワンシーンの直ぐ後に、レイが命を落とすかもしれない。

 もしかすると、彼の浮気が発覚して、逆上した彼に首を絞められて死ぬとか。

 その場合、これまでの力で予知出来るのは、首を絞められる結果だけでしょう?」


 だけでしょう、って……何を恐ろしい結果で例えてくれてるわけ?

 それ、ミュウの体験談だよね?

 ……っていうか、なんで私が見たワンシーンがわかってるわけ?

 この子、ほんと、たまに怖いんだけど――

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