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80話 三度の出会い

 情報共有の際に、レイは、おじいさんの力についても詳細に伝えていた。

 『人の願いを叶える』というその力は、願うその人に、何らかの力を宿すことも出来る。

 一方で、他人に力を宿すという願いは叶わない。


 さらに、宿す力には当然だが上限があった。

 これまでには、レイの『物語りの力を共有する力』の他、ミュウの『力を知る力』、シンジの『力の所在を知る力』を宿すことが出来ていた。


 ドクターに力を宿すことが、変異種抜きでドクターが生き存えるための手段となり得るのか。

 それを議論する前段で、先ずはゴロウが疑問を呈した。


「でもよぉ……じじい本体は既に死んでるんだぜ? そんなじじいの願いも叶うもんなのか?」

「……さぁ」


 レイだってそんなことは知る由も無い。

 だから、肩をすくめてそう答えるしか出来なかった。


「でも、それはドクターの願いであり、変異種の願いでもある訳だろう? そして、その、おじいさんの力は――人魚の変異種の願いを叶えた、という実績がある」

「それだ!」


 シンジの言葉に、ゴロウが歓喜の声で同意する。

 レイはと言えば、思い人に対する思いがさらに激増していた。

 共有した情報を全て記憶し、さらにはそれを使って解を導く。脳内で脚色というか美化されたそんなシンジの姿に、レイは『……うん、大好きだわ』という思いをそっと秘めていた。



「よし。じじいその弐の力で宿すことが出来る、じじいに有用な力を考えようぜ! 別に、力じゃなくても『若返る』とか、そんな願いもあり得るよな!」


 先ずは皆で、考えられることを列挙してみることにする。

 大神父二人は部屋の片隅で立ち並び、そんなレイたちの様子を見守っていた。

 最愛のドクターに関わる、ミドリにとっても非常に重要な話し合いなのだが……干渉出来ないが故の、仕方の無い行動なのだろう。



 結局、候補として残った案は、『少しだけ若返らせる』『まぁまぁ若返らせる』『結構若返らせる』の三つ。


「――おいっ! こんだけ頭良いヤツらが揃って、若返り以外思い付かねえのかよ!」


 自分が言った三案しか残らなかったことに憤るゴロウ。

 だが、若返り案しか出していないやつに怒鳴られる筋合いはない。


「そもそも、若返りは『時を戻す系』だから、おじいさんの力では叶わないんじゃないかな?」


 ミュウは冷静にも、ゴロウに気遣いを持ち、最後に残った案を否定した。

 名案だと浮かれていたのはゴロウだけだったらしく、レイとシンジは一つ小さく頷くだけ。

 その瞬間、ゴロウの名案はあっさりと却下となったのだった。



「やっぱ、現状維持しかえのかよ……じじい、それで良いか?」


 皆が話し合う中、ドクターだけは一言も発することも無くずっと、俯き何かを考えていた。

 その様子から、ゴロウは嫌な予感を覚えていた。

 だからゴロウは、ドクターに話を振ることも、意見を聞くことも敢えてしてこなかったのだ。


 現状維持とは言え、それが最善だとわかった今ならば、じじいもそれで諦めるしか無いだろう。

 そう思っての問いかけだったのだが――


「もう、良いんだ……」


 ゴロウの嫌な予感は、直ぐにドクターの口から発言されることになる。



「ユキと、また出会えることが出来たのだ。しかもね――ふふ。ユキとは、三度目も出会いの機会を持てたのだ。一度目は覚えていないけれど、白髪のミドリとの出会い。二度目がわたしにとっての一度目、黒髪のユキとの運命の出会い。

 そして今回、三度目は、黒髪のミドリとの出会い……。だから、わたしには思い残すことなど何一つ、無いのだよ……」

「おい、じじい、何を言うつもりだ!? ユキが、生き返ったんだぞ? ――そ、そうだ、これからじゃないか! ユキと二人で……それに、コユキだって居る。これから、この世界が終わるまでずっとずっと、二人と三匹で幸せに生き……」


 ゴロウは、ドクターを諭しながらも部屋の片隅を見る。

 自然と、その言葉は止まった。

 少し離れたその場所で、ミドリがその目を真っ赤に腫らし、泣いていたのだ。


「何を、泣いて……? じじいは、このまま何もしなければ生き続けるんだろ? 何だよ、何でユキまで……まるでじじいが死ぬ、みたいな……」




 ――訳がわからなくなり、俺は自分の頭を掻き毟り始めた。

 そんな俺に、じじいは冷静に、だが温かい目と声で語りかけてきた。


「ゴロウ……わたしのことをそこまで思ってくれて、本当に嬉しいよ。でもね……もう、良いんだ。これはね、思い残すことが無くなったから、それだけではないのだ」

「な、に……?」

「ユキを……この世界を、君たちに託すことにする」

「そ、それこそ、この世界の行く末にじじいが絡む必要もえだろ? だから、じじいが死ぬ必要なんて何処にも……」

「――あるだろう? わたしが生きている限り、この国には新しい変異種が現れない」

「それが何だってんだ? 他の国の変異種やつらを討伐すりゃあ良いだけだろうがよ!」

「ふふ……おそらく、それだけでは無い。そうだろう、ユキ?」


 じじいは、依然涙を流し続けるユキに問い掛けた。

 ユキは鼻をすすり、無理に微笑んで答える。


「……えぇ。このような状況でも、今は詳しく話すことが出来ません。ですが、これだけは言えます。女神さまを復活させ、この世界を終わらせるためには――変異種の一新が、非常に重要な事象となるのです」


 こんな状況でも言えないことは言えない。

 ユキの涙には、そんな不条理に対する憤りも込められているのだろう。



「一新って……一体、どういうことだ? ……いや、そうか……ユキ、お前、やたら変異種の一新を気にしてたな」


 オークの大神父から、自身の不在時の、この世界の情報を聞いたユキ。『変異種が一新されていない』ことを重要な事象だと捉えていたのを思い出す。

 そのときは何も気になることもなく、聞き流していたのだが――


「緑の国の――わたしに寄生する変異種が討伐されることで、全ての国の変異種が一新することになる。果たして、これが何度目の一新かは知る由も無いが……何かが、起こるのだろう?」


 じじいの言葉に、ユキが小さく頷く。


「じゃ、じゃあ――それならやっぱり、寄生するやつを討伐して、じじいも元気に生き存えるような方法を考えようぜ? な?」



 じじいが死ぬ必要なんて無いんだ。

 死ななくても済む方法だって絶対にある筈なんだ。

 それなのに何故……なんで、じじいが死ぬ方向で話が進んでやがる!?


 俺は、じじいとユキの考えがわからなかった。

 わかりたくも、なかった――

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