72話 疑問に答えてやる
俺は一旦、頭の中を整理してみた。
つまりは、ユキが死んだその瞬間、じじいと変異種は不老の力を失った。そして、じじいは寿命で死んだ、ってことだ。
さらには、じじいが死んで、答えを得る力も同じような理由で俺に移動した、ってことなんだろう。
俺は、自問自答を続けた。
『結局、変異種はせっかく奪った力を全て失ったってことだろ? そいつ、何をしたかったんだ? どんどん力を奪っていって、同期を続けていって、最強になるのが目的かと思ったけど?』
『変異種も、自身の失敗に気付いたに違いない。他人に移るときに、同期したままではいけなかったんだ。繋がりさえ無ければ、本来の持ち主が命を落としたとしても、奪った力は失わないんだから』
その答えだけは、力に因るものというか、俺の推測だったのかもしれないな。
それでも救いだったのは、変異種には、そんな失敗を生かす機会が訪れなかったこと。
じじいはユキの言いつけを守って、誰にも触れてこなかったんだから。
あと、変異種が元々持っていた筈の同期の力まで、何で俺に宿ったのか。
くっく……それも、じじいが同期しちまってたから、じじいのものだと判定されちまったんだろう。
あぁ、本当、変異種が馬鹿で助かったよな。
『じゃあ、ここからが一番気になっていることだ。じじいは死んでるというが、それなのに、何で生きているんだ?』
『寄生した変異種は、寄主とはあらゆるモノを共有することになる。そして、時間の経過と共に、そのあらゆるモノは完全に変異種のモノとなるんだ。
つまり、じじいが死んだときには既に、じじいの機能は全てが変異種のモノになっていた』
じじいだけど、そいつはじじいじゃない……でも、じじいそのものが変異種に奪われたから、それはじじいそのもの。
相変わらず訳がわからないが、化けじじいで間違いないってことだけはわかった。
『変異種の寿命は?』
『そもそも寿命という概念が存在しない』
『じゃあ、この変異種はどうやったら死ぬんだ?』
『寄主が死んだら死ぬ』
つまり、化けじじいには寿命が無いけど、殺されれば死ぬ、ということ。
『でも、化けじじいを殺そうとしたときにうっかりにでも触れちまうと、その人に変異種が移っちまう。ってことか?』
『同期の力を失った時点で、他の人に移ることは不可能となる』
『ってことは、じじいが触れちゃいけないのは俺だけだって事だな?』
『あぁ。俺に触れた瞬間に同期の力を同期し、同時に俺に寄生するだろう』
――種々の答えを得た俺は、これからすべきことを考えた。
でも、考えたそれは、じじいに人を近づけないことだけ。
じじいが自死することはあり得ないから、他殺の可能性を少しでも無くすためだ。
都合が良いことに、研究室に籠もったきりのじじいは、元々人との接触がほとんど無い。
唯一心配なのは、インプの返り討ちに遭うことだったが……三十年もの間、何事も無く殺め続けているのに無事なんだから、おそらく大丈夫だろうと判断した。
もしかすると、じじいとは違って、インプはじじいに対して何か思うところが……なんて、それは無いよな。
その当時、じじいは黒髪と出会いたいがために、黒髪を連れ来た騎士団員に報奨金を支払うという口約束をしていたという。
だから、他の黒髪には申し訳無かったが、その噂を脚色して町中の柄の悪い連中にも広めてやった。
俺の思惑どおり、それは黒髪に危険が及ぶ物騒な噂へと変わっていった。
これで、あとは求める力が見つかるのを待つだけ。
先ずはユキを復活させてやろう。そして、じじいも――可哀想だが、一度変異種ごと殺して、その後に復活させる必要があるだろう。
長い時間がかかっても構わない。
幸い、俺は不老の力を意図せず得たし、じじいにも寿命が無いんだから……
――じじいは更に、出会った八人の転生者から入手したという情報を教えてくれた。
驚いたことに、俺たちの五十年後にやって来た七人のうちの生き残りが、世界の中心に入ったきり戻ってこなかったのだという。
じじいは、そいつがこの世界にやって来てすぐに、研究室で会っていたらしい。
何でもそいつは、人の願いを叶える力を持っていたのだという。
自分の願いじゃなくて人の願いを叶えたいだなんて、奇特な人間もいたもんだと、そのときは思ってたんだが……そういや、今回の転生者にも居たっけな。
そしてその二十五年後、生き残ったそいつは世界の中心に入った。
じじいにそのことを教えてくれたのは、俺たちよりも先にこの世界にやって来た男なのだという。
じじいがその話を聞いたのは、およそ二十年前。
俺たちがやって来てから七十年後のことだから、そいつは少なくとも百二十年は生き存えていることになる。
そいつは『なおす力』を持っていると言ったという。
それは壊れたモノを直す、傷を治す事が出来るというすごい力。
そいつは、自身を治すことで生き存えているのだという。
もしかしたら死んだ人間を治すことも……なんて思ったが、俺がそのとき解放されなかったのと、ユキが死んだままの状況からも、それは不可能なのだろう。
さらに、そいつはこれまで転生者と会ってきたことで、様々な種類の力を見聞きしてきたのだという。
それでも、やはり世界の中心に導かれるような力は見たことが無かった。
だけど、多くの力を知ることで『同じ力が二つ存在することが無いのかもしれない』という考えを持ったようだった。
今回、二人目の『人の願いを叶える力』がやって来たのも、前のやつが居なくなってからだしな。
じじいが持っている情報は全て、見聞きして得たもの。
じじいは、答えを知る力を失っていたんだから、それは当然のこと。
じじい自身はそれに気付いていなかったが、『この世界には答えを得られないことの方が多い』と、力に頼ることを諦めていたようだな。
だから、使用の機会を限ったというか、ただ単に使用をしてこなかったんだ。
――じじいの研究室を後にした俺は、赤の国に向かい、変異種を討伐した。
そして、その後はたまにじじいの様子を見つつ、この世界を巡って過ごすことにした。
不老の力を得たから、時を封じ込めるのに不自由は無くなっていた。
そもそも不老だから、封じ込める必要も無いんだが……俺は、じじいに全てのことは話さないつもりだったから、また一年後に時を封じ込める予定だった。
あと……そうだ、最後の一つの力のことも言っておかないとな。
これも意図せぬやつなんだが、気配を察知する力を得たすぐ次の日に『成りすましの力』を得ていたんだ。
当時、城下町では『王女と知の団長の禁断の恋』という噂が流れていた。
恋などには興味が無かったんだが、その王女が黒髪だって言うなら話は別だ。
変異種を討伐した翌日、俺は英雄的な扱いを受けて、国王から直々に報奨金を贈呈された。
豪勢な夕食会にもお呼ばれしたんだが……黒髪の王女は姿を見せなかった。
厠に立つ振りをして、参加者の一人に触れてその王女の部屋を知った。
その部屋の中で見たのは、ベッドに仰向けに横たわる黒髪の女。
その胸にはナイフが突き刺さり、既に絶命していた。
そしてもう一つ……真っ黒い靄のようなナニかが窓際に浮かんでいた。
ナニかと言いつつも、実は、俺はその正体を知っていた。
会食中に王女の情報を得ていくうちに、次に現れる変異種の正体について答えを得ることが出来ていたんだ。
王女と恋に落ちた騎士団長は、辺境の村でまさに今日、処刑されたのだという。
そして、新しい変異種はその男の魂に宿るゴースト。
そう、目の前に現れたナニかは、その変異種だったんだ。
俺の力では、実体を持たないそいつを討伐することが出来ない。
だから、華美な部屋に似つかわしくないゴツゴツした地味なツボの中に封じ込めてやった。
力を得たことに気付いたのは、しばらく経ってからのこと。
すぐに力を得た経緯を問うと、先ずはそれが、あの黒髪の女の力だと知った。
この力で王女に成りすました女は、当時の知の団長と恋に落ちたのだという。
それが婚約者も知るところとなり、団長は辺境の村で処刑され、女も婚約者に刺されて命を落とした。
黒髪の誰とも接点を持っていなかったその女の力は、そのとき一番近くに居ただけの俺に宿った、と言うわけだ。
――ってことで。
長らく語っちまったな。
ここからは、お前らが抱いた疑問に答えてやる。
俺は、間違い無く七つの力を持っている。
じじいは死んでいて、一つの力も持っていない。だから、ミュウは力を一つも見ることが出来ない。
俺の企み……ただ一つの望みは、じじいを『普通の人間』として生き返らせてあげること。
何故じじいにも嘘を付いていたかは……それは、察してくれや!」




