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70話 コユキ

 記憶を取り戻した一方で、容姿がまるで変わってしまったユキ。

 愛する人と新たな人生を始めることを決意し、以前の自分とは決別したんだろう。

 先ずは、ミドリと名乗っていた白髪の自分の名前を、ユキに変えた。


 何故ユキという名前を選んだのか。

 じじいは記憶を失う前に、事ある度にユキの白髪を『雪のように綺麗だ』と言っていたらしい。

 くっく……こんなじじいの顔でそんなこと言うんだなって、こっちが照れ臭くなったもんだ。


 その後、ユキはじじいと再び愛し合い、そして、子をつくった。

 一度寄生した者には二度と寄生しないから、じじいに触れることに一切の躊躇いが無くなったことも、ユキにとっては幸いだったようだ。

 それでも、二人とも子をつくるにはかなりの高齢。

 妊娠したとわかったときには、天からの授けものだと、二人で泣いて喜んだという。



 ――じじいは、ユキの他には誰にも触れてはいけなかった。

 だから、ユキは嘘を付いた。

 『転生者は、この世界の住人には触れていけない』と。

 『触れたその人に災いをもたらしてしまう』と。

 さらに、ユキはじじいに『答えを得る力』のことを教えなかった。

 何故なら、疑問を持ってユキに触れることで、その嘘が知られてしまうから。




 ――俺に変異種の話をしてくれたそのすぐ後に、ユキは更なる衝撃的な事実を口にした。


『私のお腹には、変異種が宿っています』

『……はぁ? いや、お腹に居るのは赤ちゃんだろ? それに、変異種はゴンゾウに移ったって、たった今教えてくれたばかりじゃないか』

『……その変異種とは別のものなのです。ふふっ……本当に、この世界は無情ですね……』

『いや、もしもそれが本当だとしても……そうだ、変異種は各国に一体しか生息しない筈だろ? ゴンゾウと、お前のお腹に一体ずつなんて、そんなこと……』

『先ず、私に寄生してゴンゾウさんに移ったのは、赤の国に現れた変異種。そして――私たちは今、緑の国に居るのです……』

『嘘、だろ……何だよそれ! もしかして最近、この国の変異種が討伐されたのか……?』

『そのようですね。そして、新しく現れた変異種は……おそらく概念的な存在だったのではないでしょうか。丁度良い依り代が、転生者の……わたしの、お腹の中に居た……』

『何で……何で、ユキはそんな、自分のお腹に変異種が居るなんて、知っているんだ……?』

『それは、ゴンゾウさんの答えを得る力を同期しているからです。……ゴロウさん、このことはゴンゾウさんには決して、話さないで下さい。たとえ、私が明日、命を落としても……』

『命……だと? 何を馬鹿なことを……本当に、さっきから何を言っているんだ!?』


『わたし、この膨れたお腹に触れて、思ったの。この大きさだと、もしかしたら一人じゃないかもしれないな? って。男の子かな、女の子かな? って。そしたらね、恐ろしい答えを得てしまったの。

 ――インプが三体――って。わたし自身がこの身に宿しているからか、インプという変異種に対する問いの答えは、ほとんど上限無く得ることが出来た。インプ……この子が持っている力は、不死、みたいなの。

 命を落とすと、とある場所でまた生を受けるみたい。この子にとって、そこが始まりの場所なのね。そしてね、不死のこの子が本当の死を迎えるには……自死、しか無いみたい』


『自殺だと!? ……でも、変異種が自殺なんか出来るものなのか?』

『一応、人から産まれるんだし……話は通じるようになる、と思う。でも、変異種の生存本能は強い、と言われているでしょう? だから、自死して欲しいという願いなど聞いてはくれないでしょうね。それをさせるには、また別の力が必要となる……』

『例えば、言うことを聞かせる力とか、操る力とかか……?』

『ええ。それでね、ゴロウさんに、一生のお願いがあるの。あの人にこのことを言わないのもそうなんだけど……』

『まさか、俺に育てろとでも言うのか!?』

『……お願い。せめて、言葉を教えるだけで良いの。いつか、自死させる可能性を高めるために……』

『……あぁ……あぁ、わかったよ。俺なら見えない壁をつくって、安全に接することが出来るだろうし。……口悪く育っちまうかもしれないが、それでも良いか?』

『ふふっ。口は悪いけど、きっと、優しい部分もたくさん持ってくれるだろうね。――ひどいお願いだけど……あの人には頼めない。きっと、私を失うだけでも気が触れてしまうと思うから……』


『そうだな……って、何でユキが死ぬことになってるんだよ!?』

『ふふっ……自分の死期もわかるなんて、すごい力だよね……』『……くそっ……わかった。俺は、お前らの頼みなら何でも聞いてやるさ』

『ありがとう……あぁ、ゴンゾウさんと二人で考えた子供の名前、とっても可愛かったのにな……』

『……一応、聞いておく』

『……コユキ。ふふっ、ユキの子供でコユキなんて安易すぎるよね。しかも女の子前提なの、これ』

『……わかった。他に、お願い事は無いか?』

『あるけど、これは……明日、ゴンゾウさんからあなたにされるお願い事。でも、それは私に関わることだから、事前に言っておくね。……本当に、最後まで迷惑掛けてごめんなさい』

『……まさか、そんな物凄い願いなのか?』


『あの人は、わたしが死んですぐに……死んだわたしの時を止めて欲しい、というお願いするでしょう』

『あぁ、なるほどな……神が求める蘇生の力、時を戻す力が見つかれば、ユキも復活させられるってことか。……考えたな、ゴンゾウ』

『正確には、明日考えた願いなのだけれどね。ふふっ……ということで、今のうちに、私からも。――どうか、わたしの時を止めて下さい。お願いします』

『わかった。おそらく、死んだ人間の時を止めるには、それほど生命力を使わないだろうからな。そんなのは朝飯前だ!』

『私が死ぬのは昼食後だけどね』

『……そんな冗談言う余裕もあるのに、本当に死んじまうのか?』

『ええ。きっと、怖いくらいに容態が急変するのでしょうね……』




 ――俺が最後に話したユキは、こんな感じでいつもどおり明るくて元気だった。


 そして、次の日の昼食後。

 意図的にその場を離れていた俺が戻ると、ちょうど、ユキが息を引き取ったところだった。

 ユキの傍らに崩れて放心していたじじいは、事前に聞いていたとおりのお願い事を口にした。

 昨日から全ての準備を済ませていた俺はすぐに、ユキを時間ごと封じ込めた。


 じじいとユキの願いを叶えるために、俺自身を封じ込めるのはまた一年先と決めていた。

 だから、生命力の出し惜しみなんてせずに、封じ込め体の圧縮までしてやった。

 その封じ込め体は、じじいが今もどこかで大事に保管しているだろう。

 ……まさか、廁じゃないだろうな?



 ――その日、じじいはユキを失った。

 加えて、産まれるはずだったお腹の子も。


 そんな絶望的な悲しみを背負った老人を一人残すのも危ない。

 とは言え、ユキの復活を見届けるまでは何としても生き存えようとするだろう。

 だから、じじいの様子はたまに確認するとして、俺はユキの一生の願いを叶えるために、とある森に入り浸ることにした。


 その始まりの場所とやらを聞いていたから、まずはその日のうちに行ってみたんだ。

 そこに居たのは、聞いたとおりの見た目をした、三体の変異種インプだった。

 ユキのお腹の中で息絶えたインプは、本当に、この場所で復活していたのだ。


 産まれたばかりの人間の赤子と同じくらいのサイズで、まるで西洋のおとぎ話に出てくる悪魔のような容姿をしていた。

 紫色で、一つ目で、角があって、尻尾も生えていた。

 ユキには悪いが、微塵も可愛いとは思えなかった。

 触り心地もゴムみたいで気持ちが悪いし、ずっと『ギャーギャー』と耳に触る声で鳴いていた。


 でも……その一つ目からは、どこかユキとじじいの名残を感じた気がした。



 インプの成長は早かった。

 一週間後には立って歩き、二週間後には『ギャ』という言葉を発した。

 あれは間違い無く、鳴き声ではなくて言葉だった。


 その日から、俺は言葉を教え始めた。

 ものわかりも良く、俺がいない間も三人で会話をしているのか、すぐに言葉を覚えた。

 やはり、俺のしゃべり方に似てしまったが、その見た目と合っているし問題無いだろうと思った。




 ユキを封じ込めた一年後、俺はまた自身の時を封じ込めることにした。


『じゃあな、さっさとくたばれよ、コユキ!』


 インプとは、最後にそう言って別れた。


『ギャ?』

『お前ぎゃきゅたばれ!』

『こゆき? それ、美味しいのキャ?』


 言葉は覚えてくれたが、最後まで会話は成立しなかった。

 それでも、心無しか、その様相には幾ばくの淋しさのようなものを感じ取った気がした。

 まぁ、俺が一方的にそう感じただけに違い無いが――

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