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68話 運命

「じじいは『答えを得る力』を持っていた。一方で、ミドリはこの世界の住人らしく、力を持っていなかった。じじいも、自分の力を使ってミドリの気持ちを知れば、もっと積極的になれただろうに。でも、それは出来なかったんだ。

 何故なら、ミドリは人と触れ合うことを一切拒んでいたから。

 じじいを生理的に嫌っていたんじゃなくて、誰にでもそんな対応をしていたんだ。敢えて聞くことは無かったが、潔癖症ってやつなんだろうと思っていた。

 じじいは自身の力を使って、この世界の住人から必要な情報を得ることで、見知らぬこの世界を無事に生きてきたのだという。


 二人と出会ってすぐのこと。俺はじじいに教えられて、自身の時を未来に移動させる事が出来ると知った。

 それを試しみて、数秒後に目を開けた俺の目に映ったのは、髪の毛が真っ白に変わったじじい。そして――髪の毛が真っ黒に変わったミドリだった。


 一年もの時が経過していると聞かされたから、じじいがこの一年間よほどの気苦労をしたのだろうと理解出来たんだが……じゃあ何故、ミドリの髪は真っ黒になったのか。


 もしかすると、もともと黒い髪を白く染めていたのだろうか?

 でも、それは何故?

 黒髪だということを……転生者だということを知られたくないから?

 でも、じゃあそれは何故?


 俺の頭の中には様々な疑問が渦巻いていた。しかも、それは見た目だけの問題では無かったんだ。

 じじいは、この世界にやって来てからの記憶を失っていた。



 俺は、じじいとはたった数日の付き合いだったし、改めて自己紹介することで関係はあっという間に元どおりとなった。

 じじいが何故記憶を失ったのか、それをミドリに問おうと思ったんだが……そもそも、何故かミドリはじじいから『ユキ』と呼ばれていた。

 全くもって訳がわからなかった。


 ミドリは俺に、目で何かを訴えかけていたから、俺は黙って一人疑問を抱え続けることに決めた。

 二人が変わらず惹かれ合っていたし、何より、ミドリはじじいの子供をお腹に宿していることを知ったんだ。

 そのときだけは、疑問よりも嬉しい気持ちが上回ったのを今でもよく覚えている。


 いつか、数々の疑問に対する答えを知ることがあるんだろう。

 そう思って、生命力が回復するまでの一年間、俺は二人と行動を共にした。



 二人とも俺を邪魔者扱いせずに、同郷のよしみなのか、まるで家族のような付き合いをしてくれた。

 楽しかったし、そこはとても温かくて居心地が良かった。

 俺は現世でそんな人生に憧れていたから、まさかこの別の世界で、そんな人生を送れるとは……いや、俺の話なんかどうでも良いか。


 二人の会話を聞くほど……いや、じじいの話を聞くほどに、俺の中では疑問が増すばかりだった。


『ゴロウを解放する少し前に、ユキと出会ったんだ。運命的とは、あのような出会いを言うんだな! わたしはユキと出会って一月も経たずに結婚を申し込んだよ』


 何度も同じ話をするじじいだが、多くの疑問を一人抱えている俺は、その度に困惑していた。

 ミドリを見るといつも『何も言わないで!』みたいな威圧的な目で俺を睨んでいたから、俺は黙って一人困惑し続けることに決めた。

 あぁ……姉ちゃんたち二人の目つきもかなり威圧的だよな。

 何だか懐かしいぜ……って、何か目つきがさらに威圧的になった気がするな。




 ――出産間近と言われていたある日のことだった。

 何かを悟ったのか、ミドリは、じじいが急な仕事で居ない隙を見て俺に話をしてくれた。

 それは、じじいとの出会いからこれまでのこと。

 そして、俺が抱いていた全ての疑問に対する答えだった。


 ミドリは、三年前よりも以前の記憶を失っていたのだという。

 自分の名前がミドリであることだけは、かろうじて覚えていた。

 気付いたら、赤の国の城下町、そこの神の家に居たのだという。取り敢えず、そこでしばらくお世話になり、記憶の回復、知人との出会いを期待した。

 でも、一年が経過しても、それはいずれも叶わなかった。


 そんな中、神の家の神父に『お前の名前、ミドリってんだろ? じゃあ、緑の国に居た方が記憶を取り戻す可能性があるかもな。紹介状を書いてやるから、キュリーの城下町に行けや。がはは!』と言われたらしい」

「その神父、コリーじゃないの!?」


 これまで誰もが黙って聞いていたが、とうとう我慢できなくなったのだろう。

 レイと名乗っていた、こちらも綺麗な女性がオークに面と向かうと、大きな声を上げた。


「……オークの笑い方はみんな『がはは!』なんだ。それに、俺は神父じゃなくて大神父だからな。がはは!」


 物凄い目つきでオークを睨むレイと、それを受け流すオーク。

 そんな二人のやりとりを微笑み少しの間だけ見ると、ゴロウは話を再開した。



「ミドリは、キュリーの神の家で相変わらずの生活を送っていたらしい。そして、半年が過ぎたある日……って、大神父? その、オーク、大神父なのか!?」


 先ほどさらっと出た単語に、わたしもゴロウと同じく聞き流していたのだが……それは、確かに物凄い事実だった。

 この世界には四人、各国に一人ずつ大神父という存在が居るのは聞いていた。

 いずれも神の導きを受けており、わたしと同様に不老の力を持ち、遥か昔からこの世界に生きているのだという。


「あぁ、ただの聞き間違いだから。大神父じゃなくて駄目神父。さぁ、続きをどうぞ」


 冷静に駄目神父と言うレイのことを、オークは威圧的な目で睨む。

 だがレイはそれを、まるでペットを扱うように宥めていた。

 これほど屈強なオークで、しかも大神父だったなら、彼女もこんな態度を取ることは無いだろう。

 と言うことは彼女の言うとおり、このオークは少なくとも大神父では無さそうだ。駄目かどうかは置いておくとして。



「……神父の手伝いをして生活を送っているうちに、『何も思い出せなくても、今が幸せならそれで良いかも』と、ミドリはそんな思いを抱くようになった。

 そんな、ある日のことだった。

 じじいが神の家を訪れたんだ。そのときミドリは……あぁ、ここからはユキと呼ばせてもらおう。最後に名乗ってたのがユキの方だし、俺もユキと呼ぶ期間が長かったからな。

 ユキはじじいを一目見て、何かを感じたらしい。

 それは黒髪を見た物珍しさか、好意か、あるいは恋心かまではわからなかったという。

 それでも、間違い無く運命を感じた。


 ユキから話しかけてみると、じじいは『ここは、何処ですか?』と、何もわからない様子だったという。

 おそらく、じじいがこの世界にやって来てすぐのことだったんだろう。


 ユキは、じじいが自分と同じように記憶を失っていると思い、さらに強い運命を感じたようだ。

 すぐに打ち解けたらしいが、ユキは何故か、じじいにも他の誰にも触れることが出来なかった。

 何も覚えていないが『誰にも触れてはいけない』という思いだけが、からだのどこかに染みついていたらしい。


 そしておよそ一年後、ユキとじじいは俺と出会った。


 ――くっく……ユキは、俺には何の運命的なものも感じなかったらしい。

 まぁ、俺もそうだったけど……いや、正直『綺麗だな』くらいは思ったけど……」



 もしもあの夢の人物がミドリという女性ならば、たしかに綺麗な顔立ちをしていたと思う。

 でも、話の流れからして、ミドリとユキは髪の色が違うだけの同一人物。

 その筈なのに……夢の女性は、ユキとはまるで違った。

 いや、似ていると言われれば似ている気もするのだが……二人は、髪の色だけでなく、年齢が全然違うのだ。


 ユキはわたしより少し若いくらいで、それこそ、ミドリという女性よりも二回り近く年上なのだから――

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