67話 全て
「おい、姉ちゃんよぉ……まるで、じじいのその力を予め知ってたような言い方したよなぁ?」
「――あ」
横を見ると、ミュウが苦い顔でこちらを見ている。
『イケメンのせいで、よっぽど大量のデバフがかかってんだな』
タコロスも意味のわからないことを口走っていた。
「あはは……」
「おい、レイ。ゴロウにはこれから全てを話してもらうんだ。お前らも全部教えてやれ」
「あんたがそれ言う? 一番全てを話さないあんたが!?」
ゴロウに色々と追求したい筈なのに、逆にそれをされてしまう結果になってしまった。
とは言え、悪い結果は見えていなかったから、この展開でも問題は無いということだろうが。
「……ねぇ、ゴロウ。あんたのこと、信用しても良いの?」
「信用? そもそも、全てを話すってのが何の話かわからねぇぞ?」
「いいから、答えて。あなた、何を企んでいるの?」
「企む……? だから、何にも訳がわからねぇよ。おい、じじい! こいつらに何か変なこと言ったのか?」
「……いや、断じてそれは無いと誓おう。それより――わたしもね、ミュウくんが誰からわたしの話を聞いたのか、それを教えてもらいたいものだ」
確かに、昨日ミュウは『あの人とゴロウ』からドクターの話を聞いたと言った。
でも、これまでの会話から、ミュウは昨日時点であの人とゴロウとは会ってすらいないことがわかったのだから。
「――そう、ですね。レイ、コリーの言うことを聞くのは癪だけど。わたしたちから話しましょう?」
「はぁ……わかったよ」
私とミュウは、これまでのことを全て話した。
私たちが願い得た本当の力のこと。
おじいさん、そしてタコロスという不審人物と出会い、新たな力を持ったこと。
これまでに知り得たこの世界のこと。
この世界を攻略するためにさらなる情報を集め始めたこと。
そして……ドクターとゴロウのいずれかが嘘を付いていて、何を企んでいるのではないかと疑っていること。
「まずは、話してくれたことに感謝しよう。そして、俺から一つだけ言わせてくれ」
悪人の可能性を示唆されたゴロウは、だが落ち着いていた。
これから言うのは弁明か、あるいは真実か――
「俺たちがこの世界に来てから二百二十五年…………だと!? おい、じじい。今って、二百年後じゃなかったのかよ!?」
あれ? ……そうか、百年くらい引き籠もっているドクターは、七十五年前にやって来た転生者の誰かと会ったきり、二十五年前には誰とも会っていないに違いない。
だとしたら――やたらと長い五十年だと感じていただろうに。
「まさか、最後に転生者と会ってから七十五年も経っていたとでもいうのか……? どおりでいつもよりも長い五十年だと感じたわけだ」
やっぱり……じゃあ、二十五年前の転生者の情報は一切知らないということか。
生き残りがいるなら、前回の転生者だと考えるのが普通だ。
この件が落ち着いたら、(あの人と!)世界中の力を確認する予定だし、今は置いておこう。
「私たち七人は、誰かのお墓に集められて、願い事をしました。それぞれが願った力を得て、そして、一人が願った『異世界転生』も叶ってしまったのです。七人が乗ったバス……乗り物が事故に遭い、ここに――」
二百年前にバスが存在していただろうか……と一瞬考えて、乗り物と言い換えた。
でも、ドクターとゴロウが反応したのは『墓』に対してだった。
「墓に願った……だと?」
「わたしたちとは違うな。それぞれが何かしらの願いを持っていたのは確かだが、それぞれが別々の要因で命を落として、気が付いたらこの世界に居たのだから。
そうか……もしかすると、やって来る間隔にズレがあるのはそのせい、なのか……?」
じゃあ、正規の転生者は――
神ではない誰かは、何かしらの力を心の中で願う人たちを七人、無作為に選んだ。
そして、何かしらの方法で命を奪ってこの世界に強制送還した。
――ってこと? 怖っ!
「――と、いうわけで。ゴロウ、あんたが嘘を付いているのはわかっているの。別に、私たちは構わないけど、何でまたドクターにも嘘を?」
「そうだ、ゴロウ。君のことだ、何かを企んでいるのなら、それはきっとわたしとユキのためを思ってのことじゃないのか?」
「……くっく。バレちまったもんは仕方無えな……」
開き直ったのか、ゴロウはこれまでの軽い笑顔を消した。
新たに生まれた表情は――それは少しの憂いを持った、でも、優しい笑顔だった。
「いや……やっと話せるときが来た、と言うべきか……」
大きく一つ息を吐くと、ゴロウはソファから立ち上がる。
そして、ソファに腰掛けたまま身構える私たちの前で、土下座を始めたのだ。
「あれ? 予知した光景と違うんですけど……私、何か間違えた?」
『イケメンのデバフが原因だな』
だから、デバフって何?
「お願いだ、生き返らせてやってくれ!」
「あぁ、台詞は同じなんだね……じゃあ、結果オーライってことで。って――いきなり何なの? その、ユキさんを生き返らせて欲しいってこと? それで何が……」
「違う……違うんだ! 生き返らせて欲しいのは…………じじい、なんだ……」
土下座のまま、ゴロウは額を床に叩き付けた。
「わたしを、生き返らせて欲しいだと……?」
当の本人も、ゴロウが何を言っているのか理解できていない様子だ。
「じじいは、既に死んでいる……」
「はぁ?」
その場の誰もが驚きの声を上げていた。
「わたしが、死んでいる……? じゃあ何故、生きているんだ?」
それは至極当然の疑問だ。
死んでいるというのに、しっかりと生きているように見えるのだから。
「じじいが死んだのは……ユキの時を封じ込めた翌年のこと。あぁ……全てを、話そう」
――額を赤くしたゴロウは、立ち上がると再びソファに深く腰掛けた。
一度、いつもの優しい目でわたしを見ると、目を閉じ、過去の話を始めた。
「お前ら、俺がシンジに話した内容も知ってるんだろ? 年月とかはだいたいそれと同じなんだが、内容はちょっと脚色していた。
まず――俺が二人と出会ったのは、転生から二年後のこと。白髪交じりのじじいと、綺麗な白髪をしたべっぴんさん……ミドリだ」
「……ミドリ、だと? わたしは……そんな名前の女性は知らないぞ? あぁ……一緒に居たとは言っていなかったな。早とちりで話の腰を折って済まない」
それでも、白髪と聞いて、わたしには思い当たる人物がいた。
もしかすると、あの……よく見る夢の人物ではないだろうか……
「ミドリは白髪だけど、でも、二十代の前半くらいに見えた。だから、二人の年齢は二回りくらい違っていただろう。それでも、お互いが惹かれ合っていることは一目瞭然だった。しかも、どちらかというとミドリからの好意が強い印象を受けたな」
わたしの問い掛けには答えずに、ゴロウは話を進めた。
話を聞くことで、全ての謎が明かされるということだろう。
だからわたしは、大人しく話を聞くことに決めた。




