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59話 信用が出来て強くて、ウッホ車を持ってるイケメン

 トイレから帰還したレイは、明らかに青白い顔で無理やりに微笑んだ。


「――ごめん、お待たせ。……それで、私に宿った新しい力を教えてくれる?」

「うん。レイの新しい力はね――ゴキの見た目になって、『ブブブブ』って気色悪く飛べるの」

「わぁ、やったぁ、飛行スキルゲットやーん! ――って、そんなわけあるかーい!」


 完全なツッコミ属性のレイだが、そのノリツッコミが可愛く且つ面白いとわかったので、ついついからかってしまう。


「ふふ。本当はね、『姿を消す力』だよ。現世でいうところの午前九時から午後三時くらいまでの、太陽が強く輝く時間に限って、一日に五分間だけ透明になれる。そんな力みたい」

「何ていうか……制約、強くない?」

「でも、その制約のおかげで『姿』だけじゃなくて『音』『臭い』も完璧に消せるし、触れている人の姿を消すことも出来るみたいだよ。とは言え、気配は消せないしさわれはするから、無敵では無いみたいだけどね」

「それに、一日に五分ってことでしょ? 何かすごいような、思ったより微妙な力だね」


「今回はさ、たまたまゴロウの気配察知があっただけで、普通にすごい力だと思うよ? それに、レイにすごく合ってる力だと思う。コリーも、それを見越してレイに宿るようにしたんじゃない?」

「あぁ――それ、気になったんだけど。そもそも、何でコリーが討伐したやつの力が私の身に宿ったのか、謎なんだけど?」


 力の行き場に関するレイのその問いに、大神父であるコリーが答えをくれるのか。

 それは気になるところだったが、


「――明日の正午、城下町のおれの家に集合だろ? どうせここからウッホ車でも二時間はかかるんだ、道中に話してやるよ」


 話を一時中断させると、滞在時間わずか三十分ほどで宿を発ったのだった。




 ――二頭のウッホが牽引する荷車の上。

 揺られ始めて間もなく、コリー自ら話を再開させた。


「答えを勿体ぶった訳じゃないから、あまり期待しないで欲しい。ただ、今回は何も答えられない訳じゃないから、そこだけは安心しろ。

 ――これは……誰かに聞いたかわからないが。黒髪が、力を持つナニかの命を奪った場合、その力はその黒髪に宿ることになる」


 ナニか、と表現したのは、そこには人間もそうだし、変異樹のような変異種全てを含むからだろう。


「じゃあ、力を持たない誰かが力を持つナニかの命を奪ったらどうなるか。――その力は、その命を奪った誰かに『最もちかしい』黒髪の身に宿ることになる」

「親しい……? つまりは、一番関わりがある黒髪ってこと? ――ところでさ、コリーは『力を持たない誰か』にカウントされちゃうわけ?」

「あぁ。俺たち大神父の身には、生まれながらに与えられた力以外のものは宿らないようになってるからな」

「ふーん……何も、大神父も力を得るようにして、身内で問題を片付けてくれりゃ良かったのにね」

「確かに、レイの言うとおりだよね。敢えてそうしなかったのか、あるいは出来なかったのか――」


「とにかく、今回の場合は、力の行き場を敢えてレイにした訳じゃない。一緒にいる時間が一番長いレイが、俺にとって一番親しい黒髪だったってわけだ」

「――でもさ、全く見ず知らずの住人が奇跡的に変異種を討伐出来たら? それが、黒髪の誰もが全く会ったことの無い人だったら?」

「そんなことがあるとは思えんが――その場合、そのときに一番近くに居た黒髪の身に宿るだろうな」

「うわ……そこまでして力を失いたくないってことか……」


 今回、コリーが討伐した変異種の力がレイに宿ったことで――その事実が明らかとなったことで、その答えを話すときが訪れたということだろう。




「――それで、ミュウは何でこの力が私にふさわしいって思ったわけ?」

「あぁ、うん。レイが見る結果は、二十四時間後のそれよりも、途中の、分岐点までの場合が多いでしょ? これまではその分岐点が宿屋とか、安全なところだけを選べたみたいだけど。

 ……ほら、他の人の結果まで配慮するようになったら、そうはいかない場合だってあり得る。もしかすると、その身に危険が及ぶような状況で、次の結果の選択を迫られることもあるかもしれない」

「……そんなときに、姿を消せればゆっくりと結果を予知できる……か。でも、消せるのは日中に限るんだよね。じゃあ、結果の時間帯も考慮して選択するべきか。

 何だか、条件が増えてますます頭使うな、これ。――ほんと、何て私にピッタリの力なんだろう!」


 仕事柄というか、元々持って生まれたモノなのか。

 レイは先を読むことに長けているし、そもそも思考することを好む体質のようだ。

 今もまた、これからの結果を何度も予知しているが、まるでその行為が持って生まれた習性であるかのようにこなしているのだ。



「――明日の正午、あの三人との情報共有を終えてから緑の国に向かうか。でも、それよりも――ミュウとコリーには、先に緑の国に向かってもらいたいんだよね」

「――え? 先に、ってことは、後でレイも合流するんだよね? もしかして、赤の国の三人と一緒に行くってこと?」

「ううん。あの人たちと一緒に行こうとすると、どうしても揉めるっぽいの」

「ドクターのところに行くのは危険だし、ゴロウもゴロウで身の潔白をけがしたくないもんね……」


 でも、それならそれで、その三人と別れた後にわたしたちと行けば良いだけだと思うのだが。

 ゴロウが嘘つきだとわかったところで、ドクターとの対面を急ぐ理由でもあるのだろうか。


 ――そうか……レイは、ドクターがゴロウの思惑を知っていると考えている。

 ゴロウがただの嘘つきなら問題が無いが、もしも嘘つきの悪人だったなら……行動を共にしている思い人にも危険が及ぶ可能性があるのだ。

 最悪の場合、力を持つ黒髪全てに危険が及ぶことだって考えられる――



「おい、レイ。俺たちが先に緑の国に行くのは構わないがよ――いくらお前がオーク超えの女って言っても、それは気の強さだけだからな?」


 気が強いと言われるのは癪なのか、レイはいつもどおりコリーを強く睨んだ。

 あの人の前では、このいつもの流れは無かったのだろうか、と少し気になった。

 でも、きっとレイは思い人の前で終始、お淑やかに振る舞っていたのだろう。

 それはそれで見たかった気がする。


「ねぇ、コリー。城下町に『信用が出来て強くて、ウッホ車を持ってるイケメン』なんて居ない?」


 イケメンであるかどうかは関係無いと思えるが。

 あの人一筋と思いきや、意外とこういう抜け目の無いところも可愛いとさえ思えてしまう。


「あぁ……そりゃ、最適なやつが居るっちゃ居るけど……そいつも暇じゃねぇからな」

「その人、誰? コリーの兄弟? 息子? 弟子? 奥さん?」

「俺はこの二千年、天涯孤独の身だ! 何たって気の優しい女とは無縁でな……おっと、何でも無い」


 レイの睨みのすぐ後に、真面目な表情に変わり応えるコリー。



「そいつは騎士団の、武の団長だ。あれもオーク族でな、『オークの変異種か!?』ってくらいつえぇんだ。名前は『ビエニカ』ってんだが」


 『エビ……?』『カニ……?』

 何度も何度も思っていることだが、色から思い浮かぶ名称が安易過ぎではないだろうか。

 レパートリーも少なそうだから、このビエニカという名前も、おそらく何代目かの使い回しはないかと思われる。

 あと、知の団長の『マダル』も『だるま』だろうし――

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