58話 七つの力
「――出て来る! ミュウ、お願いね。ゴロウは先頭の、七三分けの男だから」
レイの言葉に続き、神の家からは古臭い様相の男が、その身を潜めるように姿を現した。
さらにその男を追うように、同じ歩調の二人も後に続く。
一度も見たことのないゴロウは勿論だが、一か月前にバスでチラ見しただけの二人の姿も、ほぼ初見のように感じてしまう。
だが、重要なのは見た目ではなく、その身に宿る力だけ。
すぐに、わたしの頭に記憶された先頭の男の力を口にした。
「ゴロウの力は……嘘でしょ!? な……七つの力を持っている……?」
「はぁ!? 三つ言うてたやん!」
生まれが関西だというレイは、ふとした折に関西弁が出ることがある。わたしはそっちの方が絶対に可愛いと思うのだが、レイは何故か標準語を使いたがった。
東京育ちの思い人に合わせてのことなのだろうか――
「ねぇ、ミュウ。簡単で良いから教えて。私たち、それ聞いたらすぐに三人を追うから」
「うん。記憶された順番イコール時系列順になってると思うの。まず、一つ目。たぶん、これがオリジナル――」
――一つ目。『封じ込める力』は、ゴロウが言っていたそのとおりのもの。
八十メートルの範囲内のあらゆるモノを、見えない壁の中に閉じ込めることが出来る。
さらに、そのサイズを圧縮することも出来るが、モノを壊すことは出来ない。
この封じ込めには自身の生命力を使用する。これはタコロスと同様で、生命力が不足する場合、寿命が削られるらしい。
そして二つ目は、これもゴロウが言っていた『時を止める力』。
五十メートルの範囲内の時を、五秒間止めることが出来る。
五秒間止めた後は、五秒間のインターバルの後に、また五秒間止めることが可能という、かなり強力なものだ。
続く三つの力は一旦飛ばして――六つ目が『気配を察知する力』で、七つ目が『成りすます力』だった。
「まずは聞いたことがある四つの力、ってことだね。――最後の成りすますやつ、『ドクターが誰かを殺めて手に入れた力』って、ゴロウ自身が言ってたんだよ? それをあいつが持ってるってことは、危険人物で確定じゃない?」
そして、ゴロウの身に宿る三つ目、四つ目、五つ目の力。
それは――
「『同期』『不老』『答えを得る』って力みたい。この『答えを得る』っていう力もドクターが元々持ってた力のことじゃない?」
「しかも、『不老』だってそうだし……何なのあいつ、時を止めて生き存えてるんじゃないの? ――つまり、全部ゴロウの嘘ってことか……えっと、不老はわかるとして、『同期』と『答えを得る』だっけ? もうちょっと詳しく教えてもらえる?」
「うん。これは、どっちも人に触れることが大前提。まず『同期』は、触れたその人と力を相互に共有できるようになる。制約までは同期されない分、かなり限定的にしか力を使えないみたい」
「……例えば……ゴロウが私に触れたら。ゴロウには私の……たぶん、結果予知だけ、だよね? 二十四時間先まで、っていう制約が無くなる代わりに、かなり限定的になる。
ってことは……何だろう、何時何処のものともわからない死の主観映像だけが一瞬見えるとか? ……怖っ!
――そして、私にはゴロウの七つもの力が宿る。不老は魅力的だけど……もしかすると、ヨボヨボになってから不老が始まるのかもね。女性にとっては不要な不老だわ」
かなり便利な力のように思えて、レイが言うように使えない力かもしれない。
わたしの『一日一回死んでも生き返る力』だと、何度でも生き返るけど、もしかすると負った傷が癒えないのかもしれないのだ。
だから、生き返っても致命傷のまま、すぐに息絶える……なんてこともあり得そう。
「――次に『答えを得る』だけど。何らかの質問を抱いてその人に触れれば、その回答が全て得られる。……隠し事が出来ないし、もしかすると本人も知り得ないことだってわかるかもしれない」
「やだ……最新のスリーサイズとかバレちゃう? 経験人数ゼロってことも……あっ、あの人を思ってることも!? ダメダメ、絶対に触れてはいけないやつ!」
いや、今はそんな機密情報よりも心配すべきことがある筈なのだが――こんなときでも余裕を持てる当たりが、やはりオーク超えの女と呼ばれる所以なのだろう。
「たぶん、その人が持っている力もバレると思うの。同期する力だけなら、例え触れたとしても何の力が宿ったかわからないでしょ? でも、ゴロウはそれもわかってしまう」
「……確かに。特にミュウの力なんて、言わなければバレないもんね。あぁ、あとその目で見なければ。私も、未だに信じられないし」
「人に見せるのが躊躇われる、というか見せてはいけない力だよね。わたしの死に様だけど、おじいさんとタコロスにとっては史上最大のトラウマ映像として脳裏に焼き付いたみたいだし」
「あぁ、ダイジェストではモザイクかかってたアレだね? ……そんな酷かったんだ……私も、予知映像で変異種に頭割られたけど……全部見てるタコロスが少しだけど不憫になってきた」
「――おい、のんびり話してる場合じゃねぇだろ? 力がわかったんなら、さっさと追うぞ」
暗く血生臭い女子トークに花を咲かせてしまっていた。
二人で我に返ると、レイがすぐに現状を整理する。
「――結局のところ、ゴロウの力は私たちに危害を加えることは出来ない。だから、要はゴロウに触れられなければ、問題は無いってことだね。よし、じゃあコリー、行くよ!」
「おぉ。――あと、断っておくが。俺だけは黒髪の力で危害を受けるからな?」
「そう言えば、猫神父も変異樹の力で生命力を吸われるって言ってたよね」
「あぁ。俺たちが影響を受けないのは、俺たちに干渉するような力だけだ。とは言え、神を超える力の前には抗えないがな」
「うわ、一気にただの肉の壁と化したね……」
「そう言ってくれるな! これでもまぁまぁ強いから安心しろ。がはは!」
罵るレイと笑うコリーのコンビは、最後にわたしを一瞥すると、仲良く部屋を出て行った。
――二人が部屋に戻ったのは、体感で十五分くらい後のこと。
戻ったレイを見て気になったのは、口元にずっと手を当てていること。でも、その表情はずっとニヤけていること。そして、もう一つ――新たな力を宿していたことだった。
「レイ……もしかして?」
「うん……私、あの人といっぱいお話しちゃった!」
「――うん。ニヤけてるのはそれってことで。じゃあ、口元を押さえてるのは?」
「直接ではないんだけど、視界画面で見ちゃって……ここの変異種ね、超デカいゴキだったの……うえぇ……あぁ、思い出すだけでゲボ吐きそう……」
「がはは! その割に、あいつらの前ではよくも余裕見せてくれてたよな。さすがはレイだぜ!」
「――それで、その変異種を討伐したのって……もしかして、コリー?」
「がはは! あいつら情けねぇ面して突っ立てやがったんだ。相手は姿を消すだけの、ただの虫なのにな。槍刺したら泡吹いて、ひっくり返っておっ死んだぜ?」
「やだ、思い出させないで! ……うぅっ、ぐぅ……あぁ、もう、無理……」
レイは口を押さえたままトイレへと走った。
「大神父でも変異種を討伐出来るんだね……」
「あぁ。逆に、変異種にやられちまう危険性もあるってことだ」
「それでも――大神父たちが不老だけで生き続けていられるのは、よっぽど強いか逃げ足が速いってこと?」
「いや、申し訳ないが……『極力関わりを持ってこなかった』が一番の理由だな。俺が強いのは認めるが、相性次第ではすぐにやられちまう」
「もしもだけど……大神父が死んだら、どうなるの? 変異種みたいに、また新しい大神父が現れたりする?」
「それは、無い……と思う」
「あ、そうだよね。まだ誰も死んだこと無いから、わからないってことだね。――緑の国の大神父、も?」
「悪いが、それはまだ言えない」
何となく、話の流れでお漏らししてくれないかと期待したのだが……よほど神に忠実なのか、強力な制約が働いているらしい。
それでも、『まだ』ということは、近い将来にでも話してくれる可能性があるということだろうか。




