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57話 心配事

 黄の国の城下町レモーヌから、ウッホ車を飛ばして約一日半。

 赤の国、キャブトの町に着くなり、わたしたち三人は『神の家の出入り口』を視認可能な宿屋の一室へと入った。


「変異種が現れる時間と場所が特定出来たところで、本当にうまくいくと思う?」


 わたしの目には何も見えないが、宙に浮かんだ転生者の視界画面を見ながら、レイはコリーに問い掛けていた。


「知の団長を信じろ。あいつはやる男だぜ? もしも失敗したら、レイの思い人たちの責任だな!」

「気配を察知するゴロウ一人の責任でしょ。そっちの結果も気になるけど……ミュウ、お願いね?」

「うん。わたしは、神の家から出て来た人たちの力を見る。透明な変異種の力は見えるかわからないけどね。――ゴロウの力だけは、すぐに伝えるよ」

「――ゴロウが嘘を付いていなければ、三人で合流する。もしも嘘を付いていたら……」

「俺とレイだけが合流する。ミュウはここに居残りだな!」




 ――遡ること一日半。


 変異樹を討伐したその日の午後、わたしたちは大神父たちも交えて今後の話を展開していた。


「これで、青の国と黄の国の変異種が一新されることになったから……まずは、その力を確認しておく?」


 レイが、大神父たちの表情を窺いながら提案した。

 神父はともかく、大神父ならば変異種が現れる位置や力を特定出来るのではないか。

 レイの目からは、そんな期待が込められているように感じ取れた。

 だが、


「すまんな。キィが再三責められたように、俺たちは『不老』と『導く』の二つの力しか持っていない。情報を集めるだけなら、お前らの方がよっぽど優れてるだろ。がはは!」


 全く悪びれる様子を持たず、コリーが豪快に笑う。

 横では、その代わりと言わんばかりに猫と犬が目を伏せて、申し訳の無い様でその尻尾を振っていた。

 申し訳無いが、その姿が可愛く見えて仕方が無い。


「俺から一つ提案があるんだけど、良いか?」

「はい、みなさーん。タコロスから提案があるそうでーす」


 レイが面倒臭そうに、タコロスの口調と顔を真似て、だがちゃんとその言葉を伝えてくれる。


「俺、そんなに口曲がってる? ……あのさ、二手に別れないか?」

「黄と青の二手に……ってこと? でも、変異種の力を見れるのはレイだけだし、別れても危険度が増すだけじゃない?」

「いや、違うんだ……『変異種調査』と『ゴロウ調査』の二手だ」

「は? ゴロウ調査って何よ」

「俺の憶測というか、『もしもこうだったら怖いな』っていう、これはただの心配事だ」

「出ました、タコさんの憶測! ――えぇ、その憶測、聞いて差し上げましょう」


 猫神父は、タコロスの憶測を大層お気に召しているらしい。

 よほどこの世界には娯楽と呼べるモノが無かったのだろう。とか言うわたしも、意外と根拠のあるタコロスの憶測は、聞いていて興味深いと感じるのだが。



「俺の心配事はこうだ。もしもゴロウが嘘つきだったら――」

「なるほど……たしかに、ドクターが危険人物だっていうのは、私の思い人経由でゴロウから聞いただけの話。もしもドクターの言うことが正しくて、ゴロウの言うことが嘘なら――」

「あぁ。ゴロウが危険人物という可能性もあるよな」


 二人とは違い、私とおじいさんはゴロウという人の姿を見たことが無い。

 今のところ、信じる信じないの判断は、タコロスとレイの人を見る目でしか無いのだ。


「私、ゴロウは嘘を言ってないと思う。――まぁ、肉眼で見たわけじゃないし、神父たちみたいに重要なことを言っていないだけ、そんな可能性はあるかもだけど」

「あぁ。俺も、嘘を言ってないと信じたい。だから、これは赤の国の三人との合流を目的とした、ただの確認作業だ。――ミュウ、赤の国に行ってくれないか?」


「……ミュウ、ゴロウの力を確認するために、私と一緒に赤の国に行ってくれる? ――ってことで良いんだよね?」

「あぁ。俺なんかが行っても会話すら出来ないし、何の役にも立たないからな」

「そうだね。あのヤンチャ少年をイライラさせて終わるだろうね。じゃあコリー、私たちを赤の国に連れてってくれる?」

「おぉ、やっとおれの家に帰れるな! ウッホ車を飛ばせば一日半もありゃ着くだろうぜ」

「――ちょ、ちょっと待った!」



 話が先に進む中で、わたしはついつい大きな声をあげてしまった。

 どうしても確認しなければいけない問題が浮上したのだ。


「あ――ごめん。ミュウの意思を確認してなかったね」

「ううん、赤の国に行くのは大賛成。この世界に存在する力の詳細を確認するのは重要なことだから。それは良いとして――コリー、神父のくせに何でウッホ車に乗れるわけ!?」

「え、そこ? なに、神父とウッホ車に何の関係があるわけ?」


 わたしは、首を傾げるレイに説明をした。

 青の国からここ黄の国に徒歩で来ることになったのも、『神父はウッホを含む生き物を酷使しない』という理由からだったのだ。

 それを、何故にコリーだけウッホ車を操るというのだろうか?


「そういや、あんたとはずっとウッホ旅だったよね……」

「おぉ。俺はウッホと意思の疎通が図れるからな! 中には『荷車引くの楽しいワン!』って言ってくれるウッホだって居るんだぜ?」

「ワン? まぁ、それなら良いけど……大神父にウッホの選別をしてもらって、全国の神の家に配備してもらっても良い?」

「全くですね……」

「俺も賛成……」


 辛い思いをして一緒に歩いたおじいさん、そしてタコロスも、わたしの案に賛同して大きく頷いてくれたのだった。



「――じゃあ、善は急げってことで、この後すぐにでも出発しようか。タコロス、私が見る用に画面つくってね。私のも含めて七つ」

「あぁ。くれぐれも気を付けてくれよな。じゃあ、じいさん――俺たちも早速、変異種調査を始めるか」

「そうですね。とは言え、何をどう調査すれば良いのやら」

「そこは、俺の力をフル活用してみようと思う。オネショでも城下町ここでも、意識して多くの住人を見てきたからな」

「あぁ、なるほど。その人たちの視界を借りて情報を得るということですね! 住人の方々が変異種と直接出会わなくても、その噂話を耳にする方もいることでしょう。さすがコタロウさんです」

「さすがに何百って画面をチェックするのは無理だけど、音声から『変異種』ってキーワードにだけ反応するよう設定することは可能だ。だから――俺とじいさんは出来るだけ多くの人を見ながら、青の国の城下町に向かおうと思う」


「にゃーん! ――では、わたくしとはここでお別れと言うことですね?」

「あぁ。世話になったな……いや、訂正だ。全然世話になってなかった! 今後は犬神父と行動を共にするよ」

「ワン! ――えぇえぇ。男だらけの旅になってしまいますが、仕方がありませんね」


 今後の、というか今これからの方向性が定まったところで、レイがその目を閉じ、結果の予知を始めた。




「うん……今日の夜、何処かの町の宿……ベッドで眠る私とミュウの姿が見えた。――私、気付いたんだけど」

「やっぱり私、寝顔も可愛いよね! ってか?」

「それはずっと前から気付いてた。――そうじゃなくて、予知映像でも、タコロスと共有する視界画面が見えるみたい」

「あぁ、確かに……第三者目線とは言え、レイの目線だからそれも見えるってことか」

「うん。おじいさんの視界で、タコロスと犬が楽しそうに言い争ってる姿が見えたから、そっちも何事も無いことがわかったね」

「犬!? ――私のことは『カイン』とお呼び下さい」

「カイン? コリーもそうだけど、国の色そのまんまなのはキィだけなんだね」

「そんまんまなどと言わないで下さい! ――私はキィという名前を気に入っているのですから。可愛いし、わかりやすくて良いでしょう? ね? それに、タコさんとカインの言い争い――ふふっ。私が恋しくて堪らないのでしょう!」


「まぁ、そんなのはどうでも良いけど。――わかったのは、視界画面を使えば私自身の結果だけじゃなくて、他の人の安否も確認できるってこと」

「確かに、そうだな。でも、目を閉じてるときも画面は黒いから、見分けが付かない場合もあるぞ?」

「それって、リタイアと睡眠の見分けってことでしょ? なら、リタイアの画面を他の色に変えるとか、印を付けるとかすれば良いだけじゃない?」

「あぁ、なるほどな。それなら――レイが大変だろうけど、他の人のバッドエンドを回避できる可能性もあるってことか。それ、すげぇな!」

「うん、さすが私ってことで。じゃあ、ここで問題になるのは――爆弾マークかドクロマーク、どっちが良いと思う?」

「ねぇ、もっと可愛いマークでも良いんじゃない?」



 結局、リタイアした人の画面には、リタイアしてからの経過時間を表示することに決まった。

 反発少女の画面には、三十四日と二十時間十五分と表示されたのだという。


 それは即ち、わたしたちがこの世界に来てからは、既に三十五日もの日数が経過したことを表していた――

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