56話 力の数
「これは……すごい、力だ。僕を除いて、この世界には力を持った存在が全部で『十三』いるみたいだな」
「十三……それは、外の世界の変異種も除く数ですね」
「だろうな。外との行き来を隔てる見えない壁は、あらゆる力をも遮蔽するんだ」
レイとゴロウの会話を聞きつつ、その力を各国ごとに数えてみる。
「ここ、赤の国に四つ。青の国に二つ、黄の国に五つ、そして緑の国には二つ」
「バスの乗ってた俺たちが六人、変異種が四体、ゴロウとドクターの二人。それで、合計が……」
ロキは両手を使い、『六+四+二』の計算を始めた。
少し時間をかけるロキを、レイは哀れみを込めた目で見つめている。
「……十二、だよな? じゃあ、他の一人だけが生き残りってことか?」
「――整理してみよう。まず、赤の国には四つ。これは僕を除く三人と、ゴキに代わる新しい変異種が一体ってことだな。
あと、黄の国にも五つって――一緒にやって来た誰かか、あるいは生き残りか、わからないけど、変異種の他に四人居ることになるな。そうか――黄の国は一番穏やかで住みやすいって聞くから、人が集まりやすいのかもな。
青の国には一人と変異種、そして緑の国も――ドクターとインプだけってことか」
「――緑の国には、本当に二つだけなの?」
レイは何故か、緑の国の数が気になったようだ。
――そうか、ゴロウとドクターの話をしたときに、インプのことも話したからに違いない。
「インプは三体だから、緑の国には力が四つ無いとおかしい。そう思ったんだね? でも、どうやらインプは三体で一つの力ってことみたいだ」
「あ――うん。そっかそっか……そうなんだぁ……」
レイは納得したようで、だが少しだけだが、未だ何かを考える表情を見せていた。
「その数からも、それは力の数ではなくて、力を持つ者の数であることが確定した。もしもゴロウの三つの力をカウントするなら、赤の国には七つ無いとおかしいからね」
「そうだな。所在がわかったところで、色々とやるべきことが出来たが――それよりもまず、ユキを復活させてくれないか? 新しい力を与えることだって出来たんだ。きっと、復活だって……」
ゴロウはレイを見つめて距離を詰め、またもお願いを始めた。
肩を掴みそうな勢いで近づくが、レイは軽やかにそれを躱し、後ろに下がると距離を取った。
「――ごめんなさい。私の力、一日に一人までなんです。だから、明日、必ず叶えてみせます!」
「あぁ、俺のせいだ……ゴロウ、悪かったな。俺が姉ちゃんの力を確かめたいなんて言ったからだな」
「いや……おかげで、この姉ちゃんの力がすごいことがわかったし、シンジもすごい力を手に入れることが出来たんだ。――くくっ、どうせ二百年も待ったんだしな、一日遅れたところで何も変わりゃしねえよ!」
少し寂しい表情で、ゴロウは自分で自分を納得させていた。
その後――一通りの話を終えると、
「今日は、ありがとうございました。貴重な情報をたくさん得ることが出来ました。それに……この世界に、私が願う存在が現れたのです。まさしく私の思い人、ですね!」
「お、思い人!?」
――とは言え、『思い通りに力を得てくれた人』の略だろう。
それでも、レイに認識される存在になることが出来て、僕は感無量の思いを噛みしめていたのだった。
「姉ちゃん、これから一緒に行動してくれるのか?」
今後の話を、まさかロキが始めるとは想定外だった。
話を終えようとするレイに、ロキが問い掛けたのだ。
「……私は、私が願い得たこの力は、この世界を平和にするためのものだと思っています。もちろん、この世界を終わらせるのに役立つこともあるかもしれません。
でも――やっぱり、この世界の住人のみなさんと直接触れ合って、話を聞いて、その願いを聞いて、一人でも多くの人を幸せにしてあげたい! だから――みなさんの世界攻略を応援しつつ、コリーと旅を続けたいと思います」
「おぉ、女神よ……じゃなくて、それは素晴らしい考えだと思う。僕たちも、レイさんが居るだけで何よりも心強い! 君は――僕にとっても思い人だ!」
「俺の思い人は別に居るけど――あぁ、無いと思うけど、何かお願い事が見つかったら姉ちゃんを頼らせてくれ!」
「別行動なのはわかったけど――明日、くれぐれも頼むぞ?」
ゴロウがしつこくも最終確認をすると、その場は散会となったのだった。
また一つ願いを叶えられたからか、あるいは同じ境遇の僕たちと情報の共有が出来たことがよほど嬉しかったのか。
最後に見せたその笑顔は、本当の女神のように輝いて見えたのだった。
――神の家から男三人が立ち去るのを見届けると、私はすぐに奥の部屋へと続く扉を抜けた。
「おぉ、終わったか?」
ダイニングで腰掛けて待っていたのは、身長が二メートルを優に超える、強面のオーク族だった。
「うん。予定どおり、これから緑の国に向かってくれる?」
「あぁ。何たって我らがコリーの頼みだからな。――言っとくが、俺はお前の従順なペットじゃないからな? お前の頼みじゃなくて、コリーの頼みを聞くんだからな?」
「わかってる……ます。私の護衛をお願いいたしますわ、頼もしい騎士様!」
『ふふんっ!』と胸を張り歩く武の団長のチョロい背中に続き、私は騎士団のウッホ車で、緑の国の城下町へと向かったのだった。
「――お前、すごいよな。予知したのはオークと一緒に神の家を出る結果だけだったのに……目的を全部達成するなんてな」
「ふっ! 至極当然のことですわ!」
「それに、よく堪えたよな……」
「それも当然のこと。だって、もしもあいつに触られたのなら、バッドエンドが見えてた筈でしょう? あの結果になるべくしてなった。ただそれだけのこと」
「あぁ、そっちじゃなくて……」
あのイケメンと会話をするたびに、レイはその顔がにやけるのを我慢していた。
それは、イケメンとヤンチャ少年の視界で一目瞭然だった。
中でも『君の願いを叶えたい!』みたいなことを言われたときには、おそらく『きゃーっ!』と絶叫するのを何とか我慢したのだろう。
それを『き』だけで堪えたのはすごいことなのだ。
「はぁ……あの人に『レイちゃん』って呼ばれたかったな。ちっ、あのガキ共が『姉ちゃん』って呼ぶせいだ! ――取り敢えず、至福の時だった。あの人と行動を共にしたかったし、ヤンチャ少年を飼い慣らしたかったけど――さすがにゴロウとセットじゃまずいもんね」
「あぁ。あいつ、根本的には大神父と一緒みたいだな。今日は、嘘は言ってなかったけど、全てを言っていないってやつだ」
「うん。何が三つの力だよ……七つだろって!」
「ドクターの最愛の人を復活させたいってのは……実際のところどうなんだろうな?」
「うーん……肉眼でも、あいつの土下座には本当の思いが込められてたように見えたけど?」
「それは、また後で考えるか。――ところで、イケメンに教えてもらった力の数だけど。緑の国に『二つ』って聞いたときの反応、危なかったんじゃないか?」
「そう! ミュウも城下町に到着したみたいだから、その数は三つの筈なのに……これ、どういうことだろう? あの人が数え間違える筈が無いもんね」
「――俺の憶測のコーナー! に移行しても良いか?」
「にゃーん! 待ってました!」
俺は、目の前に浮かぶレイの視界画面に向かって独り言をしていた。
まさか、レイと視界画面を共有することで、遠隔での会話が出来るとは思ってもいなかった。
隣では、猫神父がじいさんにそっくりそのままを伝えてくれていて、その猫神父が急に大きな声を上げて反応したのだ。
「うん。――ていうか、まだ確定ではないけど、今回の憶測もほとんど合ってるかもね。おかげですぐに次の行動に移せたし。――で? 今回の憶測は緑の国の、力の数のこと?」
「あぁ。これはただの面白おかしい憶測だと思って聞いてくれ。どうせウッホ車の旅は半日以上かかるんだから、良い退屈しのぎにはなるだろ。
――これから話す憶測は、『ドクター大神父説』だ。これ、面白そうだろ?」




