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54話 姉ちゃん

 口を半開きにして首を傾げる僕たちに、彼女は『童話』の内容を教えてくれた。

 どうやらそれは、この世界の成り立ち、そして神の願いを記したものらしい。

 ただ、その内容はひどく抽象的で、ドクターとゴロウの説明を聞いていなければ、見る人によっては何のことかわからない可能性が高いだろう。


「ところで――童話の内容だけど、僕たちに話しても良いものだった? 神父さんの許可が必要なんじゃ……」

「大丈夫です。『話すな』とは言われていませんので。言われても聞きませんが。――それに、この世界で最も重要なのは情報でしょう?」

「確かに――れいさ……澪川みおかわさんの言うとおりだ」


 ついつい下の名前で呼んでしまいそうになり、すぐに名字で呼び直したのだが――彼女の眉毛がピクピクと動いているところを見ると、地雷を踏んだが不発弾で助かったような状況だろうか。


「――この世界では名字など不要です。ねえちゃんと呼ばれるのは何だか嫌なので、レイと呼んで下さい」

「――わかった。じゃあ、レイちゃん……いや、レイさん」


 年下ということもあり『レイちゃん』と呼んでみると、図らずも『姉ちゃん』に近かったのか、彼女は眉毛を微かに動かした。

 ここは『レイさん』が正解なのだろう。



「――貴重な情報を話してくれたし、次は僕たちから……」


 僕は、ゴロウに知っていることの共有を求めようとした。

 だが――


「なぁ、ねえちゃんよ」


 つい今し方その呼び方が嫌だと言われたはずなのに……何故こいつらは姉ちゃんと呼びたがるのだろうか。

 自らチンピラだと宣言しているようなものではないか。


「あんたが知ってるのは童話の内容だけなのか? それに……あんたが持ってる力は何だ? この世界で情報が大事なのはわかるが、力だって同じくらいに重要なのは知ってるだろ?」

「おい、ゴロウ、一気に質問しすぎだ。それをこれから皆で共有するんだろう? それに、レイさんにばかり情報を出させるのはおかしいだろ」

「あぁ、そうだな……すまなかった。――いやぁ、久しぶりに黒髪の女性を見たんでな! しかも、美人だし……ついつい逸っちまったよ。そうだな、じゃあ、まずは俺たちの力から話すとするか!」


 小さく頷く彼女に、ロキ、僕、ゴロウの順に自身の力を説明することにした。



「まずは俺だな! よく見とけ、姉ちゃん!」

「おい、ロキ、お前やめ……」


 僕の制止など聞かず、ロキはそっと、彼女に向けて右ジャブを放った。

 その手からは扇風機で言うところの『弱』くらいの微風が発生し、彼女の綺麗な赤紫色の髪をなびかせた。


「すっげぇだろ? 本気出せば、こんな家も一発で崩壊するぜ!」


 そんな危険な力を、いくら手加減したとは言え女性に向けるとは……あからさまに目が据わっている彼女は、


「――ねぇ、その右手と胴体をロープで縛って、海に沈めても良い?」


 と、言葉と眼力と威圧感でロキの精神にダメージを与えた。


「縛るのは良いとして……海に沈めるって怖すぎだろ!」


 縛るのは良いのか……足は縛らないであげるところに、レイのさりげない優しさを感じる。



「……わ、悪かったよ。でもな、この世界じゃあ黒髪の力は黒髪にだけは危害を加えられねぇんだ。だから、姉ちゃんには気持ち良いそよ風しか浴びせらんねぇはずだぜ?」

「へぇ……でもね、私、そんなこと知らなかったの。だから、怖かったんでしょうが! はい、次!」


 彼女はピシャリとロキとの会話を終えると、威圧的な眼力のままで僕に目線を移した。

 おそらく、まずはバスの同乗者から話を聞こうというのだろう。


「僕は――一日に十人までに限るけど、僕の言うとおりに行動させることが出来る」

「何でも命令できるってこと? 良い意味カリスマ的な力だけど――怖っ!」

「ぎゃはは! そうだよなぁ。服を脱げって命令したら、言われたとおり裸になっちまうんだぜ?」

「おい、例えが悪すぎるぞ!? お前、ほんとにデリカシー無いよな……」


 レイは、自身の両腕を抱くと、僕から一歩、距離を置いた。


「あぁ、安心して欲しい。僕の力は完全に、黒髪には影響しないから」


 下げた一歩を元の位置に戻すと、彼女は次にゴロウに目をやった。




 これまでよりも、そこには明らかに猜疑心のようなものが含まれているのを感じた。

 それは当然のことで、ゴロウは一緒にこの世界にやって来た人間ではない。

 ということは、五十年前にやって来た人間だと考えるのが普通だが――ゴロウの見た目は、どう見ても僕と同い年くらいで、二十代後半にしか見えないのだ。


「俺は、二百年前にこの世界にやって来た七人の内の一人だ。ゴロウと呼んでくれ」

「……はぁ? に、二百年前!?」

「ぎゃはは! そりゃ驚くよな! 俺も未だに信じらんねぇけどな、封じ込める力と時を止める力を使って生きながらえてるんだってよ!」

「おいロキ、俺の力ほとんど言っちまいやがって! ――俺は、今言った二つの力と、あとは気配を察知する力を持っている。あぁ、最初に持ってたのは封じ込める力だ」

「……最初、に? それってどういう意味? 他の二つはどうやって手に入れたの?」

「――ん? お前、まさか知らないのか? 変異種を討伐すると、その力を得ることが出来るんだ」


 童話には書かれていない情報だし、この世界の住人と一緒にいるだけでは得られないことだろう。

 それこそ、彼女が変異種を討伐して、その身に宿るのを実感することでしか知りようが無かった筈だ。



「変異種って、昨日みんながゲボしたっていう生き物ですよね?」

「ゲボのことは忘れてくれ! ――そう言えば、気になったんだが……」

「あぁ、シンジ。あの変異種ゴキの力がどこに行ったか、だろ? それは俺も気になってたが……なぁ、姉ちゃん。もしかすると、あんたに宿ったんじゃないか?」

「……どういうことです? 私、その変異種ってやつを見てすらいませんけど?」

「ゴロウ、確か――黒髪以外が変異種を討伐した場合、その力はその討伐に最も起因した黒髪に宿るって言ってたよな? ……昨日の場合は、何も知らない彼女に宿ることは無いんじゃないか?」


「……でも、俺たち三人には宿っていない。何も知らないにせよ、討伐したオークと行動を共にしている時点で、最も関わっている黒髪だと判定されたのかもしれないな」

「すっげぇな! 姉ちゃん、あのゴキになれるってことか!」

「は? ゴキになる力ってこと? そうか――グロい見た目になって、みんなにゲボを吐かせる力ってこと?」

「違う! おいロキ、お前はデリカシーと説明が絶対的に欠けてる。レイさん、昨日のゴキ……変異種は、透明になる力を持っていたんだ。あと、触れた者も透明に出来るらしい」

「へぇ……それ、すごくない?」

「あぁ。でも――使い方がわからないんじゃ仕方無いな。ドクターに聞けば答えを得てくれるんだが……」


 それもそうだが、ドクターが危険な存在である以上、レイを近付かせるわけにはいかない。

 力を知る力でもあれば良いのだが……




「――力のことは、いずれ知るだろう。それで、あんたの力は何なんだ?」

「えぇ……実は私、人の願いを叶えることが出来るんです」

「マジか! すっげぇじゃんかよ!」


 おぉ、まさに女神……自身の願いではなく、人の願いを叶える力を願い得たということか。

 そうか――生まれながらにあらゆる面で人よりも優れている彼女は、これ以上自身が望むものは無い。

 他の人への施しを与えてやろうとでも願ったのだろう。


「確かに……すげぇな。例えば、どんな願いが叶うんだ?」

「うん。神父さんの頻尿が治ったり、涸れた井戸が湧いたり――病気で亡くなった奥さんが生き返ったり――」

「うっわ! ……そんなのありかよ!?」

「じゃ、じゃあ……君は童話を読んで、神の願いを知っただろ? それで――」

「えぇ。私、女神さまが生き返ることを強く願いました。でもそれは――神さまの願いは叶いませんでした。おそらく、叶う願いには限度があるのでしょう。

 ――叶う願いは一人につき一つまで。そして、一日に一人までという制約があるようです。加えて、叶う願いの大きさにも制約がある――」


 数に制限がある代わりに、それでも、思ったよりも質の高い願いを叶えることが出来るようだ。

 ――女神は無理でも、この世界の住人を生き返らせることは出来る。もしかすると、黒髪の僕たちの命でも……ん?


「おい、ゴロウ!」

「あぁ、皆まで言うな。ユキも生き返るかもな!」

「――何の話ですか? どなたか、復活を望まれる方でもいるのですか?」

「そうなんだ。実は……」


 ゴロウの目に確認を取った上で、僕はゴロウから聞いたこと全てをレイに話した。

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