51話 討伐する手立て
――赤の国、キャブトの町。
二週間前に四人目の行方不明者が出て以降、昨日までのこの二週間でも、三人もの子供が行方をくらましていた。
「――くそ、これで七人かよ! あぁ、イライラすんなぁ。姿見せて、正々堂々誘拐しろってんだ!」
「正々堂々の犯罪を認めてくれるな。ところで、今の『風』はちょっと強かったぞ? 集中してくれないと俺が吹っ飛んじまう」
イライラが既に五回は爆発しているロキ少年。
すっかりそんなロキの扱いにも慣れた様子のゴロウ。
そんな二人を余所に、礼拝堂に集められた町中の子供三十二人は、誰もが『すごーい!』と目を輝かせて歓声を上げていた。
――昨日の正午頃、またも子供が忽然とその姿を消した。
変異種が討伐されてから起こり始めたこの誘拐事件は、当然だが、新しい変異種によるものと噂されていた。
いずれも日中、しかも親がすぐ近くにいる状況での犯行だった。
『息子が目の前で急に姿を消した』という証言もあり、町中で『新しい変異種は透明人間だ』という噂と共に、日中は子供を外に出さないような対策が講じられることになった。
今回は、それでも起きた事件だったのだ。
これまでの七回にも及ぶ犯行と証言から、知の団長マダルは変異種の力に当たりをつけ、討伐する手立てを考えたのだという。
「どうやらこの変異種――一週間に二人、しかも連日の犯行と決まっているようだな。時間は正午、太陽がちょうど真上に登った時だ」
「……五日間の間隔を開けて、連日の正午に子供を攫う。そんな、規則的すぎる習性を持っているとでも?」
「緑の国の変異種、インプの生体を聞いたことがあるか? ――とある森に住む三匹の、紫色をした恐ろしい様相の生き物だという。
二週間に一度、正午に食事を取ると、直後に一時間程度の睡眠を取るようだ。不老不死の研究のため、緑の国ではそいつが寝ているときに捕獲して、その命を奪ってきたようなのだが――息を引き取った直後、その森に復活して、また同じことを繰り返すようだ。そして、それが百年以上も繰り返されている」
「なんだそいつ――最強じゃね!? でも、百年も同じこと繰り返してるって、最弱じゃね!?」
何やら興奮しているロキの横で、ゴロウは冷静な表情で僕の方をチラ見していた。
ロキとマダルにはまだ話をしていないが、インプのことは誰よりもよく知っているという自負がある。
この世界に来て初めて会話をしたのがインプだったし、狩り、食事、昼寝から捕捉されるまでの一連の流れを、すぐ横で観察していたのだ。
あとは息を引き取るところ、復活するところを観察出来れば完璧なのだが――ドクターという危険人物にその身柄が拘束された今、それを見ることは叶わなそうだ。
「団長さんの言うとおりならよぉ、二日連続で誘拐するってことだろ? じゃあ、明日の正午にまた子供が攫われるってことか?」
「あぁ、間違い無いだろう。明日の正午前に、町中の子供を神の家の礼拝堂に集める。そこに変異種をおびき寄せるつもりだ」
「――変異種は、透明なのでしょう。おそらく、触れた子供を透明にすることも出来る筈。どのように討伐するおつもりですか?」
マダルは、その算段を持っているのだろう。とは言え、変異種の姿はおろか、力もまだ推測の段階なのだが。
「シンジの言うとおり、変異種自身の姿を見えなくするような力を持っているのだろう。そして、触れた相手の姿も消すことができる。さらには――おそらくだが、声や音も消すことが出来るのだろうな」
「――確かに、『忽然と姿を消した』に加えて『何の物音もしなかった』という証言もありますからね。いきなり何者かに捕まえられて、声も出さない子供が居るわけが無いですし」
「見えないし、物音も立てない透明人間!? そんなやつ、討伐できねぇじゃん!」
ロキの言うこともわかる。だが、おそらくその力は万能では無い筈だ。
これまでに僕とロキ、ゴロウの力を共有し合ったが、いずれも何かしらの制約があるのだ。
僕の力は、相手に言葉をかけることで、どんなことにも従わせることが出来る、良い意味でカリスマ的なやつだ。
でも、一日に従わせることが出来るのが十人まで、という制約があることがわかっている。
ロキは、衝撃波を発生させるほどのものすごい右拳を持った。
でもそれは右拳のみで、『右だけ強けりゃ良いってもんじゃねぇ。すっげぇバランスが悪ぃんだよな……』と言うくらい、本人にしかわからないような、だが制約と呼べるものを持っている。
そして、ゴロウの力。『何でも封じ込める』という力を持ってこの世界にやって来たという。
その後、変異種を討伐することで『気配を察知する』『時間を止める』という力も得ている。
ただ、いずれも距離制限や時間制限等の制約があるのだ。
おそらくだが、今回の変異種も『透明になれる時間に限りがある』『透明になるための何らかの代償が大きい』などの制約があるに違いない。
「わたしの考えだが、おそらくそいつは、犯行に及ぶ数分間しかその姿を消せないのではないだろうか。しかも、子供に触れることが出来ている以上、そいつに触れないことは無いのだろう」
「……触れるってことは、ぶん殴れるってことだな! よっしゃ!」
息巻くロキだが、触れるとわかったからといって、最大の問題である『見えない』は解決出来ていない。
「子供に鈴を付けても、あるいは出入り口に音の鳴る何かを取り付けたとしても、その音すら消えてしまう可能性が高いだろうな。――マダルさんよ、考えがあるんだろ?」
「ふふっ。ゴロウには、わたしの考えがわかっているんじゃないか?」
「――まぁ、さっきから俺を見て何か言いたそうだしな。シンジも、まさか他言してないだろうし……あんた、本当に何の力も持ってないのか?」
マダルは、人を見る目がずば抜けて優れていた。
その人となりを知るのもそうだが、僕の力も初見で見抜いていたというのだ。
とは言え、力に抗うことは出来ず、ホイホイと即日に僕たち二人を調査隊に入れてしまい、その力の恐ろしさを痛感したのだというが。
そうか――マダルは、ゴロウの力も見抜いていたということか。
「気配を察知する力も持っているんだろう? ――頼む。わたしに力を貸して欲しい」
「察知する力『も』……か。もしも俺が断ったら――いや、断ることも無いことを確信してるんだろうな。全く、恐ろしい男だぜ」
「恩に着る。じゃあ、明日の計画だが――」
――そして迎えた今日。マダルは騎士団長の名を使い、『安全に楽しく遊びましょう!』と、町中の子供を礼拝堂に集めた。
間もなく正午という今、子供たちは『十メートル離れたろうそくの火をパンチの衝撃波で消す』というロキの一発芸に歓声を上げていたのだった。
予定どおり、子供たちは横一列に整列して芸を鑑賞している。
起立したままの全員の足下には、小さい円が二つずつ描かれており、全員が両足でそれを踏んでいた。
開け放たれている出入り口を見るが、何の気配を感じることも出来ない。
だが――
「……何か、入って来た。俺には『居るか居ないか』しかわからないからな?」
その姿形、大きさを察知することは出来ないというが、今大事なのは、礼拝堂の中に居るという事実だった。
何も知らない子供たちには申し訳ないが、僕たちが行動を取るのは、子供の姿が一つ消えてからだった。
変異種にも子供の選りすぐりがあるのか。
出入り口から数えて六番目の子供の姿が忽然と消えた。
足下には、二つの小さな円がその姿を現していた。
「――はい、今度はこっちを見て下さい! みんな、次は……紙芝居ですよ!」
その瞬間、マダルが子供たちに声を掛けると、視線と興味を自身へと注がせた。
おかげで、子供たちは友達が一人消えたことには気付いていないようだ。
「……よし、俺たちは追うぞ」
礼拝堂から出るゴロウの後を、僕とロキも追った。




