50話 私の裸
「私、今からタコロスがこれまで見てきた物語の、ダイジェスト版を見せてもらうね。出来るだけ口にして、二人にもわかるように伝えるから」
俺は、レイ専用に大きめの一画面をつくると、これまでのダイジェスト版を再生した。
「あ――私の視界が最初なんだね」
「あぁ。記念すべき第一声を発したのがレイだったからな」
「うわ――私の予知映像も見れるの? ……あぁ、これが変異種のインプってやつだったんだね? 紫色で小さくて、三体で行動してるやつ。私、あっちに進むと森に入っちゃってたんだね。
――で、これはドクターの研究施設ってことか。たぶん誰かに捕まって、しかも殺されてここに連れて来られたのか。
――裸で液体に入れられて何を研究……って、あんた、私の裸見たでしょ!?」
「――あぁ、そういや裸だったな。でも、遠目だったし液体のせいでよく見えないし、何より死体だしな。あと、凹凸も少ないからあんまり……あ」
レイの右ストレートが俺の左こめかみをかすめた。
直撃させることは無く、ただ俺の心に大きな恐怖を植え付けるという高等技術だった。
「俺、心の傷は自己再生できないから気を付けてくれよな……」
――今日の、俺と猫神父との会話までの映像を、やや倍速で見終えたレイ。
ミュウとじいさんも、レイの解説で何となくだがわかってくれたようだった。
「それにしても――猫ちゃんに話したあんたの憶測、なかなか面白いよね」
「ですね。我々の力を生命力に変換させて、女神を復活させる……おぉ、何だかそれも正解のような気がしますね!」
「でもさ、結局はわたしたち、神の願いを叶えるためだけの存在ってことだよね。現世には帰れない可能性が高いのかな」
「――言えるのは、神には俺たちを現世に返す力が無いっぽいこと。でも、この世界にやって来る人、あるいは変異種は、そんな力を持っている可能性があるということ」
俺の言葉を、レイがオウムのように復唱してくれている。
面倒臭そうな顔をしているが、俺の話す内容を面白がってもいるようなのが救いだった。
「俺たちが目指すのは、神の願いを叶えること。だけど同時に――というかそれよりも、現世に帰る力を得るか、見つけることだ!」
「じゃあ――結局はどっちも、この世界に出現する変異種をせっせと討伐するしか無いよね? まさか人の命を奪えないし。
ミュウちゃんに変異種の力を知ってもらって、タコロスを突撃させる……それか、タコロスを世界の外に放り出す……その二択か……」
「どんな二択だよ!? いや、確かに、一キロ圏内に俺と変異種しかいなければ、俺を傷つける変異種の生命力を奪って息絶えさせることは出来るかもだけど――俺、痛い思いするのは嫌だなぁ……」
「わたしはタコロスの気持ちわかるよ? 死んでも生き返るけど、死ぬ時って、そう言えばかなり痛いし苦しいんだよね……」
いや、想像したくないし、あなたの死んだ時のことを思い出させないでもらえます?
「うん。タコロス兵器は二番目くらいの手段として。今の私たちにとって一番重要なのは、反発するあの子を生き返らせることかな?」
「そうですね。使い方次第ではまさに無敵と言えるでしょう。誰も、痛い思いをしないで済みますし」
「問題は、生き返らせるタイミングというか、場所というか……」
「うん。あの子の視界から推測するに――見えない壁を切り取って外の世界に立ち入って、三分くらい歩いてるみたい。たぶん、三百メートルくらいかな?」
「ワタシが願って生き返ったとしても、こっち側に誘導しないといけませんからね。三百メートルなら、ギリギリ姿が見えるかもしれませんが」
「でもあの子が居たところって、起伏があるっぽいんだよね。最悪、こっちからもあっちからも姿が見えないかも」
「じゃあ……我々も壁を通り抜ける手段を手に入れて、誰かがあの子が息絶えた場所に居る必要がありますね。
そして、生き返ったら女の子に事情を説明して、内側に連れて帰ってくる」
「少なくとも、タコロスには不可能、と……」
「そりゃそうだ。生き返ってすぐにこんな不審な男なんて見たら、舌打ちしてもっと奥に――って、おい! 規則正しい生活のおかげで、かなりまともな見た目になっただろ?」
「あぁ――そうなんだよね。私、初見はまるで白豚不審者だと思ったのに、昨日見た時にはただの不審者になってて驚いたんだよ……」
「うんうん、わたしも。まぁ、たしかに神の家で生活してればそうなるよね。でも不審な部分が清められてないのは謎だし残念すぎるけど」
「いや、それはお前らの見る目が原因だろ? ――ときに、レイよ」
「うん?」
「お前は何というか……バスで見たときと比べると、若干だが……」
「――!! み、皆まで言わないで! 私は黄の国に来て、美味しいものいっぱい食べて……しかも外は危ないって言うコリーの言葉に甘えてほとんど運動もしてないから……」
「ふっふ! 女性は少しふくよかな方が健康的で素敵ですよ!」
さすがはじいさんだ。
最強のフォローが炸裂し、俺の失言がその場を荒らすこと無く、穏やかに収まった。
「じゃあ、タコロスの代わりに私が現状を整理します。まず、私たちが持っている力のこと。
私は、自身の行動の結果を見ることが出来る。制約としては、二十四時間後までに限ること、そして、自身の行動の結果に限ること。
見ることが出来る結果は、二十四時間後か、大きな分岐点まで」
「はい、次はわたし。わたしは、一日に一回死んでも生き返る。わたしを殺した人に、不幸を与える。そして、この世界の黒髪を除く全ての男性の姿が、忌々しいあいつの姿に見えてしまう」
「ワタシは、人の願いを叶えることが出来ます。一人につき一つまで。そして一日に一人まで。あと、叶える願いの大きさには上限があるようですね」
「俺は――」
「うん。タコロスは、私たち転生者の視界を借りて、その人の人生を覗くことが出来る。あくまでも主観映像で、声や音も聞けるけど、考えていること、感覚、感情まではわからない。
そしてその視界は、タコロスが肉眼で捉えた異世界人のものも借りることが出来る。だけど――この世界に干渉出来ないという大きな制約がある。あと、大神父の視界を見れないのも意外だったね」
「まぁ、それはそうだよね。だって、誰かを世界の始まりに導くのも見れちゃうもんね」
未だに『覗く』と表現するのはちょっとアレだが。
少なくとも、そこには一切の悪意が込められていない気がする。
俺が言われ慣れてしまっただけかもしれないが。
「あと、ここに居ない人たち。リタイアしちゃった女の子は、相手の発する全てを跳ね返すことが出来る。最強無敵のように思えて、でもそれは反発する相手に限る。可愛い変異種に気を許しちゃったせいで、やられてしまった。
目つきの悪い少年は、超物理型。願い得たのは、ものすごい右拳。ちょっと振れば衝撃波が出るくらいだから、拳が直撃したら大変なことになるよね。これって、見えない壁を殴ったらどうなると思う?」
「たぶんだけど、壊せないんじゃない? 触れることは出来る癖に、でもそれは実体を持たない何かだと思うの」
「そうだね……少年の力の制約は、あまり頭がよろしくない、ってところかな?」
いや、それは力の制約じゃないよね? ほんとこの子、言葉の破壊力がすごい。
「そして最後……」
「レイちゃんの思い人だね!」
「――ったく、タコロスが猫ちゃんに変なこと言ったせいだからね?」
「まぁまぁ、良いではないですか。確かにそう言われてみれば、お二人ともテレビに出るほどの有名人ですし。レイさんの彼を見る目も、確かに乙女でしたし」
「はぁ――私、実は恋愛経験ゼロなの。対局に人生を捧げてきたようなものだから。
それでも、面倒臭い権力的な交友はあったんだ。からだを求められることもあったけど、うまく掻い潜ってきた。
恥ずかしいけど、ファーストキスでさえまだ……石畳ともしたことはないんだよね……」
皆、俺の石畳をいつまで引っ張るのだろうか……
「私はね、ちゃんと自分を持ってて、それでいて他者を認めることが出来る人を見ると、すごいなって思うの」
「なるほど。彼は『人への恩義を重んじる』と言っていましたからね。何よりイケメンですし!」
「そうなの! 思わぬところで裸を見ちゃったけど、からだもムキムキだったの……って、タコロス、私の裸、二回も見たんじゃない!?」
「いや、二回目は初見のムキムキに目が行ったから……って、俺はそんな趣味無いからな? どっちかと言ったら、凹凸が少なくてもレイのからだを選ぶからな?」
「そう……わかった。視界への出禁と股関蹴りあげるのと、どっちが良いか考えておいてね?」
「――!?」




