49話 俺の憶測その二
現世に再び生を受けた墓男。
物心が付くと、自身がこの世界に帰ってきた転生者だと悟ったのだろう。
そして、自身の『願いを叶える力』に気付いたに違いない。
力を願う人を探し求め始めると、墓男は知ることになる。
神に授かった力では、神を超える力を叶え与えることは出来ない。
だから、せめて変異種討伐に役立つ力を見つけることにした。
でも、墓男はさらに、知ることになる。
そもそも、異世界に人を寄越すためには、その人がそこへ行くことも望んでいなくてはならないのだ。
しかも、その願いが叶うのかも、わからないのだ――
男は悩んだ。何も出来ないまま、五十年という比較的短い生の終わりを悟った。
異世界の『五十年に一度』という何かしらの楔が、自分の中にはまだ残っているのかもしれない。
だから、墓男は死を悟ると、死後にも五十年という楔を残すことにした。
墓男は身内の信用できる人間に、
『五十年後、これから言う力を求める人間を見つけること。全く同じ力は難しいかもしれない。近ければ近いほど望ましい。
その人間を、自分の墓に連れてくるように』
そう、最後にお願いし、自身の生を終えた。
それこそ、そんな力を求める人間を見つける力を与えることは、造作もないことだっただろうが。
生を失う代わりに、叶う願いが大きなものへと変わるはず。
そう、信じて――自身の墓に『願いを叶える力』を宿して――
――憶測を話し終えると、一息ついて、猫神父の反応を窺った。
「にゃん! ――タコさん、物語りの力だけではなく、才能にも恵まれているようですね。えぇ、他の神父にも教えてあげたいくらい面白い憶測でした!」
猫神父は、感想以上の反応を見せることは一切無かった。
――その夜のこと。
コリーが行商の仕事で明朝まで戻らないというので、レイは神の家の女子部屋に泊まることになった。
男子部屋は犬とヨボヨボとじいさんと俺の五人部屋なのに、女子部屋はまさかのミュウの一人部屋。
しかも、広さは全く同じ――
『話をしましょう』
じいさんの提案で、俺たち人間の四人は、女子部屋に集まった。
美女二人を前にドキドキしてしまう俺だが、それは当然で、心臓を握られるかのような、恐怖に近いドキドキだった。
力の制約のため、ドキドキしか出来ない俺。
みんなを集めてその役目を終えたのか、ニコニコと成り行きを見守る姿勢のじいさん。
そんな中、まず口を開いたのはレイだった。
「――ミュウは、おじいさんの力で『力を知る力』を得たんだよね?」
「うん。わたしたちに……この世界に必要な力だと思ったから」
「そうだね。ミュウのその判断はすごく正しいと思った。私もね、実は――同じような願いを考えてるんだ」
「なるほど……レイさんの願いはまだ叶えていませんから。それで、どんな願いなのです?」
「うん。この世界を生き延びるのには、『死なない』『生存』に特化した力が必要だと思う。
でも、『情報』も同じくらい重要。だから、ミュウのそれは私たちにとって貴重な力」
「そうですね。では、情報を得る力を……まさか、大神父様を無理矢理に自白させる力を得たいとか?」
「そうそう。コリーを殴っても蹴っても罵っても、何にも教えてくれないから、新しい力で無理矢理――って、違います」
違うと言いつつ、ここまで自然なノリツッコミが出来るということは、全く考えなかった訳では無さそうだ。
「情報を得る力で最強なのは、タコロスのだと思うんだよね」
俺の呼び名は、女子二人の間ではタコロスに決まっていた。
女子に名前を呼んでもらえるだけで嬉しいはずなのに、そこには偶然にも『殺す』が含まれているからか、素直に喜ぶことが出来ない。
「そう、ですね。では、コタロウさんと同じ力を望むのですか?」
「出来ればそうなんだけど……それをしちゃうと、制約も付いて来ちゃうと思うんだよね」
「確かに。おそらくワタシたちの身に宿る力には、制約が付き物。メリットが大きいほど、デメリットも大きいのでしょう」
「うん、私もそう思う。だから、考えたのは、タコロスの力を共有できないかなっていう願いなの」
「……なるほど」
「うん。さすがレイだね! どうやって覗いてるのかわからないけど、タコロスが覗いているのと同じ視界を、ミュウは見るだけ。見ることしか出来ないという制約の下、それを可能にする……」
「そうなの! どうやって覗いてるかわからないけど、操作とか何やらは無しにして、ただ同じ視界を見るだけ。そうすれば、私は今を知って、皆に伝えることが出来る。
あと、これはついでだけど。私は、タコロスと干渉出来るようにもなるんじゃないかな? たぶんだしついでだけど」
覗き魔の様に扱われるのは心外だが、レイの願いは理に適っている。
世界の今を知って、それを皆で共有出来る人間がいるのは心強い。
しかも、レイは結果を予知することも出来るのだから。
ついでに、俺もレイとだけは干渉し放題――恐怖しか無いんだが?
「じゃあ、ワタシは何と願いましょう?」
「うん。まずは無理そうな大きい願いから始めて、叶わなければどんどん妥協していこうと思うの。
まずは――
『ここにいる四人で現世に帰りたい』
駄目なら、
『ここにいる女子二人で現世に帰りたい』
それも駄目なら、
『せめ私一人だけでも……』
ってお願いしてみて!」
「してみて! じゃないだろ!?」
思わずつっこんでしまうが、じいさんはまるで孫娘の『あれ買って!』をニコニコ叶えるかのように、願いを叶えようと口にし始めた。
だが、それらの願いは一つも叶わなかった。
俺の勝手な推測だが、今の願いは、決して叶わないものでは無かったのではないかと思う。
四人は無理でも、せめて一人なら帰ることが出来たのではないか。
でも、きっと――レイが心からそれを望んでいなかったに違いない。
この世界を攻略するという責任を投げ出して、一人帰る。
そんな選択など一つも持っていないのだろう。
そんな、強く優しい人間なのだ。――強すぎて怖いけど。
「……じゃあ、ここからが本題ね。
『ここにいるオヤマダコタロウを除く三人が、オヤマダコタロウの、物語りする力を共有出来れば良いのに』
と願って下さい。駄目なら、また人数を減らしていって、最後は私を残してみて」
じいさんはニコニコと、またも願いを叶えようと口にし始める。
そして、何も叶わないまま、最後の最後。
「ミオカワレイさんが、何の制約も無く、オヤダマコタロウさんの力を共有できたら良いですね!」
そう口にすると、その直後、レイは空中の何かを見て目を大きくした。
そう、それは、俺がいつも目の前に展開している、転生者の視界画面だった。
「うっわ……あんた、いっつもこんなの見てたわけ!?」
「あぁ。覗いてるって表現はやめて欲しいな。世界の今を知ってるんだよ、俺は」
俺は、レイにそう答えることが出来た。
おそらくそれは、ミュウとじいさんには聞こえなかっただろう。
「ねぇ、これまでの重要なところだけ見ること出来る? ダイジェスト版みたいなのがあれば一番だけど」
「それが、あるんだな! 物語りするのと本を書く用にまとめたのがあるから、まずはそれを見てくれ。ちゃんと倍速も出来るぞ!」
まさか自身の力を共有出来るとは。
全てのセリフを覚えるほど観たアニメを共有するような、そんな高揚感を覚えて、つい早口になってしまう。
しかも、こんな美人と……いや、怖さが大幅に勝るけど――




